黒い黒い黒い黒い黒い! 赤い!
103.黒い黒い黒い黒い黒い! 赤い!
不思議なオバサンを見た事がある。
夏の暑い夜、何となく寝付けなくて近所を散歩してた。俺の住んでるのはベッドタウンだから、家はいっぱいあるんだけど、国道沿いのある家の前で、妙なオバサンが縁側から顔を突き出して国道を眺めてたんだ。
「黒い黒い!」
とか訳のわからねぇ事を真夜中に叫んでるんだ。国道を走ってく車を必死に指差しながら。全然黒色でもない車にだよ? なんかもう顔も夢中で、目見開いて唾とか飛ばしてるんだ。黒い黒いってずっと言ってるんだ。
その時は正直、認知症のオバサンかな? それにしては50代位に見えるし……気の毒だな、位で遠巻きに見てたんだ。
そしたら反対車線の歩道を歩いてる俺を指差して
「赤い! あははこんにちは!」
って言ってきたんだ。ビックリしたけど、何となく会釈してその場を通り過ぎた。なんで俺だけ赤なんだよ……車じゃないからか? 後ろからは車が交通する度に「黒い黒い!」「黒い!」と絶叫に近いくらいのボリュームで叫んでるんだ。
しばらく歩いて国道を離れようとすると、後ろからハッキリと聞こえたんだ。
「赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤いっ!!!」
一心不乱といった感じの声に俺は思わず振り返る。そこに一台の車が走っていたが、普通に黒色のセダンだった。
赤とか黒とか何なんだろうと考えてたら、さっきの黒いセダンが物凄いスピードで俺を追い抜いていった。
その先の大きな交差点にそのセダンは赤信号のまま突っ込んでった。
そんで思いっきり大事故起こしたんだ。
次の日ニュースになってたんだけど、セダンの運転手は死んだらしい。
不思議なオバサンには何が見えていたのだろうか。