転移
今回はかなり短めです
第4話
「ナナシーこれじゃ日が暮れちゃうわよー」
「神様ー早くー!!」
「……うへぇ」
突然の急展開。というか絶賛登山中
しかも周りは極楽鳥が死肉を狙って飛んでる腐山
まさか異世界初の冒険がこんなお先真っ暗なスタートを切るとは夢にも思わなかった。
何故こんな場所で登山をする羽目になったのか…
少し記憶を振り返って見ようと思う。
「待ってください!!」
呼び止められる声に少し驚いた
その声が余りに切羽詰まった様子だったからだ。
「なんでしょうか……えぇ…?」
目の前に居たのは先ほどいた人形のような少女ではなかった。
……いや正確にいうなら少女自体は同一人物で正しいのだが
さっきまでの全く生気の感じられなかった顔から一転して
なんとも生気に満ち溢れる表情をしていたからだ。
具体的言うと顔中を涙と鼻水でぐしょぐしょにして僕のズボンの端を掴んでいた。
「私も連れてって下さい!もうあんちきしょうにこき使われるのは嫌なんです!」
長い間ろくに人と会話をしていなかったせいで何時の間にか耳が駄目になっていたようだ。
まさかさっきまで儚げで無表情だった美少女が「あんちきしょう」なんてまさかね。
「おねがいします!なんでもしますから!えっちぃ事以外!」
「なんでもじゃねえじゃねえか」
しまった、つい乗せられてしまった。
なんだろうな。この自分の憧れていたクラスの女子の残念な趣味を知ってしまった時の
様な喪失感。
「さっきまでの無口キャラはどうしたんですか?」
「いやぁさっきまでの私、あの野郎に役職と名前で脳味噌を雁字搦めにされてたのよねー」
「雁字搦めって……またなんでですか?」
「うーんなんでって聞かれると説明が長くなるのよねー、まぁそこら辺もまとめて
向こうで話すわ、さ行った行った!!」
「ちょ、押さないでください。ていうか無理やりにでも付いてくる気なんですね」
「もちろん!」
その時見せた彼女のはにかんだ笑いはなんというか。
さっきまでの人形のような表情よりはるかに魅力的に見えのだ。
「分かりましたから押さないでください!」
―こうして僕は異界へと転移する。
――これはあの日全てを諦めてしまった僕が
自分の名前を取り戻す、そんな物語だ。