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ここは異世界だけど異世界じゃない  作者: トミタミト
異世界生活編
5/18

5.幼女戦医

 まるで大災害でも起こったかのような混乱ぶりだ。


 ……これを僕が?


「回診のお時間でーす♪」

 

 僕が呆然と外の凄惨な景色を見ていると 能天気な声が病室の出入り口から響いた。


「……子供?」


 年齢からしてまさか看護師というわけでもないだろう。

 

 紛れもない幼女だ。

 

 白衣を着た金髪ツインテールの幼女が僕の目の前に現れた。


「お医者さんごっこか?」


「ノー! 私はれっきとした社会人でーす! 博士号も取ったことがある、とってもえらーい人! ドゥーユーアンダースターン?」

 

 幼女は無い胸を張り、小さな鼻を鳴らしている。

 

「はいはい、分かったからお母さんの所へお帰り」


「も~! 少しは信じろ! 信じてくださいー!」


「まあまあ進藤しんどう博士、その姿では全然説得力がありませんよ」


 後ろから恰幅のいいスーツの男が部屋に入ってきた。


「ホワッツ!? やはりそうですか……。それとその名前で呼ぶのは止めなさい! ワタシの事はグレースと呼ぶのです!」

 

 彼の孫か何かなのだろうか?

 とても親し気に会話している様を僕は見せつけられている。


 ……っておじさん!?


 その恰幅のいい男は先ほどエビに襲われていたおじさんだった。


「さっきは助けてくれてありがとう、夜遊び君。……いや、春野カオス君だったかな。すまないね、君の身元が分からなかったから進藤博士に……」


「むっ」


「……グレースに無理を言って勝手にSSSのネームド登録データの履歴を調べさせてもらったよ」


 ……彼が生きていて、本当に良かった。僕の行動は無駄ではなかった。

 

 おじさんは部屋の椅子に腰かけ、幼女を自分の膝に座らせた。


「自己紹介がまだだったね、私は矢的七緒やまとナナオ僭越せんえつながらこの街で医療関係者として身を置いている者さ。……そして私の膝にいるのは、進藤グレース(しんどう)博士。SSSの開発者の一人で、こんな見た目だけども世界で随一の科学者と呼ばれているんだ」


「こんな見た目とは失礼ですねー! プリティでしょー!」


「分かった分かった、世界一可愛いよ!」


「あはは!」


 ……仲がよろしいことで。 

 

「君は私の命の恩人だ。私は開業医でね、ここは私のクリニックなんだ。助けてくれたお礼と言うのも何だが、傷が癒えるまでゆっくりしていってくれたまえ」


「はい、ありがとうございます。でも、もう大丈夫みたいです。ここの病院の治療のおかげか毒もすっかり抜けたみたいで」


「昨日の夜からずっと眠っていたんだよ?……本当に何とも無いかね?」


 僕は朝までぐっすりと爆睡していたのか。

 どうりで随分と目覚めがいいはずだ。


「……何とも無いですね」


 ナナオはそれを聞くと、グレースに耳打ちして相談し始めた。

 少ししてこちらを向き、ゆっくりと話しかける。 


「……実は私は君に何も治療していないんだ。いや、出来なかったといった方が正しいかな?」


 一体どういうことだ?

 

 エビに襲われた時、僕の身に一体何が?

 僕は自身の体をまじまじと見る。怪我一つない。いたって健康だ。


「ねっ、言ったとおりでしょー? SSSのバグだとしたら、ちょっと開発者として放っておけないって思ったわけー!」


 ナナオは髭をいじくりまわす幼女を無視して顎に手を当てながら少し考え事をしたのち、


「……ちょっと診察室まで来て貰えないだろうか」


 僕にそう告げた。



 診察室。


 僕は正直言ってこういう場は苦手である。

 こういう場合は大抵、重い病気や怪我を宣告されるって相場が決まっているからだ。


「これが君のレントゲン写真だ」


 ナナオがホワイトボードに写真を貼っていく。

 放射線で写された内臓の写真は、一部分が黒い影で塗りつぶされていた。


「……こ、これはまさか……!」


「ああ、多量のたばこの摂取が原因で出来たがんだよ」


 ガーン!


 そ、そんな……若くして僕は何て重病を。


 っておいおい。


「……おじさん。僕、未成年です。誓ってたばこなんて吸ってません」


「おやぁ?」


「Mr.ナナオ、これは別の患者さんのレントゲンねー! カオス君のはこっちー!」


 奥からグレースがナナオに写真を投げ渡した。


「……これが君のレントゲン写真だ」


 まるで何事もなかったかのように仕切り直した。

 

 おじさん……意外と天然?


「というよりこれはどういう事です?」

 

 ともかく僕は目を疑った。


 内臓に影があるどころじゃない。

 

 全身が()()()だ。


 僕の中身は一体どこにいってしまったんだ?


 これじゃあまるで……。


「内臓が無いぞ……」


「ちょっとチクッとするよぉー」


 突然グレースに医療用のメスで腕を切られた。


「痛っーーー! な、なにすんだこの幼女! いくら幼女でもして良い事と悪い事があるぞ!?」


「……傷口を見てごらん」


 ううぅ、これだけ深く切られれば傷口からどばーっと血が……。

 

 …………あれ?出ないぞ?

 

 代わりに黒いもやのようなものが腕から溢れている。


「なんだよ……これ」


「こういう事ぉー」


 グレースが傷口に向かってボールペンを投げつける。

 するとペンは傷口に吸い込まれ、跡形もなく消え去っていった。


「えええええ!?」


「すまない、今包帯を巻くよ」

 

 僕は言われるがままにナナオに傷の治療をされた。


 ……今、ペンが腕に吸い込まれたよな?


 もちろん消失マジックを覚えた記憶も無いぞ。

 一体僕の体はどうしてしまったというんだ?


「【暗黒空間ブラックホール】。君がSSSによって能力を付与される際、データアクセス中に障害が発生し何らかのエラーを起こした結果、体にブラックホールのような性質を宿ってしまったと私たちは考えている」

 

 ブラックホールだって?

 それってあの宇宙にある何でも吸い込むアレの事だよな?

 

 ……そんな能力スキルが僕に? 


「ネームドのスキルは様々だが、それは必ずSSSにリンクしている。SSSにアクセスし、スキルを使用するポイントを利用した時に初めて能力を使用する事が出来る。当然ポイントが無くなれば能力は使えないし、スマホのバッテリーが無くなったり、端末自体を紛失してもスキルの使用は出来なくなる。だが今現在、君のブラックホールはそれと関係なく常に発動しているみたいなんだ。……今までそんなスキルは見たことも聞いたことも無い。……前代未聞だよ」

 

 ゲームで例えるなら常時技能パッシブスキルといったところか?この世界ではどうやら珍しいものらしい。

 

 グレースが椅子から身を乗り出し、説明に参加する。


「Mr.ナナオはエビから逃げた時、突如後方にブラックホールが発生してらしくてさー。吸い込まれないように必死に耐えて少ししたら引力も弱まってきて、気が付いた頃には、くだんの爆心地にユーが倒れていたらしいよ。それで君を保護しようってことになったわけー。でも能力が治まった状態でも救急隊員の体が吸い込まれそうになったりして、ここまで運び込むのがめちゃ大変だったみたいだねー。あ、エビから受けた毒の方は安心してOKよ。だってブラックホールなんだから。受けた毒もどっかにいっちゃったみたい」

 

 ……どうやら僕の知らないところでいろんな人間に迷惑が掛かっていたようだ。

 

 うう、自責の念に押しつぶされそう。


「そんな暗い顔しなくてもいいよー、幸い死者は出なかったんだからー」


「……本当か?」


「うん、たまたま通りかかった藤宮アグニ君も積極的に救助活動をしてくれてねー。夜中ずっと休むことなく働いてたよー。彼がいなかったらもっと被害が大きくなってたかもねー」


 ……僕に対してはツンツンしてるけど実は滅茶苦茶良い奴だったりする?


「まあ、人は軽傷で済んだけど建物の復旧は少々時間がかかるみたいだねー」


 ……やっぱりそうだよな。

 これだけやっといて被害ゼロな訳がない。


「パトカーも救急車もさっきからひっきりなしに道路を通ってるねー。昨日の夜から作業しているのに、まだ街中はパニック状態だよー」


「ネームドによるクエスト中の事故は決して珍しくは無いが……。これほどの規模の崩壊は滅多に無いね」


 ナナオは僕の腕を掴み、おもむろに包帯を取り外した。

 先刻、メスで傷つけられた腕は何事も無かったかのように完治していた。 


「どうやら君が傷ついたり死の危険を感じれば、君自身を防衛するようにブラックホールが

 発生するようだね。そしてそのスキルの影響なのか、通常より遥かに速い速度で君の傷は塞がる。……このスキルは文明ひとつを傾かせかねない、とても危険な能力だと言える。もう少し君の傷が塞がるのが遅ければこの街はどうなっていたか……市民が君の存在に気づいて、もっと騒ぎになる前に私たちが保護して正解だったよ」

 

 ……異世界に来て速攻こんな大事故を起こしてしまった。

 現実と同じルールをしているなら、僕はテロリスト、大量殺人未遂の現行犯じゃないか。

 警察に捕えられれば懲役刑、下手をすれば死刑だ。それだけは絶対に嫌だ。


 僕には、待たせている人がいる。

 悠長に待てる時間なんて無いのに。

 僕はこのまま捕まって人生終わってしまうのか?

 

 

 ……そうだ、こんなチートスキルが手に入ったんだ。

 いっそのこと悪に染まってしまっても……。

 

 僕は緊張しながら目の前の二人を見つめ、ごくりと唾を飲み込んだ。

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