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五話

響岐は自室に戻ってから大海人皇子を思い出した。


明るくて屈託がない方だが。それでも自分より二つ年上の少年だ。響岐はほうと息をつく。

加耶と千萱はまだ戻って来ない。一人で不安な中で加耶達を待ったのだった。


「姫様。遅くなりました」

加耶や千萱が戻ってきたのはそれから半刻ほど経ってからだった。響岐はほっと胸を撫で下ろした。

「加耶に千萱。やっと戻ってきたのね」

「申し訳ございません。姫様が先にお戻りになったと大海人皇子様付きの女官から聞きまして。急いで退出したのですけど」

「そう。あの、今日ね。中大兄皇子様に宴の最中に絡まれて。それで困っていたところを大海人皇子様が助けてくださったの。後でこちらまで送っていただいて。お礼をしないといけないと思うのだけど」

響岐が説明すると加耶と千萱は驚きの表情になる。

「まあ。そんなことがあったのですか。大海人皇子様には感謝をしなければなりませんね」

加耶が言うと千萱も頷く。

「本当にです。中大兄様にも困ったものですね」

「千萱。言い過ぎですよ。でもまあ、姫様がご無事でよかったです」

「ありがとう。大海人皇子様にはお礼に伺うわ。大王様にも説明をしておかないといけないわね」

響岐が言うと加耶と千萱は本当にと頷いた。響岐はさてと考え込んだのだった。



翌日、響岐は小鈴以外の女官に昨夜の事を説明した。その上で大海人皇子の居所に伺いたいと頼んだ。女官は大王に相談してからの方がいいと言う。響岐は仕方ないとまずは大王の執務用の部屋に急いだ。

宝大王は休憩中だったようで響岐の訪れに怒ったりはしなかった。

「おや。額田ではないですか。どうしたの?」

「あの。大王様にご相談したいことがありまして。それで参りました」

「あら。相談ね。どのような用件なの?」

「昨夜、中大兄皇子様にわたくしはその。しつこく言い寄られまして。困っていたところを弟君の大海人皇子様に助けていただきました。お礼をしたいと思って大王様にまずは相談をさせていただきに参ったのです」

響岐がそこまで言うと大王は頷いた。

「ああ。それでしたら大海人から聞きましたよ。額田が困っていたようなので助け船を出したと」

大王は鷹揚に言うと響岐に笑いかけた。

「額田。中大兄は根は悪い子ではないのよ。ただ、酒癖が悪いだけで」

「はあ。酒癖が悪くていられるのですか」

曖昧に答えると大王は笑みを深めた。

「気にしなくていいのよ。私も中大兄の事は気をつけておくから。大海人にお礼を言いたいのだったら早めに行きなさい」

「わかりました。失礼致します」

響岐は深々と頭を下げて大王の執務用の部屋を出たのだった。



通りがかった女官に大海人皇子の居所を聞いたりする。

女官は訝しみながらも居所はあちらだと教えてくれた。示された方角は南西だ。

響岐はお礼を言って南西にある殿舎に急いだのだった。

しばらくしてやっと大海人皇子付きの女官に出会えた。響岐は皇子がいるか聞く。女官は答えた。

「皇子ですか。今であれば、おられますよ。案内しましょうか?」

「お願いします」

響岐が了承すると女官は頷いて歩き始める。それに付いて行ったのだった。

女官の先導のおかげで響岐は無事に皇子の居所ー私室にたどり着いた。

「皇子。お客人ですよ」

「…あれ、泊瀬(はつせ)じゃないか。どうした?」

私室から男性のものらしき声が聞こえた。くぐもっているが昨夜聞いた大海人皇子の声だと響岐は気付いた。

「そういえば、あなたの名を聞いていませんでしたね。なんとおっしゃるのですか?」

「あの。額田と申します」

「まあ。あなた、大王付きの女官でしたのね」

「そうみたいですね」

「わかりました。では、皇子にお会いしたいのでしょう。中へどうぞ」

みたいだと答えただけだが。泊瀬という女官はなんとなく察したらしい。簾を上げて中へと通してくれた。

響岐は促されるままに入る。私室にはなんとも言えない芳香がたゆたう。

「あれ。泊瀬が答えないからどうしたのかと思ったら。君だったのか」

「はい。皇子、今日は昨夜のお礼に参りました」

響岐が深々と頭を下げると大海人皇子は驚いた表情になった。

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