妹と遊んでた
Yは夜勤の間に、小学校高学年位に体験した心霊体験を俺に話してくれた。飲食店で使うような銀色のテーブルを挟んで対面となり、俺は何気もなく話し出された幼い記憶に耳を傾ける。
「妹とね、隣の部屋だったんだよ。二階でね」
「うんうん」
「隣同士だから壁を蹴ったり叩いたりしたら聞こえるでしょう?」
「うんうん」
「そんな遊びにハマってて、俺と妹はモールス信号みたくしてお互いの部屋にいながら交信ごっこしてたんだよ」
「なんで?」
「わかんねぇよ、子供の頃なんてよくわかんねー遊びに夢中になったりするもんでしょうが」
Yの話しの腰を折りながら、俺は特段興味も無さそうに机に突っ伏しながら相槌を打った。
「その日も信号ごっこが始まった。昼ごはんを食べたすぐ後だったと思う。……俺と妹との交信手段は何パターンかあって、どちらかが壁を一回叩いたら、相手は二回壁をノックする。これが自分の存在を証明する俺達の間の交信手段」
「結構本格的なんだな」
「うん、それで……ココン、ココンと叩いたらコッコココと返す。脚で強く蹴られたら、三回壁を叩き返す……そんな交信の多くには別に意味はなかった。けれどなんとなくそう返すと決めていた。俺と妹との間にはそんな信号が何パターンかあったん」
「ほうほう」
「……で、その日はまず妹の方から二回壁をノックした。だから俺は決まり通り、コンコン……コンのリズムで応答した」
「記憶ゲームみたいなものか?」
「そうかもな。それで次に俺は壁を強く足蹴りした……ん? いや違ったかな、ココン、ココンと叩いたんだ」
「どっちでもいいよ」
「いや本当だよ、どっちでもいい……まぁとにかくな、妹は取り決め通りの信号パターンで交信して来たんだよ」
「さっきからその訳の分からないで交信ゲームがなんなんだよ」
「居なかったんだ」
「え……?」
「妹はその時、部屋に居なかった。母さんに聞いたら昼ごはんを食べたらすぐに外に遊びに行っちゃったんだってよ」
「あ??」
「俺には他に兄妹もいないだろう? だからさ、あの時俺と交信してたのは誰だったのかなって。しかも俺と妹しか知らないお決まりの信号パターンでさ」
「……ふざけんなてめぇ、これからは俺は一人でこの暗闇の中を巡回しなけりゃならねえんだぞ?」
「うん、だから話した。じゃあ頑張ってな」
Yは出目金みたいにギョロッとした目で、震える俺の背中を見送った。