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九話

久しぶりの更新です。よろしくお願いします。

響岐が大王に仕え始めてから早くも四月が経とうとしていた。


響岐と千萱の二人は乳人の加耶が風邪をひいてしまっていて看病に大わらわになっていた。加耶の熱は昨夜に高くなり薬師を呼んで熱冷ましを飲ませてもらった。おかげで熱は下がり事なきを得たが。

二人みたいに加耶は若くないためか高熱が下がった後も辛そうにしている。

「加耶。部屋は暖かくしておいたわ。後、大王様からいただいたお薬も飲んでね」

「……何から何まですみません。姫様」

「気にしないで。千萱も加耶には早く良くなってほしいと言っていたし。今はゆっくりと休んでちょうだい」

響岐が笑いながら言うと加耶はふうとため息をつく。

「まさか、この私が風邪をひくとは。もっとしっかりしないといけませんね」

「加耶……」

「姫様。千萱だけでは心配で。大王様には私が風邪をひいたとお聞きになって。お薬までいただきましたし」

「本当に気にしないで。大王様にはわたくしからお礼を言っていたとお伝えするから。加耶、汁粥を持ってくるわね」

慌てて言うと加耶はそれ以上は言わなかった。響岐は部屋を出たのだった。



加耶に汁粥を食べさせた後、大王の御前に伺候する。

大王はちょうど政務の途中で休憩を取っているところだった。

「おや。額田ではありませんか」

「あの。大王様。申し上げたい事があるのですけど」

「どうかしましたか。言いたい事とは?」

「……わたくし付きの侍女の事なのです。風邪をひいてしまいまして。お薬をいただき、今は回復に向かいつつあります。あの。ありがとうございます」

響岐が礼を述べると大王はにこやかに笑った。

「ああ。その事でしたか。いいのですよ。額田の侍女は元はそなたの乳人だと聞きました。幼き頃より世話をしていた者ならさぞ心配だと思ってね。だから、お薬を送ったのです」

「それでも侍女が早めに回復できたのは大王様のご配慮のおかげです。感謝してもしきれません」

「ふふ。大げさですよ。でもそなたが元気そうで何よりでしたよ」

大王はそう言って穏やかに笑った。響岐は大王としばらく談笑したのだった。



二日後には加耶の風邪は治り千萱と響岐は胸を撫で下ろした。加耶は今までの分を埋めようと風邪をひく前よりも忙しく働いた。

大王が響岐を呼び出したとなれば、髪結いや衣装を整えるのを念入りに行う。そのたびに娘の千萱も大変そうにしている。それを見ながら響岐は治ってよかったという気持ちと千萱が大変そうだという気持ちで複雑になった。

「千萱。きちんとなさい。それでも侍女ですか!」

「はい!」

「まず、姫様の衣装や簪は手早く用意できるようにならないと。今後困るわよ」

千萱に細々と加耶は教える。響岐は千萱が滅入りこんでしまわないか心配になるが。それでもしばらくは様子見をするのだった。



ある日の夕暮れに大海人皇子が響岐の部屋を訪れた。加耶と千萱は唐菓子や白湯を用意して既に退出している。大海人皇子と二人きりになり響岐は緊張していた。

「額田。鏡王はお元気かな?」

「……はい。父は元気にしています。時々、文もくれます」

「そうか。それはよかった」

大海人皇子はほうと息をつく。響岐はどうしたのだろうと首を傾げた。

「皇子様。父の事が気になるのですか?」

「ああ。鏡王が額田の事を心配していてな。兄上や私にも尋ねておられて」

「はあ。粗相はしていないつもりですけど」

「それでも気になるんだろうな。額田はまだ十五だったよね?」

「いえ。十六になりました」

「そっか。だったら父君が気にするのも仕方ないな。額田は結婚をするにはもう良い年頃だから」

響岐は結婚と聞いて驚く。「えっ。確かに十六だったら結婚していてもおかしくないですよね。でもなかなか良いご縁がなくて」

「ふうん。ご縁がないか。じゃあ、私なんてどうかな?」

「皇子様ですか。けどわたくしではふさわしくないかと」

「そんなことないよ。額田は十分綺麗だし性格も穏やかだし。私は君の事を気に入っている」

大海人皇子は真面目な顔で言う。響岐は目を見開いて固まった。

「うう。あの皇子様はわたくしに恋人になれとおっしゃるのですか?」

「まあ、率直に言うとそうだね。いいかな?」

「……あの。わたくしで良ければお付き合いしてください」

響岐が答えると大海人皇子は嬉しそうに笑った。響岐の手を握って甲を撫でる。

「ありがとう。じゃあ、今日から恋人成立だな」

大海人皇子は響岐の頬を最後に撫でてから立ち上がった。そのまま、部屋を去っていった。

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