召喚
今回はちょいと長め
第5話
薄暗い部屋に男が立って居た
その男は顔を全て隠す様にフードを被り虚ろな声で儀式を行ったいた。
「イア・イア・クトゥルフ・フタグン……イア・イア・クトゥルフフタグン……」
そうブツブツと呟く男の前にはおびただしい血で書かれた禍々しい召喚陣と生贄にされるのであろう子供が袋を被せられ横たわって居た。
「ままぁ……ぱぱぁ……」
「……っち!」
少女の言葉に儀式に水を邪魔をされた男が腹ただしげに舌打ちをした後子供を蹴り上げた
「きゃあ!……うぅ、ごめんなさい。ごめんなさい…」
「……いあー・いあー…?!おおぉ!!」
子供のうわ言を無視する形で詠唱を再開した直後異変が起きる
血みどろの召喚陣が光出した。
その光はおどろおどろしく禍々しく。
そして次の瞬間、世界が反転する。
「おぉ…おぉ!これぞ!我が神!我が教団の光よ!あぁ時来たれり!時来たれりぃ!!……はぇ?」
男は困惑した。
目の前に有るのはなんなのか?
ソレは神体になる筈の者だった。
その為に数多の人間を生贄とし祭壇を作り上げたのだから。
理解出来る筈だった。祀れる筈だった。信奉出来る筈だった。制御出来る筈だった。使役出来る筈だった。
だが。なんだコレは。こんな者、何を理解すれば良いのだ?どうやって祀りあげれば良いのだ?誰と共に信奉すれば良いのだ?どの程度の力を持てば制御出来るだ?どう言う勘違いをすればこんな者を使役出来るなど思い上がれるだ?
コレはコレはコレはコレはコレはコレはコレはコレはコレは?!?!
「あは……アハハ?あははははははははははははは?!」
男はこの言葉を最後に男は狂気の世界から帰って来れなかった。
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「あの。この状況を説明していただけると凄い助かるんですが?」
「いやー。えーと異世界勇者召喚の儀的な?」
場は限り無く混沌としていた。
薄暗く明らかにまともな場所では無さそうな祭壇
袋を被せられひたすら謝り続ける子供
身体からあらゆる体液を撒き散らしながら白目を剥き笑い続ける男
コレは……
「思いっきり邪神召喚の儀じゃねぇか」
「あいた!」
おっと手が。
「私だって分からないですよ!てっきり偉そうな奴がドヤ顔かまして来ると思ってましたもん!それがコレですよ!」
いや、もん!って言われても……あっそう言えば
「あの、とりあえずあの子供助けませんか?あのままなのは倫理的に不味いかと。」
「あぁそうねー。ていうか倫理的に考えてなんだ……」
流石にこの状況で顔もしらない子供を感情的に助けられる程、聖人的な性格はしていない
「まぁ細かい事は置いておきましょ、ここ臭いし。」
「匂いについては同感ねー、ちゃっちゃとこの子助けて出ましょ。」
「一応目隠しはそままで手足の縄だけ解きましょうか。」
「あらほらー」
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祭壇の間らしき部屋を抜けるとそこは洞窟のようだった
やはり怪しい儀式はこういう雰囲気の場所でやらないといけないというのは万国共通なのだろうか?
いやここは異世界だからある意味世界共通?
そんな下らない事を考えていると先ほど助けた子供が声を掛けて来た
「あの!本当にありがとうございました!なんとお礼を言えば…」
「あぁいえ。成り行きなのでそういうのは結構です。」
「じゃあせめて示名だけでも!」
「しめしな?」
はて、示名とはなんだろう?
そう考えていると元人形のような少女が小声で教えてくれた
「示名って言うのは貴方の世界で言う偽名みたいなものよ。名を隠して身を守るって教えたでしょ?ちなみに私は《メアリー・スー》呼ぶときはメアリで宜しく」
納得、僕がこの世界で使う名前か。
「じゃあ、≪ナナシ≫で。」
「え?」
「ちょ?!」
??なにか問題でもあったのだろうか
元人形…いやメアリが凄い剣幕で僕を洞窟の端まで引きずった
凄い力だ。
「アンタどういうつもり?!あぁ定着しちゃった…」
「どういうつもりって?あと服伸びるので離してください。」
「え?あぁごめんなさい。あーそっかそこら辺も説明してなかったもんね。
それにしてもよりにもよって≪名無し≫かー、≪名無し≫ていうのはこの世界では名前の防壁がない下級民、いわゆる奴隷なのよ。」
「えぇ…まず一番に説明してほしかったんですけど。」
「私もいっぱいいっぱいだったからねー
それによく確認したら≪ナナシ≫じゃない。これならまあなんとかなるでしょ。」
んー……なんだろう。
少年と話した時から、いやいっそメアリと話した時から気になったのだが何故言語や文字が日本語なのだろう?顔立ちは思いっ切り英語圏っぽい顔立ちなのに
異世界物特有の便利翻訳でも無さそうだし。
そんな事を考えてるとまたメアリから説明が入る
「ん?もしかして私達が日本語を使ってる事に驚いてる?基本この世界の人間は皆日本語だから安心して!」
またまた驚いた。メアリは読心術でも抑えてるのだろうか?
「まぁ伊達に神のパシリさせられて無いからねー。ある程度は出来るわよ!そこら辺の話はあの子を街に送って二人きりの時にね。」
現状の確認も含めてそれが良いだろう
僕は分かったと頷いた
「あー…後さ貴方。<仮面>を持ってるでしょ?アレ絶対無闇に着けないでね?」
「仮面……あぁ確か神様から貰った<ワード>でしたっけ?まぁ分かりましたけど何故?」
「稀に居るのよ。ワードとの適合が高いとアバターって言う化身が宿る仮面を顕現させる転移者が。貴方もその1人ね……基本的に転移者でもアバターを顕現させられる子はかなりの力を振るえるのだけど貴方のアバターはね……」
……何が言いたいか理解した。
つまりあの名状しがたき者はつまり僕が出した物だったと言う訳だ。
確かにそう何度と見たいかと聴かれれば真っ先に首を横に振る容姿だろう
「分かりました。そろそろ行きませんか?あの子待たせてるし。」
「あぁそうね…この世界についての詳しい話はまたおいおいね?」
「あいあい」
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「お待たせしました。」
「あっいえいえそんな事無いです!あの示名何ですけど神様ってお呼びしても宜しいでしょうか!」
「えぇ…?なんでですか?」
「はい。あの……さっきのフードを被ってた人ってその…神様を呼んでたんですよね?それで貴方が来て下さって私も助けてくれて。……私にとっては神様何です!」
「何もしていないと思うんですが……メアリは心当たり有りますか?」
「んー?無いわねー……フード男ってあの笑いながら色んな汁垂らしてた変態よね?んー……あ。」
「汁って……」
「まぁまぁ!心当たりって言うとやっぱり貴方のアバターじゃない?召喚の時にポロッと」
「え?そんな簡単に出せるものなんですか?今後行く先々であんなの見せられの気が滅入るんですが」
「ソレは無いから安心して。アバターの召喚ってかなりの魔力を使う発言魔法なんだから!多分召喚の際の魔力を使って一時的に顕現させたのかもね。」
「え?神様って他の神様も呼べるんですか?!やっぱり凄いです!」
「あー……まぁもうそれで良いか。まぁ話もおいおいにしてとりあえずココ出ようか?君の事も家に送らないとだし。」
「助けて貰った上に何から何まで本当にありがとうございます」
「いえいえ。じゃあ行きますか」
「はい!」
「おー!」
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とまぁこんな感じで絶賛下山中なのだ。
「あっ見えました!神様!本当にありがとうございました!」
「結構栄えてますね。王都見たいな物ですか?」
「はい!ここはメイルーン国。五大国の1つで主にモンスターの狩猟で生計を立てています。私の実家は宿屋をさせて頂いてます。」
「へぇ……?なんて?」
「はい!ここはメイルーン……」
「いやそこまで戻さなくて良いです。モンスター出るんですか?」
「出ます。この国の周辺はモンスターの群生地に囲まれてまして、先程生業って言いましたが正確には狩猟をしないと生きていけない程でして……」
異世界シビアー……
いやある意味お約束なのかな?
「あれ?でもここまでの道中1回も遭遇しませんでしたね」
「そうなんですよね。私もソレが不思議で……」
何故だろうと考えて居ると案外簡単に答えが見つかった。メアリが後ろでドヤ顔で魔法らしき物を披露してたのだ。
ていうか最初の無表情キャラは何処へ行ってしまったのだろう?
テンションが違い過ぎる
「ま。出会わ無い分ならラッキーって事でいいじゃない!さ!街まであとちょっとよ!行きましょー!」
「おー!」
「おー」
こんな感じで異世界初の冒険はモンスターに遭遇する事無く平穏無事に終わったのだった。
これ僕居なくてもメアリだけで良くね?と思わなくも無い。