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ここは異世界だけど異世界じゃない  作者: トミタミト
異世界生活編
14/18

14.這いよれ!カオス君

 人混みを掻き分け、ひたすら走る。


「すみません!」


 僕は目の前の会社員にぶつかりそうになりながら、事故のあった名持ち街に向かっていた。

 名持ち街は【ネームド】が何世帯も住んでいる街のほとんどを占める高級住宅街だ。

 間違いなくネームドでも上位の能力者たちが住んでいた場所であったはずだ。

 

 なのにも関わらず、街はモンスターの進撃を受け、壊滅的打撃を受けた。

 つまりそれほど強いモンスターの集団が現れたという証拠である。


 ……ライアが心配だ。いくらスキルが強いとはいえそれほど強大なモンスター達に襲われて無事な保証は無い。


「はぁ……はぁ……見えない」


 僕は息を切らしながら、現場に到着した。

 野次馬たちが事故現場の周りに立ち様子を伺っていた。

 警察官が侵入しようとする民衆を制止している。


 ここからじゃ何も見えない。

 僕はどうやって侵入しようか考えていると、


「おい」


 突然草むらの方向に引っ張られた。


「アグニ!?」


「こっちだ」


 アグニは古井戸を指さし、ジャンプして降りて行った。


 ……ついて来いって事か?


 僕は言われるがまま、古井戸に飛び込んだ。


 薄暗い通路を通り、アグニが頭上の石をずらす。


 光が差し込む。外につながっているようだ。


 ライアのお屋敷の庭園の石像。

 僕たちはその下からひょっこりと顔を出した。


「いざという時の為の隠し通路だ」


 ……こんな仕掛けをいつの間に。


「伏せろ。……あれが敵の大将みたいだ」


 僕はアグニに頭を抑えつけられながら示す方向を覗く。


 一体どんな凶悪なモンスターが……。



「おーっほっほっほ!ざまあみなさい高宮ライア!」



 ……いかにもな高笑いが聞こえた。


 髪は縦ロール、ゴシックドレスに身を包んだ高飛車な女がいた。それはまさに悪役令嬢。限りなく間違いなく悪役令嬢だ。 

 

「あいつが名持ち街を?……でも」


 どうみても彼女は人間だ。

 とてもモンスターには見えない。

 それともモンスターが人間に化けているとか?

  

 悪役令嬢はエビ達を従え、ティータイムを楽しんでいた。


礼堂銀香らいどうギンカ。元ネームド1位のポイント保有者だ。1位をライアに取られて以来、行方をくらましていたはずだが……。……あいつ、モンスターなんて従えて何故こんなことを?」


 口ぶりから察するにどうやらアグニと知り合いみたいだ。 

 ……もしかしてライアの言っていたもう一人の知り合いとは彼女の事か?

 

「……ライアから俺のスマホに連絡があった。現在は屋敷の地下に避難している。さすがにこのモンスター軍団を全部倒すのは疲れるから何とかしといて、との事だ」


 疲れるだけで済むのかよ。


 アグニはスマホを仕舞い、僕に問う。


「ライアを助ける為にここまで来たんだろう。ならモンスター退治に協力しろ。お前の事は気に入らんが今はそんな事を言っている場合では無いからな」


「もちろんそのつもりだよ。……この前はごめん、アグニ」


「謝る必要はない。……勝負に負けたのは俺が弱かったからだ。いずれお前とは決着を付けてやる。覚悟しておけ」


 それほど怒って無いようで僕は安心した。

 短気ではあるが、引きずる性格ではないようだ。


「ああ、分かった。……それとアグニ」


「何だ?」


「僕にもライアの電話番号教えて」


「助けた後、本人に聞け」


 ちっ、電話番号くらいでマウント取れたと思うなよ。



「それにしてもあっけなく陥落したものですわねー! 他のネームド達もモンスターの奇襲であっさり捕えることが出来ましたし! 後はにっくきライアだけなのですが、全くどこに逃げたのかしら!」


 声でけえ。誰に向かって話してんだっていうくらい独り言がでかい悪役令嬢。


 僕は周囲の敵の数を確認する。目の前には軍隊のようにエビやナス達が起立している。


 見たところエビとナスだけで知らないモンスターはいない。

 数は合計で……50くらいか?


 いや、敷地内を徘徊してるのを含めたらもっと沢山いるかもしれない。

 

「確かにこの数を二人で相手するのは骨が折れるな……。屋敷内にこっそり侵入してライアと合流しよう」


「ここ以外に住んでる他のネームドに協力は仰げないのか?」


「話の腰を折るな。俺は一人でここまでやって来た。……つまりそういう事だ」


「つまりボッチってわけか」


 ……睨まれている。へいへい、僕が悪かったよ。


 僕は色々察しこれ以上何も言わないことにした。


≪【忍び足】≫


「……貴様も使え。このスキルはセキュリティを解除するだけでなく呼吸音や足音を消す効果がある」


 僕はアグニの見よう見まねでSSSを起動し、スキルを使用してみる。


≪【忍び足】≫ 


 効果で青白いオーラに包まれた。

 これで本当に大丈夫なのだろうか、あんまり隠れてるって実感ないんだよなこれ。


「行くぞ」


 アグニが先行し、僕はそれについていく。

 二人であちらに姿が見えないぎりぎりの草陰まで近づいた。


「全ての出入り口に複数の門番が立っているな」


 仮に一人を気絶させて、侵入しようとしてももう一人が気づくようにしている。


 アグニは入り口の近くにある木と木の間に紐で吊るされている不可思議な文様の入った木の板を指さした。


「あれは【魔鳴子まなるこ】だ。古来のマジックアイテムで近くでスキルが発動した時に反応して音が鳴る仕組みになっている。俺たちが【忍び足】で屋敷に近づいたり、能力で門番を眠らせたりしてもすぐに別動隊が駆け付けるようになってるってわけだ。……モンスター風情がここまで知恵が回るとは思えん。やはり礼堂ギンカが首謀者であることは間違いないな」

 

 アグニは少し考え、作戦を提案する。

 

「……仕方ない、二手に別れるぞ。危険だが、どちらかが囮になって敵を引き付けている隙に屋敷に侵入する」


「……どっちが囮になるんだ?」


「じゃんけんだ」


 僕とアグニは声を殺しながらじゃんけんをしてどちらが貧乏くじを引くかの頂上決戦をした。



 ………。



 勝敗が決し、僕たちは二手に分かれ行動する。



 

 

 ティーブレイクが嵌るのどかな昼前。

 

 そんな屋敷の庭先で突然炎が上がった。


「何奴!?」


 ギンカは思わず紅茶を吹き出し、火柱の発生した方を向き叫んだ。


 魔鳴子がカタカタと一斉に鳴り響き、モンスターたちは続々音のする方へ向かっていく。


 ……よし。


 僕は門番達が気を取られている間に窓から屋敷内へ侵入する。

 入り口付近は巡回のモンスターがいる可能性が高いからな。

 人手の少ない箇所から侵入するのは鉄板だろう。

 

 確かここの窓の先はトイレだったはず。

 僕はナイフの柄で窓を割り、手を突っ込み鍵を開け窓から身を乗り出した。

 

 ……エビが丁度トイレで用をたしていた。

 突然の出来事で驚き、戸惑っている。

 

 僕はやばいと思い、すぐさまナイフで手の平を傷つけブラックホールでそのエビを吸い込んだ。


 うげー、思わず吸い込んじゃった。


 僕は気分が悪くなりながらも壁伝いに周囲の気配を探り、廊下に出てこそこそと歩き出す。


 

 足音が近づく。僕は手前の柱の後ろに隠れてやり過ごす。


 また足音が近づく。僕は手前の水槽の陰に隠れやり過ごす。


 またまた足音。僕は銅像のふりをしながらやり過ごす。


 

 ……我ながらよく見つからないものだ。

 ライアの隠れている地下って風呂場のあった場所の事だろうか。

 僕は前来た道順を思い出しながら、見つけた階段を降りる。


 相変わらず薄暗い。

 警備は他に集中しているのか地下は手薄のようだ。

 僕は暖簾のれんのかかった風呂場を尻目にライアの行方を探す。


 ……見当たらない。

 部屋という部屋は探したはずだ。

 まさかこんな事態で風呂に入っているなんて事はないだろう。

 

 柔肌。

 

 以前の記憶が思い出される。

 ……僕は鼻血を抑え、考えた。


 ピンと閃き、僕は【忍び足】のパスワードを入力した。


 【liar.games】。


 ……パスワードを入力すると壁の一部が透けて見えるようになった。

 どうやら僕の勘は当たったようだ。

 

 僕は透けた壁の先に進入する。

 壁の先の突き当りに木製のドアがあった。

 ドアには【ライアの秘密の部屋】と壁かけてある。

 ここに彼女がいるのか?


「ライア!無事か!?」


 僕はドアをノックし、彼女の安否を確認する。


 ……反応は無い。


 勝手に入るのはプライバシーの侵害じゃあないか?

 いや、今はそんな事いってられない。

 他に選択肢は無い。 

 僕は緊張で唾を飲み込み、ゆっくりとドアを開けた。


「…………」


 



 ライアはいた。




 



 部屋の真ん中で




 





 宙吊りになって。

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