コロナウイルス感染
コロナウイルスに感染した。
自分は大丈夫だろうと思っていた。
まだ若いし、もし感染しても無症状で済むだろうとたかをくくっていた。
アンチワクチン論者の言説ばかりを調べて、ワクチンを打たない自分への言い訳にしていた。
端的に言うと、症状は深刻を極めた。
40℃の発熱と寒気を繰り返して、しまいには喉の痛みが深刻化してなにも飲み込めなくなった。
俺はこの地に2年前に来た。
貯金はおろか頼れる友人だっていない。
金がない……金が。薬が買えない、今食べられる食料も充分には購入する事が出来ない。病院にだって行けない、金が無いから。
この世は金だと言う事を、今この地獄の縁に立って初めて自覚した。
だけどもう全てが遅い。
すぐに働かなければならない……会社はコロナウイルスの感染者に特別休暇なんかはくれない、有給を消費される。
切羽詰まっている。早く、早く治さなければ、早く仕事に復帰しなければ。
誰も助けてはくれないから。
体が燃えるように熱くて目覚める。かと思えば氷につけられたかの様な寒気に襲われる。電気ストーブに密着して、ケトルで沸かした白湯を飲み続けて激烈な喉の痛みを誤魔化す。
眠れない。全身の灼熱感と喉の奥にタンの絡んだ感覚で何度も目を覚ます。
苦しい、苦しい……こわい。
このまま喉にタンが絡まって息が出来なくなりそうで怖い。
嚥下をするのにガラスを飲み込む様な痛みが走る。
幾度もなく枕元に置いたゴミ箱にタンを吐き続ける。
眠れない。体は極限まで疲弊している筈なのに……
頭が……思考がおかしくなっていくのを感じる。
それからしばらくして、体力の限界を迎えたか、俺はようやく眠る事が出来た。
――その時に妙なものを視た。
夢なのか現実なのかは分からないが、トイレのある廊下へと続くスライドドアが少し空いていて、そこの僅かな隙間から真っ黒い肌の男が、まん丸に見開いた白い目で俺を観察していた。
寸分違わない自分の部屋の間取り。起きた時のまま汚れていた自分の部屋の中で見たその光景を、俺は夢とは思えない。
アイツは何かを待っている。