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一風変わったサバイバルゲーム  作者: サヌキノミヤツコ
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第一部 3話 『火を起こせ』

腕時計に目をやると長針は丁度5時を指していた。俺はその事実で目が覚める。ここはサバンナ、火がなければやっていけないのに辺りは暗くなり始めている。谷島には悪いが儀式などを俺らに催している暇なんてない。立ち上がって回りの様子をみるとみんなまだボーッとしている。


「俺も気の毒だと思うよ谷島のことは。だが今は生き残るのが最優先だ、そうだろ?」


そう言って薫は草や木の枝等を差し出してきた。これは火を起こすのに必要な火口とその薪だとすぐに分かる。


「薫…あぁ、その通りだ!ありがとう、薫がこれを用意してくれなかったら俺らは肉食動物の餌食になってただろうな」


「それは火を無事に起こしてからにしてくれ。生憎、俺はサバイバルの知恵を知らないからな」


コクりと頷くが日没まであとわずか、急がねばならない。起こし方は至って単純で原始的な錐揉式を使おう。


「碧人、薫、薪と適当な大きさの石を取ってきてくれと元気なやつに頼んでくれないか?あと谷島を…その……土に埋めておいてくれ」


「任された」


「え…あぁ、うん」


元気な碧人も精神的にも体力的にもきているようで顔色が悪い。薫は特に動じた様子はない。もし無事に日本に帰れたのなら良い親友になれそうだ。


「…無理するなよ」


さて、俺は火の準備だ。まず薫が持ってきてくれた平たい板に傷をつけて、次にドリルの役目をする先の少し尖った棒を用意する。幸いにも適した素材が近くにあったから良かったものの無かったら発狂ものだろう。なんせナイフが無いからな。最後に乾燥した草をその傷の下や側に置く。後は手のひらで回すだけだ。理論はとても簡単、摩擦で熱が発生し火種ができるのだ。しかし科学や現実と同じ、口で言うのと実践するとでは天と地の差だ。


「くそっ!」


焦りからか中々リズムが掴めなくなり俺は悪態を吐く。落ち着け…親父の言ってたことをやるんだ。まずはテンポ良く回していき……煙が出てきたら一気に回す速度を上げる!しばらくして小さな赤色の光が現れる。


「火種だ…」


火種をそっと草の束に入れて下から空気を送り込む。このチャンスを無駄にしたら次はもう……。小さかった火の玉は一気に燃え上がり俺の手まで届いた。


「痛っ!」


思わず手を放してしまうが火は安定しそうだ。急いで薪を投入する。枝は円を描くようにして火の中心に向けるとても一般的なファイヤーだ。


「あ…火だ……」


サバイバルにおいて火は英気を養うと聞いたことがあるがその通りのようだ。今までボーッとしていた女子が火に集まってくる。もう辺りは暗い。なんとか首の皮一枚繋がったってところか……。


「蒼真、持ってきたぞ。おぉ、暖かいな……」


丁度その時、碧人率いる男子がある程度の薪と石を持ってきた。これだけあればあと数ヶ所焚き火を作れて一晩は明かせるだろう。寝床はないがな。


「焚き火の周りに石を並べてくれ。乾燥したサバンナでは火の手がすぐに広がるからな」


「オッケー」


結局、焚き火は三ヶ所作ることができた。一度焚き火さえ作ってしまえば錐揉式とかいう手に豆が現れる行為をしなくていいから楽だ。


「火があっても野性動物には気を付けてくれ。火の番を忘れて寝るなよ?お休み」


そう伝えてから自分の焚き火の所に行く。三ヶ所の焚き火は5人ずつ3つのグループに別れている。俺のグループでは俺、碧人、柑奈とイツメンに薫とあまり話したことがない伊波ゆいが加わった。


「火の当番はどうする?」


「一人ずつ交代じゃないのか?」


「…寝ないように二人で交代でしよう」


柑奈の質問に薫と伊波が答える。こんなところで安眠はできないが多少は寝ることができるだろうか?いや、俺はともかく慣れていない人は無理か。


「それもそうだ。交代は二人にしよう」


「私も」


「ゆいの考えに同意」


「桐村君、私のことは名字で呼んで」


「お、おう。なんかごめん…伊波」


どうでも良いことを考えているうちに話がまとまったようだ。それでなんで碧人はちょっと悲しんでいる?


「最初の人はどうしよっか?」


「俺がやるよ」


「ん、じゃあ私が一緒に」


柑奈の質問に今度は俺が答える。すると彼女が一緒にやると言ってきた。面識があまり無い人とペアになるよりかは俺か碧人のどちらかがペアになった方がいいからな。俺だって伊波と二人だけというのもなんだか気間ずいし柑奈がやると言ってくれて丁度いい。


「ふわぁ~ぁ、じゃあよろしく…」


「次は俺がやるから適当に起こしてくれ」


薫と碧人は早くも横になる。抵抗があってもおかしくないのに二人はなんの躊躇もなくそうする。俺でさえ…違うか、全て自分を特別扱いして基準にするなということか。チラリと横のグループを見てみるとやはりこの二人以外は皆まだ起きている。伊波もだ。


「やっぱり地面で寝るのは抵抗ある?」


「…うん」


伊波は普段大人しく休み時間読書ばかりして男子は勿論、女子ともあまり会話しているところも見ない。しかし彼女は呉屋に次ぐ美人さんだ。社交的になれば呉屋みたいに男子どもを虜に出来ただろうに……。


「ちょっと~私には何もないの?」


「え?いや、柑奈は寝れるだろ。何処でも。」


「ひどい!なにそれ!!」


柑奈は元気に何かわーわー言っているが伊波の方は心底疲れていてボーッと俺達を見ている。それを確認するときに伊波と目が合ってしまった。


「…な、何?」


「いや、顔色悪いからさ大丈夫かなって」


「だ~か~ら!」


こんな様子じゃ彼女とペアになったときには厳しそうだ。


「なんで蒼真は私に冷たい……」


「ちょ、耳元で騒ぐな!」


今まで切羽詰まっていたのが嘘みたいに、まるでキャンプをしているかのように彼らに一時の休息が訪れただった。一時の……。


最後だけ三人称です。ここまで読んでくれてありがとうございます。

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