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ここは異世界だけど異世界じゃない  作者: トミタミト
異世界生活編
7/18

7.異世界で出会いを求めるのは間違っているだろうか

今回は特に趣味全開の回です。

 木漏れ日が気持ちいい。

 こんな歩道なら僕みたいな運動嫌いでも毎日散歩出来るかもしれない。

 そんな事を呑気に思いながら、僕は一軒のお屋敷の前で足を止めた。


 ……ここに高山ライアが住んでいる。

 確か、そう言っていたはずだ。


 白いレンガの壁にはアイビーが施され、正門から見える中庭には大きな噴水が見えた。

 様々な形式をしたトピアリーに色とりどりの花があしらわれており、値の張りそうな彫像もピカピカに磨かれ、丁重に管理されている。

 ドラマやゲームなんかで見る典型的な中世貴族の館というのが第一印象だった。

 

 反面、侵入者を咎めるためのイバラを模した有刺鉄線が壁上に配置されていたり、いかにも凶暴そうな番犬が庭中をうろついていたりとオールドな見た目に反して、セキュリティは現代レベルで厳重だ。

 監視カメラも複数設置されていて、警備会社のロゴまで貼ってある。

  

 ……こりゃ、お屋敷というよりは城塞だな。

 

 よほどライアは人を近づけさせたくないようで。

 それともこれだけ警備を厳重にするだけの理由があるのだろうか。


 正門のチャイムを鳴らしてみる。


 ……誰も出ない。

 音に番犬が反応して吠え出した。

 思わず僕は身を後ろに引く。


 僕は正直、犬が苦手だ。……確か昔、

 野良犬に追いかけられた記憶があるからだ。


 その時、犬を追い払ってくれたのが……。

 

 確か……誰だったっけ?


 過去の事を思い出そうとすると、どうしても記憶に蓋がされてしまう。

 

 ……とりあえず今の状況を何とかしよう。


 正門はもちろん、鍵が掛かっている。

 横道や裏門らしき場所も見当たらない。

 壁から登って侵入すれば、間違いなく有刺鉄線に傷つけられる。

 仮に怪我を承知で侵入したとしても、次は庭先の番犬に襲われる。

 それにカメラに映れば警備会社がすぐに駆け付けてきて僕は取り押さえられてしまうだろう。

 

 ……空から?


 どうやって空を飛ぶんだ。

 

 ……地面から穴を掘って?


 現実的じゃない。

 

 ……今こそ、【ブラックホール】の使い時か?

 

 とにかく傷つけば正門も犬もカメラも全部吸い込んで、侵入は容易く出来るだろう。


 ……いやいやいや、僕はつい最近災害級の事件を起こしたばかりじゃないか。

 間違えて屋敷ごと吸い込んでしまったら元も子も無い。なるべく穏便に物事を済ませたいので、ブラックホールに頼るのは出来るだけ避けたい。

 

 何か、方法があるはずだ。


 ……何かが。


「おい」


 心臓が飛び出るかと思った。

 僕が後ろを振り向くと、そこには藤宮アグニが立っていた。


「やはり来たか、春野カオス。貴様をライアに会わせるわけにはいかない。……ここで死んでもらう」


 アグニは持っていたスマホにタッチして、



≪【フレイム】、【被服クロース】≫



 二つの技能スキルをスワイプし合体させた。

 SSSの認証音と共に、アグニの体が炎に包まれていく。



≪【炎のフレイムアーマー】≫


  

≪ヒノヨージン!カンカンカーン!≫

 

 

 おお、スキルを組み合わせることも出来るんだな。

 

 消防車の鐘のような音を鳴らし、アグニは炎の鎧に包まれた。


 彼の能力は【炎】か。

 うん、純粋に派手でかっこいい。

 僕もこんな使いづらい能力じゃなくてああいうのが使いたい。

 

 彼はスマホをポケットに素早く仕舞い、こちらに向かってくる。


「あっ、あちっ!」

 

 すごい熱量だ。

 歩くだけで周りの植物が次々と水分を奪われ、枯れていく。


「おい、やめろって! 火事になるだろ!」


「覚悟しろ春野カオス!」


 無視して殴りかかってきた。僕はすんでのところでそれを回避する。

 僕の眼鏡がアグニの拳にかすって吹っ飛んだ。眼鏡のフレームが熱で溶けている。

 直撃すれば僕の顔面がああなっていただろう、考えただけでも恐ろしい。

 

 っておい。


「おおおい! 眼鏡って割と高いんだぞ! 弁償しろよマジで!」


「問答無用!」


 こいつ勝手に自分の事は話して、人の話は全く聞かないタイプだな?

 僕は高熱から逃れるため、彼から離れ距離を取ろうと走る。

 

 ……アグニは猛ダッシュで追いかけてくる。

 

 やばいよ、あいつ目がマジだよ。


「ちょこまかと、うっとうしい!」



≪【フレイム】、【ボルト】≫



≪【炎の一矢ファイアボルト】≫



≪ヒィヤ!ヒィヤ!Yearaaaa!≫



 アグニが出鱈目に炎の矢を放つ。

 せっかく綺麗に装飾された花壇や植樹が黒焦げだ。


 こいつ、お構いなしかよ。

 

 火矢が僕の足に届き、命中した。  

 脚部に痛みが襲う。僕はバランスを崩し、地面に崩れ落ちた。

 僕はアグニに足で身体を抑えつけられ、動きを封じられてしまった。


「一応、聞いておいてやる。何か言い残すことは無いか?」


「……獲物を前に舌なめずりするのは三流のする事だぜ?」


「ほざけ!」


 目の前でアグニの拳が燃え上がり、僕は思いっきり殴られた。


「!?」


 殴られる瞬間。

 寸前でアグニの炎は消えた。

 僕は頬に受けた衝撃を受け止め、その場で痛みに耐える。

 

「痛え……ガチで口が切れたぞ」


「どうして俺の能力が消えた? ……はっ!」

 

 僕の足先は彼のズボンを掠めていた。

 結果、アグニのズボンのポケットは無くなっている。


 ……ナナオ達の言っていた通りだ。

 

 【ネームド】はSSSが無ければスキルが発揮できない。

 アグニが耐熱性のある鎧を装着した際、スマホが故障しないように素早く防備していた時点で何となく察しは付いていた。

 いくらスキルで自身は強化出来てもSSSが内蔵されているスマホ自体はただの携帯端末。

 

 ネームドが発揮した能力に耐えられないほど、()()のだ。


 

 そして、

 

 【ブラックホール】。


 僕の足が火傷した時点でその能力は発動していた。

 

 発動した事を悟られないよう挑発して視線を誘導しながら僕は足先で発生したブラックホールでポケットの袋ごと彼のスマホを吸い込んだのである。


 アグニは一旦僕と距離を取り臨戦態勢を取った。

 僕も血の味のする唇を拭って、その場から立ち上がり、未知の能力に警戒するアグニに対峙する。

 

 「くそっ! スキルなんてなくても貴様一人くらい!」


 アグニはやけになりながら、僕に殴りかかってきた。

 

 単純な肉弾戦。

 現実世界ならば、きっと僕は目の前の脳筋に負けていただろう。

 

 でもここは異世界で僕は今、チートスキルを持っている。

 

 勝負は決まった。 


 僕は右の頬をアグニの拳に差し出す。

 彼の拳は黒い空間に吸い込まれていった。

 アグニは驚き、思わず手を引く。

 僕は左頬を差し出した。


「右の頬をぶたれれば、左の頬を差し出しなさいって言うだろ?」


「聖者がこんな不気味なもの発生させるか!」


 アグニが振りかぶって回し蹴りを放つ。

 僕はそれに合わせ自分の足でその攻撃を防御した。

 発生したブラックホールが彼のズボンに吸着し、……下を脱がし、彼を地面に転がした。


「貴様! ふざけるな!」


「おやおや~? 有利なのはどっちかよく考えるんだな?あんまり調子に乗ってるとパンツまで吸い込んじゃうよ?」


 これ以上敵対させないため柄にもなく、いきってみる。

 僕は黒いもやが発生している足を振り、相手を威嚇した。

 

 結果、アグニは青ざめて自身の下着を掴み、その場で固まってしまった。

 彼は戦意喪失してしまったようなので僕は彼に説得を試みる。 


「まずは話を聞けって。……どうして僕がライアに会っちゃいけないんだ? 僕はライアの友人だぞ? 君だってそうだ。争う理由なんて無いはずだろ?」


「うるさい黙れ! 何も知らないお前に何が分かる!」


 いやいや、分かるように説明してください。

 

「ライアは俺が守る! 例え全裸にさせられても俺はここを通さんからな!」


 ……この門を守るパンツマンの焦りよう。

 ただズボンを脱がされた羞恥心だけでは無いな?


 ……はは~ん。さては。


「お前、もしかしてライアの事が好きなのか?」


「なっ……! 違う! ……そんなんじゃない! そんなんじゃないからな! 勘違いするなよ!」


 うわっ、何て分かりやすい。今時いないぜ、こんな純朴な奴。


 ふむ、アグニがライアを好いてるのだとしたら彼は僕の恋のライバルという事になる。

 僕もライアの事が誰よりも好きだと思っている。

 だから彼には悪いけどこの話題、一歩も引けないぞ。


「これ以上の戦いは不毛だ。頼む、僕をライアに会わせてくれ。アグニは何かしらの連絡手段を持ってるんだろ? 屋敷の警戒を解いて彼女の元に案内してくれないか?」


「断る」


 かーっ、強情な男だね。


 ……なら仕方ない。

 少々強引な手を使わせてもらうほかあるまい。


 僕は切れた口内からブラックホールを発生させ、彼の所持品を全て奪い取った。


 そう、全てだ。

 

 何、命までは奪いはしない。

 彼ごと吸い込みそうになったらやめるつもりだ。

 

 

 ……約数分後。

 僕はボロキレになったアグニの服の内ポケットにそれらしい【鍵】が入っているのを発見した。

 

 ……地面には全裸の男がうつ伏せで倒れ、泣きべそをかいている。


 別に僕はそんな趣味無いんだけどなあ。

 どうせなら女の子にしたい……

 おっと、話がそれたな。


 僕は細かい装飾が施された鍵を見つめる。

 どうやら、これがお屋敷前門の鍵らしい。

 合鍵まで持ってるなんてこいつライアとどういう関係なんだ。

 

 ……やっぱり少々痛めつけておくか?


「ぐすっ、ひぐっ。ぐぅう……」


 ……いや、今の状況の時点であまりにも無様で可哀そうだ。これ以上彼に対して責め苦を行うのはさすがに気が引ける。

 僕は屋敷の警戒を解かせるため、彼に問う。


「おい、鍵はともかく犬や監視カメラはどうするんだ」


「………」


「……今の写真を撮ってライアに見せるぞ」


「ぐっ……!? ………SSSで【忍び足】スキルを買ってそれにパスワードを入力すれば屋敷のセキュリティは解ける……。パスワードは【liar.games】だ。それを使用すれば、番犬に気づかれないしカメラにも感知されない」


 なるほどスキルか。

 忍び足……これか?


≪春野カオスは【忍び足】のスキルを得た≫


 僕は、ストアページの【忍び足】を8000ポイントで購入した。

 ナナオからもらったポイントがほぼ無くなってしまったが話を聞く限りこれでお屋敷に楽々侵入できるらしい。


 僕は地面に転がる眼鏡を拾い上げ、埃を払った。

 あああ、フレームが熱で溶けてる。

 かけられないことは無いが少し動けば顔からずり落ちてしまうだろう。 

 

 僕は黙って、全裸の彼を睨みつけた。


「………」


「写真」


「ぐっ……! ……スキルだ! 【修理リペア】スキルで解決する! このスキルは買値は無料だが使用するときにポイントを消費するスキルだ! 装備の破損が多いネームドにとって基本中の基本だから取っておけ!」


 さすが全裸先輩、頼りになります。  


≪春野カオスは【修理リペア】のスキルを得た≫


 僕はSSSのストアから【修理リペア】を購入した。

 早速僕は1000ポイントを消費し画面をタッチして効果を発動させる。


≪【修理リペア】≫


 眼鏡のフレーム部分が光り輝き次の瞬間には、元通りになっていた。

 

 おお、ガラス面の汚れや傷も綺麗になってるじゃないか。

 最高かよ。ここでは眼鏡屋は開けないな。 


 SSSは予想以上に便利な機能が充実しているようだ。

 困ったことがあれば、頼ってみると言う選択肢もあるかもしれない。


「色々教えてくれてありがとな、アグニ」


 僕は彼にタオルを投げ渡した。

 先ほどストアの初回購入特典で貰えた無料の一品だ。

 綿100パーセントで良い匂いが付いている。


「情けのつもりか! ……くそっ!覚えてろ、春野カオス! この屈辱はいずれ倍にして返してやる!」


 アグニはタオルで股間を隠しながら、小道を走り去っていった。

 

 大丈夫かなあいつ。明日の新聞に載らなきゃいいけど。


「痛っ」


 頭痛がする。さすがに無理をしたか?

 ……思いっきり殴られたもんな。

 

 少しして痛みは治まった。

 能力の治癒効果が発動したようだ。


 僕は安心してさっそく【忍び足】を使用し、それに言われたパスワードを設定する。


≪【忍び足】≫


 自分の体に青いオーラが覆われた。


 うん、これでOK。

 

 ……なのか?ずいぶんとあっさりだな。正直半信半疑だぞ。

 

 僕は前門の鍵を回し鉄製の扉を開け、お屋敷の庭へと足を踏み入れる。


 ……ここにライアがいる。


 僕は彼女との再開を間近に心躍らせていた。

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