終戦記念日
終戦記念日
心霊なんて信じないけどさ、
……それでも俺は人生で一度だけ心霊体験をしたよ。
それは小学校高学年の頃、母と二人での日帰り旅行で、フェリーに乗って〇〇島に行こうとした時の話なんだけど。
大して長い話じゃないよ、うん。それと、俺には学がないから、なんか、言葉とか間違ってたらごめんな。
それはまだ昼頃の明るい時で、快晴だったと思う。フェリーターミナルに辿り着いた俺と母は、海に向かって突き出した形の船着場に向かって歩いてた。前方には既にフェリーが停まってた。ワクワクが止まらなくなった俺は、母の手を引いてグングン前に引いていく。周囲にはポツリポツリと、多くはないけれど観光客の姿があった事を覚えている。
「戦争の時はね――」
「あら、こんにちは」
俺は母が誰かと話しているのに気が付いて振り返った。するとそこに、母にピタリと寄り添う位の距離まで接近した老婆の姿がある。
「だからねぇ、大事にせにゃあかんのや」
「はいはい、そうですね」
あーあ、変なお婆さんに絡まれてるわ、と子供心に思った俺は、しばらく小難しい話を続ける母の手を引いた。顔なんてあからさまに不機嫌そうにしていたと思う。俺の内心に気付いた母は、老婆の話を途中で断って俺の所にまで駆けてきた。
「もーっ、早く行こうよ! なんなのあのお婆さん!」
俺がそう言って頬を膨らませていると、母は俺の歩みに早歩きで並走しながら、こう言った。
「あれ幽霊だよ」
「……ぇ?」
振り返ると、一本道の筈の船着場に老婆の姿は無かった。
あまりにもハッキリとした姿形でそこに居たので、今でも信じられないが、母にその話をしてみると、その日は丁度終戦記念日だったと聞いた。