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ここは異世界だけど異世界じゃない  作者: トミタミト
異世界生活編
6/18

6.ようこそ能力至上主義の街へ

「……僕を警察に通報する気ですか?」


 目の前にいるのは、中年と幼女。

 もやしっ子の僕でも、今のスキルがあれば容易に倒せるだろう。

 僕は自身の目的のため助けてくれた人間に対して愚かにも牙をむこうとしていた。

  

「え、そんな事しないよー意味ないしー。それにわざとじゃないんでしょー? なら、許す!」


 ……僕の覚悟はものの数秒であっさりと否定されてしまった。


「ネームドには独自のルールが適用されているんだ。ネームドは法律的に【物】扱い。法律は【人間】のルールであってネームドには適用されない。……仮に人が名前持ちを傷つけたら、それは【器物破損】になる。逆にネームドが人を傷つけた場合は【災害事故】として扱われる。君自身が罪に問われ逮捕されることは無いよ」


 なるほど、ならいいや。


 っておい。


 そうすぐに納得できるほど僕はサイコパスではないぞ。

 僕は人を傷つければ犯罪になる世界から来ているんだ。

 異世界では罪にならないからってそう簡単に割り切れるものではない。

 自意識は無かったとはいえ、確かに僕は多くの人を傷つけ破壊の限りを尽くした。

 それはまぎれもない真実なんだ。

 自責の念に苛まれるのはいたって普通の感情だろう?


「でも……これだけの人たちを僕は……」


「そうだ、君にこれを渡しておくよ」


 落ち込む僕にナナオがスマホを手渡した。


「君のスキルには関係ないけど……この世界でネームドとして生きるなら、SSSの助けは必要不可欠だからね。元々の君のは……見つからなかった。きっと……君のブラックホールが吸い込んでしまったんだと思う。私のお古ですまないが、良ければ使ってくれ」

 

 ……どうして?

 

 僕はもしかしたら貴方達の命を奪っていたかもしれないのに、どうしてこんな僕に対して彼らは助けてくれるんだろう。

 

「いりません。こんなのを持っているからネームドは人を傷つけてしまうんでしょう。僕は人を傷つけてまで願いを叶えたいとは思いません」


「あまちゃんねー、本当に願いを叶えたかったら周りの事なんかなりふり構っていられないよー?」


「そうかもね、でも君は命をかけて私をエビから救ってくれただろう?大した根拠じゃないけど、君の性格ならその能力を決して悪いようには使わないと私は思うんだ。だから私は君と君の能力を信じる。これは未来ある若者を応援したいと思っている中年からのささやかな餞別さ」

 

 ……どこまで良い人なんだおじさん。

 

 スマホを受け取った僕は感動のあまり、無意識に目から涙がこぼれていた。


「泣くなよー! おなか痛いのかー? 頓服とんぷくを処方しよっかー?」


「もちろん研究者として君のことをもっと調べたいとは思う。でも君にどんな薬品や医療器具を使ったって、全てブラックホールに吸い込まれてしまうから何をしても意味が無い。……正直これ以上は私たちでもお手上げなんだ。だから、君は今日で退院。どこにでもいって君のしたいことをすればいい。私たちにそれを害する権利は無い。それがネームドとしてここにやってきた者の定めさ」


 ……こんな良い人達を間違えて殺めてしまう事は絶対にしたくない。そう思う限り、僕は悪に染まることは決して出来ないだろう。


「それに待たせている人がいるのならすぐに向かって上げなさい。その子の事を本気で思っているならね」

 

「フロントは人が多いだろうから、裏からこっそりエスケープするのです、この泣き虫めー」


「本当に、本当にありがとうございました!」

 

 僕は精いっぱいのお礼として二人に頭を下げ、病室から出て行った。

 目指すはSSSがライアが住んでいると言っていた【名持ち街】。

 どんな場所かも分からないが、今は立ち止まってなんかいられない。

 

 僕を支えてくれた人達の為にも、

 僕は必ず願いを叶えて見せる。





「……スイート。若いっていいですねぇー」


「おや進藤博士、化けの皮がはがれてきているんじゃないですか?」


「失礼なー! ナナオだって時々女っぽいトークになってますよー! あとワタシの事はグレースと呼びなさいと何度も言ってるでしょーがー!」


「あはは、じゃあお互い様だね、進藤博士……いや、私の特別なグレースちゃん」


 

 私たちはお互い進む道は違えど、命を救う仕事に就きたいと思っていた。

 道半ばでこちらに転移して、戦うことを知らされた時も生命を傷つける行為など決してしたくなかった。

 ……例えこの世界では【物】扱いだろうがね。

 そんな臆病な私たちが願いを叶えるために渡した代償は()()だった。

 お互い時間は果てしなくかかった。

 だが、戦う意思の無い私たちでも願いを叶えることは出来たのだ。

 

 ……誰よりも願いを叶えたいと強い意志を持つ君ならきっと、もっと早く願いを叶えられるはずさ。


 陰ながら私は応援しているよ、春野カオス君。





 僕のSSSのマイページには10000ポイントの残高が入っていた。

 きっと、ナナオが気を利かせてくれたのだろう。

 このポイントは大事に使わなければ。





 ……残り9800ポイント。

 

 時間は昼前ぐらいになっただろうか。

 僕は現在見慣れた自動販売機から見慣れない清涼飲料水を取り出し摂取している。

 

 ジュース買ってんじゃねーよハゲ!と思ったそこの方、僕は昨日から何も食べてないんだぞ。

 水分補給くらいしたっていいじゃないか。


 ……ふう、ゆっくりとはいえ普段こんなに歩かないから疲れたぞ。


 当然といえば当然だが、地下鉄は昨日の騒ぎで警察により封鎖されていた。

 よって移動は歩きである。

 

 僕はクリニックの裏口からこっそり出て行った後、ナナオから聞いた情報を頼りに、名持ち街へ向かっていた。

 街の名前が掲示されているだろう看板の文字は読めないので時々通行人に道を聞きながら僕は街道を歩く。

 どの住民も至極丁寧に道案内をしてくれた。

 僕は地図が描かれたメモを見ながら、名持ち街の道へと進んでいく。

  

 

 ……かれこれ駅前から数時間ぐらい歩いている。

 僕はようやくそれらしい場所へ辿り着いた。


「ここが名持ち街?」


 がらりと雰囲気が変わった。

 

 異世界に来た時のような感覚ではなく、単純に建築様式に関してだ。

 先ほどの都会の街のビル群とは大きく異なる、バロック? それともゴシック? って言うのか?

 ……良くは知らないがヨーロッパの中世の街のような洋風建築だ。

 僕の感覚で言えば、映画やゲームの舞台になりそうな場所だと感じた。


「はぇ~……すっごい」


 僕はその絢爛けんらんな景色に思わず感嘆の声を漏らした。

 先ほどの都会とはうってかわって、今にでもお姫様やその従者が歩いてきそうな雰囲気。

 皆が憧れる、剣と魔法のファンタジー世界がここにはあった。

 

 異世界らしくなってきたといえばなってきたか?


 ……僕は柄にもなくワクワクしている。


「きゃああああ!」


 唐突な叫び声。

 僕はすぐさまその方向を向き、警戒する。

 

 モンスターだ。


 豚鼻オークみたいなモンスターに女の人が襲われている。


 ……今の僕なら、あれくらいいけるか?


 僕は襲われている人を助けるために、地面の石を拾う。

 いざという時の為に、自分の肌を傷つけてブラックホールを発生させるためだ。

 もちろん、傷つけるのはほんのちょっぴりにする。

 出力を間違えれば、周りを巻き込んでしまうし何より自分が痛いのは嫌だからな。

 

 僕は覚悟を決めて、モンスターに突進する。


「うおおおおお!その人から手を放せモンスタあああ!!!」


 僕は叫び、モンスターに体当たりを仕掛けた。

 モンスターは面白いように吹っ飛び、うめき声を上げ、地面に転がっていく。


「さあ、早くここから逃げて!」


「え……?え……?」


 女の人は混乱しているようだった。

 確かにこんな状況では仕方ない。

 僕は女の人の前に立ち、モンスターから彼女を守る。

 

 僕は決して良い人達の犠牲を出したくない。

 

 その為にも僕は、


「カットー! カットー! ちょっと君ぃ、困るよー!」


 …………へ?

 

 周りには複数のカメラマンとごてごてした衣装を着た数人が立っていた。体当たりでぶっ飛ばしたモンスターの頭が取れている。

 

 人間だ。人間の頭が見える。

 

 彼は人間で、これは着ぐるみだ。


「……あ、ああ~。そういう事? ……ご、ごめんなさい! すみません!」


 

 ……ここはどうやら現実世界でいうところの映画村のような場所で、彼らは映画撮影のクルーだったようだ。





「あはははは! 君、中々の名演技だったぜ! でも役者志望ならまずはウチの会社でオーディションを受けてからにしてくれよな! あはははは!」


 スタッフの休憩所で監督らしき人に僕は爆笑されている。


「でも助けてくれた君の姿、ちょっとカッコよかったよ」

 

 他のスタッフと笑いながら、女優さんがお世辞を言ってくる。

 その優しさが余計に心を痛める。


「……本当に申し訳ありません、撮影を中断させてしまったみたいで、本当にすみません」


「あはは、大丈夫大丈夫。ちょうど次撮り終わったら休憩にしようと思っていたところさ。まあコーヒーでも飲んで落ち着きなよ」


 僕は勧められるがままにコーヒーを啜る。

 

 ……緊張で味がしない。

 

 決して薄すぎるわけではないコーヒーを僕は機械的に胃に流し込む。


「そうだ君、エキストラでもいいから出てみる?」


「いえ、急いでいるのでそれは遠慮させてください。……それより聞きたい事があるんですが」


「おお、勇者よ。何でも願いを言ってみるがよい」


 監督が大げさに演技し質問に答えた。

 後ろでスタッフが笑っている。

 僕は無視して、発言を続けることにする。


「この辺りに高山ライア……さんのお宅があると聞いているのですがどこにあるか知っていますか?」


 我ながら不自然な敬語になったと思う。

 だがその言葉を聞いた瞬間、撮影クルー達は固まった。


「君、もしかしてネームド?……魔王、高山ライアと知り合いなのか?」


 ……魔王だって? 随分大層な名前で呼ばれているんだな。


「そうです、僕は春野カオス。この世界からライアを連れ戻すためにやってきました」


「この世界……?良くは分からないが、高山ライアはこの道を進んでいった先の名持ち街の中心区のお屋敷に住んでいるはずだ。君には悪いけど、ボクたちの事を思うならこれ以上関わらないでくれ」

 

 映画監督はそう言うと、スタッフと共にささっと撤収して行ってしまった。


 ……態度が急変したな。

 一般市民にとってはモンスターもネームドも同じだって事か? 

 

 僕は嫌な気持ちを感じながらも綺麗に装飾された石畳の小道を進み、お屋敷へ向かうことにした。

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