ワード
今回は説明回になりますー
2話
アレからどれくらいの時がたっただろうか?
何せ何も無い空間をただただ重力に従う様に沈んでいるだけだ。
とっくに時間を数えると言う無駄は省いてしまって居た。
「そろそろ考える事にも飽きて来たな……」
そう誰も居ない空間で呟くと不意に地面に触れたように落下が止まった。
どうした物かと視線を彷徨わせるとそこには死後の世界には不釣り合いな……いやいっそ何処の世界にも存在するのが不自然なかくらいに美しい人形が浮かんで居た。
「ようこそ。死後の世界へ」
あまりの美しさに目を奪われて居るとなんと話しかけて来た。
どうやら人間?だった様だ。
しかしやはり人形の様な少女は感情無く
あらかじめそう組まれたコンピュータの如く事務的な言葉を紡ぐ。
「貴方は不幸にも死んでしまいました。」
「貴方には異世界に転移するか、ここでこのまま次の転生を待つかそのどちらかを選ぶ権利が有ります。」
……?
彼女の言った言葉が一瞬理解出来なかった。
次の転生まではまぁ分かる。仏教的に言う輪廻転生と言う奴だ。
だが後半が理解出来なかった
異世界に転移?あの漫画や映画の様な物だろうか?
「転生は分かるのですが後半の転移の意味が分かりません。漫画や映画の様に何処かに召喚でもされるんですか?」
とはんば冗談めかしに聴いた。
すると女神は初めて人形の様な無感情から少し眉を上げ驚いた様な顔になった
「理解が早いのですね、はい。概ねそれで合っています。」
なんと。会話の間持たせ的に投げた言葉が奇跡的に的を射ていた様だ。
しかしこうなると本当に漫画やゲームの様だ。黙りこんで考えている僕に説明する様に少女は転生と転移について教えてくれた。
「少し会話の順次が前後してしまいましたが説明致します……」
そこからの少女の話をようやくすると転生と転移の違いは以下のようだ
・転生とは言葉の通り輪廻転生の意
元の世界で何年後。はたまた何十年後に生まれるであろう自分の魂が合致する肉体に宿り次の生をまた生き直す。しかしこの場合前世、つまり今の人格は消えてしまうとの事。
・転移とは生前の記憶を持ちつつ異世界に転移し、そこで<召喚士>又は<召喚士の契約主>に仕え契約の元生を謳歌する事。
生を謳歌と言えば素晴らしい様に聴こえるが状況によれば扱いは奴隷の様になるだろう。
正直御免こうむりたい
少女の話を聴きどちらも億劫だと考える。
そう言えば異世界転生と聴いて真っ先に思いつきそうな事をまだ聴いて居なかった
……どうにも何時にもまして頭の回転が遅い。もしかしたら目の前の美しい少女の緊張でもしているのだろうか?
そんな考えを他所に僕は少女に聴いた。
「すみません。質問と言うか確認なんですけどその異世界って魔法だったり超文明だったりするんですか?」
「はい。転移後の異世界には魔法の様な物は確かに有ります。そして異世界に転移する場合は膨大な魔力とその者に最適した<ワード>が割り振られます。その力は異世界にとってとてつもない力を有しておりますので<召喚士>や契約主もそう無碍な扱いはしないでしょう。」
なんと。本当に有るのか魔法……
流石に少し興奮を覚える。
引きこもり生活の間いわゆる異世界転生物に触れる事だって多少はあった。
もはや魔法や無双物に憧れるのは男の子の生理現象と言っても過言ではないのだ。
しかし分からない事があった、少女は転移者に適した<ワード>が与えられると言った。
ワードとはなんだろう?僕は少女にワードについて聞いた。
「はい。それでは転移する世界・ワードについて説明いたします。
この異世界は<名前>と<言葉>が力を持つ世界。貴方がいた世界にも言霊という言葉がありましたがご存知ですか?」
言霊。言葉には力が宿っていて言った事が現実に影響する。
たしかそんなオカルトだった気がする
……あぁ少女の言いたいことが少し理解できた気がする。
「つまり言葉が魔法の変わりになるって事ですか?でもそれじゃあ日常生活もままならないのでは?」
「はい。ですから名を隠すのです
名を隠し正体を隠す、コレがこの世界で1番手近な防衛手段なのです。」
「手近?他にも有るんですか?」
「はい。あるには有ります
ソレはアナタ方に分かり安く言うと魔力で防壁を作るようなもの。異世界に住む一般人にはとても扱える物ではありません。」
成程。つまりバリアーみたいな物か。
本当に漫画の世界の様だ。
「概ね理解できました。でも言葉とワードの違いが分かりません。言葉の上位互換みたいなものですか?」
「その通りです。ここで授けられる<ワード>とは神の言葉。異世界で多大な影響力が有ります。例えば<火炎>ワードが授けられば文字通り火炎を生み出したり自在に操る事が可能です。
故にココからの転移者が無碍な扱い受けることは稀有でしょう。」
成程。確かに高圧的な態度で接した後に膨大な対魔力を持った転移者に契約をパリィなどされた日には後が怖い。
後を考えるなら持て囃して上手く誘導した方が何かと都合が良さそうだ。
「……それで。どちらに致しますか?転生か
転移か」
ふむ……転生を選んだとしても産まれた時には記憶が無くしかも何十年後かも分からない
片や転移の世界は記憶有りチート有りの異世界。
なんというかコレはもう片方しか無いのでは?
「転移でお願いします。」
「分かりました。それでは神託により貴方に適したワードが授けられます。
その後異世界へと貴方をこのゲートで送ります。」
言うやいなや少女の後ろの門が開かれる。
「さて。門は開かれました。後は貴方にワードが授けらソレを元に異世界へ旅立つだけです」
……うーむ。
「あの。1つ良いですか?なんか先程から第三者をチラつかせてますけど貴方が神じゃないんですか?てっきり女神的な存在だと思ってたんですけど」
「はい。私は神ではありません
私は神に仕える巫女の様なものです。」
巫女ね…まぁ深く聴くのも面倒そうなのでココはスルーして置こう。
……?!
熱い……熱い熱い熱い熱い熱い熱い!
突如自分に襲った激痛にその場でうずくまる。
「神からのワードが授けらたようですね。
ですが痛みはすぐに……え?」
少女は頓狂な言葉を最後に黙り込む
だがそんな事を気にかけてられる程の余裕は僕には無かった。
熱湯でもかけ続けられてるかのように顔が熱い。
10秒もすると遂には顔の皮膚が溶けだした様だ
コレは流石に死ぬんじゃ無いか?
そう覚悟した時、唐突に痛みが引いた。
何事かと顔を触ってみるとそこには仮面でも付いてるかの様なツルリとした感触のみだった
状況を説明してもらおうと少女の方を向いた時、
今日何度目かの衝撃に襲われる
あの人形の様に無表情だった少女の顔が唖然と恐怖で歪んで居た。
少女は視線の先にあるで有ろう物から必死に目を背けようと瞳を右往左往させている
一体何を見たのか。僕の背後に何が居るのか……
好奇心に駆られたのでは無い。
理性は今まで聴いた事の無いくらいの大音量で警笛を鳴らしている。
しかし同時に後ろの存在を認識しない事こそが真の恐怖で有ると僕の本能が訴えて居るのだ。
そして僕は振り返った。
――そこには僕の生涯知り得るで有ろう言葉では一生言い表せ無いであろう狂気が居た――