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七話

響岐は大海人皇子に忠告された言葉が頭を離れずにいた。


中大兄皇子が自分を狙ってきているというが。

響岐はさてどうしたものかと考える。まだ自分は十五だ。なのに、目をつけられているとは。

考え込んでいた響岐に千萱が話しかけてきた。

「姫様。明日も朝は早いですから。寝てください」

「そうね。寝る事にするわ」

頷いて立ち上がった。千萱は母の加耶と響岐の寝所の準備を始めた。

響岐も自分で寝間着に着替える。だが、簪や櫛などを外すのに四苦八苦した。お化粧も同様だ。衣装も飛鳥の女性の正装に近いため、脱ぐだけでも一苦労である。

千萱はいち早く響岐が着替えなどに困っていたのに気づく。慌てて主の元へと向かう。

「姫様。おっしゃってくださればわたしどもがしましたのに」

「だって少しでも慣れておきたくて。けど、難しいわ」

「そりゃ、小さい頃から人にやってもらうのに姫様は慣れておいでです。いきなりは難しいと思います」

はっきりと言われて響岐はぐうの音も出ない。

「…それはそうね」

「でしたらもうお休みください。母が寝所の仕度をしていますから。でもその前に」

何だという前に千萱は寝間着を用意する。

そうして、響岐の髪を彩っていた簪などを手早く外していく。髪紐も解き、耳飾りや首飾りなども外した。上着や裳を脱がせたりしてから寝間着に着替えさせた。

その間、響岐はされるがままだ。できあがると千萱は主の手を取る。

「さあ、行きましょうか?」

「わかったわ」

頷くと寝所に連れて行かれた。既に準備はできており加耶の姿はない。

響岐は寝所の中に入ると(ふすま)にくるまった。お休みなさいと千萱は言うと灯明を吹き消した。響岐は眠りについたのだった。


朝方になり、響岐は快適な中で目覚めた。はずだった。

何だか、頭や体が重い。どうしたのだろうか。それに息苦しくもあった。

「おはようございます。姫様、どうかなさいましたか?」

そう声をかけて入ってきたのは侍女で乳人(ちのと)の伽耶だった。伽耶は青白い顔をした主を見て慌てて寝所に駆け寄ってくる。

「まあ。お顔が真っ青ではないですか。ちょっと失礼しますよ」

伽耶はそう言ってから響岐の額に手を当てた。平常よりもかなり熱い。それに響岐はひどく苦しそうだ。

「…伽耶。何だか、すごくだるくて」

「それはそうでしょうね。すぐに薬師を呼んできます。千萱が後で来ると思いますので。姫様はこのままでお休みください」

「わかったわ。ごめんね」

「謝らないでください。姫様が体調を崩しておられたのに。気づかなかった私が悪いのです。では失礼しますね」

「…うん」

響岐が頷くと伽耶は小走りで寝所を出て行く。響岐はふうと息をついた。

ひどく苦しくて暑い。真冬といってもいい季節なのに。

響岐は重苦しい中で瞼を閉じる。すぐに眠りに再び落ちていったのだった。


その後、響岐が目覚めたのは夕暮れ刻だった。伽耶が汗で張り付いた衣を着替えさせ、額などを拭いて清めてくれたりしていたようだ。口元にも水を含ませてくれていたらしく乾ききってはいなかった。

「ん…」

声を出して起き上がろうとする。ぽとりと額からぬるくなった布が落ちた。体がまだ重いしだるい。息苦しさはましになったが。寝所には火桶と盥桶が置かれていた。盥桶にはお湯が入っており上に布が掛けてある。

熱は下がってはいないようだ。まだ、体が本調子ではないのは自分でもわかる。

「あら。姫様?」

寝所に人の気配がした。振り返ると伽耶がお膳を持って中に入ってきていた。

「…目を覚まされていたのですね。ちょうど、膳夫(かしわで)の方に頼んで汁粥を作ってもらったんです。後、お薬もありますから。お腹が空いているのではないですか?」

優しく微笑みながら伽耶は寝所に近づく。響岐のすぐ近くにまで来るとお膳を彼女の膝の上に置いた。響岐は動かないようにしながらお膳を安定させるために姿勢を正した。木匙を手に取った。汁粥を掬って口に運んだ。

ほんのりとした塩味が弱った体に染み入るようだった。ゆっくりと食べたのだった。

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