令和三年八月より行方不明となっていた高松ちひろさん(27歳)が、令和四年十二月十一日朝五時頃、岐阜県○○市△△町のコンビニエンスストア□□店の監視カメラに映り込んだその数十分後に、山口県某所の松の木の
「生っ白い腕が巻き付いててよ
……うん、そうだよ。だからそうだって。大木の向こう側から誰かがピッタリ抱き着いてるみてぇにハッキリと!
……あの山でだよ。その例の木の所で見たんだ。八合目辺りに展望台があるだろ? 誰も来ねぇ草の伸びっぱなしになったあの展望台だよ! なーんにもねぇ町が一望出来んだよ。なんだよアンタなんにも知らねぇのかよ!
……だからよぉ、その展望台の所に一本の松の木があるだろ? そうだよ、そこから振り返ったらまず目に入るあの大木! そこんところに、丁度俺の胸くらいの高さに一本の生っ白い腕が巻き付いてたんだ
……おんなじ事何回言わせんだ。頼むよ刑事さん」
令和三年八月より行方不明となっていた高松ちひろさん(27歳)が、令和四年十二月十一日朝五時頃、岐阜県○○市△△町のコンビニエンスストア□□店の監視カメラに映り込んだその数十分後に、山口県某所の松の木の下で変死体として発見された。この事件の第一発見者は、刑事の取り調べに対してしきりにそう繰り返し続けたと記録に残っている。
「だから、ありゃあ数ヶ月は経ってるよ、本当だって! 骨になっちまって腐った肉に虫がたかってたんだ。だから俺は三十分前にカメラに映ってたっつう、そっちの話しの方が怪しいと思うね!」
ものの三十分程度の感覚を空けて、物理的に不可能である筈の遠く離れた某所に変死体となって被害者が移動したこの事件を、警察は怪事件として取り扱うより他が無かった。