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ここは異世界だけど異世界じゃない  作者: トミタミト
異世界生活編
18/18

18.カオスですが、何か?



 視界が明るくなっていく。

 僕はベッドで目を覚ました。

 

「ライア?」


 ベッドの脇でライアが眠りこけている。

 ずっと看病してくれていたのだろうか。

 

 確か僕たちは礼堂ギンカと戦い、彼女は悔し紛れに僕の秘密を叫んだ。

 その結果、僕の精神は崩壊し気が付いたらベッドの上。


 ……一体あの後、僕の身に何があったのだろうかは

 大体想像がつく。

 

 また能力ブラックホールを暴走させてしまった。

 また同じ過ちを繰り返してしまった。

 僕は何て愚かな人間なんだ。


「目が覚めたですかー?バグの申し子ー」


 病室の奥から進藤グレースがやってきた。


 よく見たら天井に大型ダクトがあったり周囲に実験器具が散乱している。


 よく見たらここは病院じゃない?


「ここはグレースのラボでーす。日々SSSの能力研究を行っているスペースとなってまーす。私は君の能力を調べるためにスタッフに頼んで君をここまで連れてきましたー」


「他の……皆は?」


「安心してくださーい。君は人を吸い込んだりはしてませーん。君の能力が暴走した瞬間、ブラックホール能力を抑えるためライアが【制御服ブリードアーマー】を着させましたからー。万が一の事を考えて私が作った制御服を渡していましたがどうやら正解だったようですねえー」


 ……ライアが助けてくれたのか。

 全く彼女には頭が上がらない。


「体調はどうですか~? 苦しいとか痛いとかはノープロブレム?」


「大丈夫です、でもただ何だか体が重いような………」


「そりゃ、制御服ブリードアーマーを装着してますからねー」


 目が覚めてからずっと違和感を感じていた。

 非常に暑苦しいのでその制御服というのを僕は脱ごうとする。


 ……脱げない。

 服という割には身体を通す穴が無いというか……。

 まるで隙間の無い甲冑を来ている様だ。


「あの、……脱げないんですけど。……脱がしてくれませんか?」


 グレースはにやりと笑った。


「それは出来ませーん。これは手動で脱ぐことは絶対に出来ませんし、今それを脱いでしまったら私たち死んでしまいまーす」


 ……どういうことだ?


「……スローペースでお聞き、バグの申し子。今のあなたは常に不安定な状態、全身ブラックホール状態なのです。よってそれを脱いでしまったら……。だからそれを外すことは許可できませーん」


 ……え?


 僕は手のひらを見つめる。

 鋼鉄の指が可動域を擦り、機械音を鳴らした。

 

 僕は顔を触る。ゴツンとぶつかった。

 ヘルメットのバイザーの感覚。

 

 立ち上がり、目の前の鏡で自身を確認してみる。


 僕の姿は全身黒い鎧を身に着けた異形の姿へと変貌していた。


「冗談だろ?」


 これじゃ誰が誰だか分からないじゃないか。


 グレースはゴトリと机に緑色のビンを置いた。


「はい、これが君の食事。この制御服を維持するには約1.2ジゴワットの電力が必要なの。そのエネルギーを確保するため、君は一日3回この【特製ブドウ糖液】を摂取するよろし。そうすれば体内に埋め込まれたナノマシンが君の栄養を自動的に電力に変換するから」


 え?ナノマシン?


 それに自動的に電力に変換って。


 僕、許可もなくいつの間に人体改造されてんの?

 

「さあ、ぐいっとお飲み。挿入口は脊髄せきずいの部分よ」

 

 この博士は口が首の後ろにある生物がいるとでも思っているのか?


 僕は嫌々、首の後ろにある挿入口を開け、緑色のビンを差し込んだ。


 ……ピーナッツバターに糞を混ぜたような味がする……これはひどい。


「おトイレは行かなくても大丈夫よ。制御服が装着された時点で、栄養が完全に分解されるようナノマシンが君の体に侵入して改造しましたからー」


 僕の人としての尊厳はどこにいった?


「思えば初めからこうしておけば良かったと思っていまーす。君の能力は正にインビジブル。現実世界で死んで転生しているからこそ生まれた未知数の存在なのでーす。もっと深く根掘り葉掘り調べるためにこうやって監禁しておくべきでしたー」


 ……監禁だと? このマッドサイエンティストめ。

 幼女だからって何しても許されると思うなよ?


「僕をこれからどうするつもりなんだ?」


「私のラボで責任持ってバグの経過を観察しまーす。これからは私のラボに通って診断を受けてくださーい。拒否権はありませーん。君のエネルギーが切れると、その制御服は動かなくなりますからー。それまでにラボで特製ブドウ糖液を貰って摂取してくださいねー」

 

 うう。まるで末期患者みたいじゃないか。

 僕はため息をつきながらベッドの脇で眠っているライアに毛布をかけた。


 目覚める気配は無い。

 今頃は現実で闘病生活をしているのだろうか。

 

 そうだ、こんな事ぐらいで絶望するわけにはいかない。

 一度は失った命。今更身体がどうなろうとも僕の意思は変わらない。


 グレースの方を振り向き、僕は答える。


「僕はこれから一体何をしたらいい?」


「貴方の願いは貴方だけのものでーす。

 私にそれを決める権利はありませーん」


 どうやら外出は自由にして良いようだ。

 当然奇異の目で見られるだろが、この際仕方ない。

 ……コスプレという事で通そう。

 

 ……そういえば僕のスマホはどこにいった?

 SSSが無いと、クエストや買い物が出来ないしポイントのチャージも出来ない。

 この世界で情報端末を無くすのは行動を大きく制限されることを意味する。 


 また自分で吸い込んでしまったのだろうか?

 せっかくナナオから譲り受けた物なのに。

 またどこかで買い直すしかないのか? 

 

≪お呼びしましたか春野カオス≫


 突然SSSの声が聞こえた。

 どこからだ?


≪私はここにいます≫


 こいつ、直接僕の脳内に……!?

 

「ブラックホール能力の特性上、非常に無くしやすいでしょー?それじゃ不便だから、制御服の頭部に直接SSSを受信できる端末を取り付けたのよー。ついでに君のブラックホール能力を正式にSSSのデータに登録したからー。これでブラックホール能力を他のスキルと組み合わせる事が出来るようになったから、きっと役に立つと思うよー。ブラックホールはまだ君にしか扱えない固有のスキルだけど、ゆくゆくは他のネームドでも使えるようにするつもりだから。その為にも戦闘データ収集をよろしくねーカオス君」


 どうやら僕は完全にグレースの支配下に治められてしまったようだ。

 ……脳内に直接チップを埋め込んだとか言われなくて良かったかもしれない。


≪今日の天気は晴れ。非常に過ごしやすい天気となっており、絶好の行楽日和でしょう。本日の星占いの運勢の一位はみずがめ座の貴方。昔の知人と出会って意気投合するチャンス。今日は積極的にお出かけしてみては?ラッキーアイテムは【甘いお菓子】です。逆に気を付けてほしいのはおひつじ座の貴方。今日は最低最悪の日。何をしても上手くいかず人生最悪の日となるかも」


 ……SSSのこの耳障りな占いが延々と流れ続けるのか?

 僕の気を狂わせるのが実験の目的なのだろうか。

 

 それにまたおひつじ座の運勢が最悪じゃないか。

 

 ……最低最悪なんて言われてもそんなもの既に僕は知っている。

 何てったって一回死んでいるからな。

 だからそれ以下は無い。

 

 それに人生が最悪だなんて

 決めるのは他人じゃない。

 僕は自身の為に希望をもって生き続ける。


≪そんな悪い運勢を跳ねのけるラッキーアイテムは【花柄】の物です。……以上本日の星占いでした≫


 

 僕の異世界生活にどめのじんせいはまだ始まったばかりなのだから。


「モ、モンスターだー!助けてくれー!」


 中型のビルが複数立ち並ぶ市街。

 ここでは今日も名前持ちとモンスターの戦いが繰り広げられていた。

 市民は何もできずただただ逃げ惑っている。

 

 モンスターの攻撃によりビルが崩壊した。

 ガラガラと砂煙をまき散らし、それは鉄骨とコンクリートの塊となって市民に襲い掛かる。


 もうだめだ。


 そう思った瞬間。


 ブラックホール。


 黒い稲妻を帯びた小型のブラックホールが瓦礫がれきを包み込み、それを消し去った。

 土埃が舞う中を漆黒のアーマーを身に着けた男が立っている。


 「もう大丈夫だ」


 男は怪我をした子供を抱き起こし、そう言った。


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