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ここは異世界だけど異世界じゃない  作者: トミタミト
異世界生活編
15/18

15.謙虚、堅実をモットーには生きてない

「え……?」


 嘘だろ? 


 彼女の目には既に生気を感じない。

 

 ……つい昨日まで元気にしてたじゃないか。


 どうして、どうしてこんなことに?


『次会うときは【敵】としてかもね』


 ……どうして。


 僕は吐きそうになる衝動を抑える。


 僕が、僕がいけなかったのか?

 どこで選択肢を間違えた?

 もっと彼女の事を考えてやるべきだったのか?

 

 後悔しても、もうライアは戻ってこない。


 僕の願いも決して叶わない。


「あ、あああ……あああああああああ!」








「……ふふふ、そんなに私の事を思ってくれてるなんて照れるわ」


 ライアの幻聴が聞こえる。


 もう彼女は死んでしまったのに。


「おーい、もしもーし?」


 こうなることならもっと彼女の事を考えてやるべきだった。

 どうして……どうしてこんなことに……。


 

 ………ん?


「そんなに泣かないでよ、嘘って言いにくいじゃない」


 目の前にはライアが立っていた。


 え? え?


「よいしょっと」


 ライアは自分の死体を縄から下ろし、雑に横に投げ捨てた。


「ドッキリ」


「大成功ー♪」


 スカーレットとアズールがドッキリと書かれた看板を手に持ち、部屋の奥から出てきた。


 ……は?


「これ、人形。待ってる間暇だったから【制作クリエイト】で遊び半分で作ってみたんだけど、すごく精巧に出来てるでしょ?」


「………」


 僕は彼女達を無言で睨みつける。


「あ、もしかして怒った?」


 僕は無言で部屋から出ていく。


「ちょっと!ごめんって、ほんの冗談のつもりだったんだって。だからごめん。許して」


 ……悪趣味にもほどがある。

 自分を模した人形を使って、死亡偽装して驚かせるなんて。


「あ、私を助けてきてくれたんでしょ? ほら助かってあげる! だから行きましょう、ね?」


 ライアは両手を伸ばし、微笑みながら答える。


 ……はぁ~。僕の寿命の方が縮んだわい。

 とにかく彼女が無事でよかった。

 前向きにそう考えることにしよう。


 僕はライアと共に部屋から外へ向かう。



 お屋敷の庭園。


 アグニはギンカにあっさり捕えられていた。


「ライアはどこにいるんですの! 答えなさい!」


「………」


「……ふん! いつまでその忍耐が続くかしらね!」


 アグニはエビに羽交い絞めにされながら、脇腹にパンチを喰らった。

 アグニは何も答えない。

 

「……はぁ全く度し難いですわ。貴方相変わらずのバカですわね」


 ギンカは取り上げたアグニのスマホでライアに電話をかける。


 ライアのスマホの音が鳴った。

 ライアは着信を確認する。

   

「ごきげんよう、高山ライア。貴方のお友達を預かっていますわ。さっさと出てきてくれるとありがたいんですけれども」


「……仕方ないわね」


 僕とライアは近くの草むらから出てきた。


「……意外と近くにいらっしゃったのね。あら、また新しい男が一人増えているじゃない。相変わらず不健全な雌猫ですこと」


「ギンカこそ変わらないわね、その高飛車でいやみったらしい態度、うざいったらありゃしないわ」


 両者の間にバチバチと火花が見える。


 ……僕は付け入る隙なくそれを見つめるだけだ。


「高山ライア。今日という今日こそは許しませんわ。貴方の傲慢なふるまい、私が徹底的に叩き直してあげます」


「あら、さんざん今まで痛い目に逢っておいてよくそんな口が聞けるわね?」


「……二人の間に一体何があったんだ?」


 僕は素朴な疑問をギンカに投げかける。

 

 ギンカはよくぞ聞いてくれましたとばかりに素早く振り向き、目を輝かせ反応した。


「いいですわ! どうしてもというのなら教えて差し上げます。私は高山ライアを信用してしまったばかりに私の資産を、……私のすべてを彼女に奪われたのですわ。名持ち街も元々は私の土地なのに。それを取り返そうとするのは人として当然の道理でしょう? 貴方もせいぜいこの嘘つきに騙されないことですわね」


 どうやら以前、二人は争っていたみたいだ。 


「ネームド同士の戦いは弱肉強食。貴方は私より弱かった。それだけの事よ」


「むきー! もう泣いて謝っても絶対に許しませんわ!絶対この場で貴方を倒して私が一位に返り咲いて見せますわ!」


 ギンカはモンスター達をけしかけ、ライアを襲わせる。


≪【強化バフ】≫


 ライアは難なくエビたちを切り刻み、刺身定食にした。


「……それで私を倒す方法として考えたのがこのモンスター集団ってわけ? 言っとくけどその辺のネームドならともかく私相手に今更こんな雑魚共何匹掛かってきても無意味よ?」


「……貴方に負けたあの日から私は一文無しで彷徨っていました。その時助けてくれたのがエビやナスたちでしたの。わたくしもモンスターを狩るネームドのはずなのに彼らは優しく受け入れてくれました。そんな彼らに私は感銘を受けましたの。貴方への復讐を近い、ゴミをあさりながらこつこつとポイントをためる日々。そして今日ようやく貴方に反旗を翻すチャンスが巡ってきたというわけですわ。わたくしもモンスターもこの世界から好き勝手に迫害された存在。……わたくしはこの戦い負けるわけにいきませんの」 


 なるほど、悪役令嬢でも没落令嬢の方でしたか。


「雑魚が雑魚同士つるんだって神には勝てないわ。貴方はせいぜいモンスターサークルの姫がお似合いね」


「くっせいぜい強がってなさい! わたくしにはとっておきの秘策があるのですから!」


 ギンカはエビたちに指示を出し、大型の機械を持ってこさせた。


「スイッチオンですわ!」


 ギンカがヘッドホンを付け、その機械のレバーを引くと、周囲に耳障りで不快な音が響き渡る。  

 

「これは軍用でも使用されている【電波ジャミング装置】ですわ! ご存知の通りネームドは端末でSSSにアクセスしないとスキル使用が出来ない。とどのつまりこの機械を使えば、能力を無効化できるって算段ですわ!ワタクシのスキルも使えませんが能力のない人間などモンスターたちに勝てる要素が無い! よってこちらの方が有利なのですわー! 」


 ギンカの言う通り、持っているスマホは【圏外】になり使用できなくなってしまった。


≪高宮ライアの【強化バフ】が解除されました≫ 


 ライアは持っていた剣の重みに耐えられなくなったのか腕を垂れ、地面に落とす。


「はぁ……これがあんたが思いついた秘策ってわけ?」


「なんですのその態度は!? 強がっていようが貴方はもう勝てる要素がありません事よ! それ以外のSSSを使える端末を持っていない事など私はその手の情報屋で把握済みですのよ!」


「仮に私に勝ってどうするつもり?」


「もちろん貴方に勝ったら私がネームドとして一位に返り咲けますわ! そうなればもうゴミをあさる生活をしなくてすむし以前のようにまた毎日遊んで暮らせる生活が待ってますのよ! 貴方を倒すこと! それが私の【願い】なのですわ!」


 それを聞いた瞬間、ライアの目が曇った。


「……その情報屋に情報を流したのは私よ。大物が掛かるかと思ったんだけど……釣れたのは残念ながら小魚だったわね。……もういいわ、めんどくさい」


 ライアは欠伸をしながらその場で座り込んでしまった。


「小魚ですって!?あきらめモードで何を強がっているんですの!」


「私は疲れたから後ろで見てるわ。後よろしくカオス君」

   

 え?まさかの僕に丸投げ?

 いや一応助けには来たんだけどさ、何か思ってたのと違うというか。


 僕はライアを尻目にギンカの目の前に立ちはだかる。


「あら? 先に貴方がお相手ですの? いいですわ、相手になって差し上げましょう」


 ギンカの周りでエビたちがあくせく働いて謎の機械の準備をしている。

 

「姫を守る騎士のお名前、ぜひお聞かせ願いたいですわね」


「……僕は【春野カオス】、ライアをこの異世界から連れて帰るためやってきたものだ」


「おほほ! 面白いこと言いますのね! ワタクシは礼堂銀香(らいどうギンカ! のちにこの世界を牛耳るネームドの名を心に刻んでおきなさい!」


 ギンカはエビたちの用意した【パワードスーツ】に乗り込んだ。


「相手の為に叶える願いなど、この世界では無意味だと言う事を教えて差し上げますわ!」

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