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三話

響岐は自室に戻ってから加耶や千萱に手伝われながら、簪や造花に櫛などを外した。


首飾りや耳飾りなども外したら椅子にくずおれるように座った。

「姫様。大丈夫ですか?」

千萱が心配そうに声をかけてくる。響岐はゆっくりと目線を彼女に向けた。

「…ちょっと大丈夫じゃないみたい。悪いけど休むわ」

「そうですね。今日はまだ初日ですから。ゆっくりと休まれたらいいかと思います」

そうするわと言って立ち上がった。

千萱と加耶で響岐に寝間着を着せる。髪も下ろして寝室に向かう。(しとね)の上に転がると(ふすま)を掛けた。響岐は瞼を閉じたのだった。



翌日から早速、女官として働く事になった。といっても教えてくれる先輩の女官に付いてだが。まず、大王(おおきみ)の朝餉のお膳を運ぶ事から始まる。しずしずと響岐は先輩の女官の後ろで数々の皿などが乗せられたお膳を手に持ち、廊下を歩いた。

大王のいる寝室の近くに朝餉などを食べたりする用の部屋がある。そこに入り机の上に朝餉のお膳を置いていく。

響岐もそれを手伝う。黙々とお膳を置き、先輩の女官が終わったので続いて部屋を出た。大王が物問いたげに彼女を見ていたのには気づかなかった。響岐は廊下で誰かが見ているのには気づいたが。それが誰なのかはわからず、次の仕事に行くしかなかった。



大王の居所の部屋、廊下を掃除したりは下位の女官がやるらしい。響岐はお昼がくるまでの間、先輩の女官から渡された宮城での決まりごとが書かれた竹簡を自室で読む事にした。

「姫様。それは何ですか?」

「その。宮城での決まりごとが書かれた竹簡よ。女官の小鈴(こすず)さんから渡されたの」

「小鈴様からですか。あの方、姫様には厳しいですよね」

千萱が言うと母でもある加耶がこれと怒る。

「千萱。滅多な事を言うものではありません。どこかで聞かれたらどうするの!」

「だって。母様は侍女として長年やってきているから怒られないけど。わたしが少しでも失敗したらすぐ小鈴様が怒りに来るの。何か姫様は自分より身分が高くても年下で大王様に気に入られているから気に入らないみたいだし」

千萱の話に響岐はなるほどと納得した。先輩の女官の小鈴は自分が嫌いらしい。身分が高くて大王に気に入られているからか。

年下というだけで嫌われる筋合いはないと思うが。響岐は上げられた簾の向こうを見た。木枯らしが吹いている。葉をすっかり落とした木々は相変わらず寒々強い。

響岐は中大兄皇子と大海人皇子を思い出す。中大兄皇子のまっすぐな眼差しと大海人皇子の屈託のない微笑みが脳裏から離れない。千萱と加耶はまだ言い合いを続けていたが。響岐は何ともいえない心地でいたのだった。



あれから、また半月が過ぎた。季節は十一月から十二月に入り冬の真っ盛りになりつつある。響岐はすっかり冷たくなった手に自身の息をはあと掛けた。そうでもしないと廊下は木枯らしが吹くし空気も冷たい。手や体が凍えてしまっていた。

小鈴の嫌がらせはまだ続いていた。竹簡で読まなくていいものを渡されたり虫の入ったお膳を果物が入ったお膳だと渡されたり。さすがに半月も経ったら少しは慣れてきた。

千萱と加耶が響岐の毎日の食事や衣類には気を配ってくれていたが。毒や虫などが食事に入っていないか見たり食べたりして加耶が確かめてから手をつけていた。そのおかげで響岐は体調を崩さずにいられていた。

寒い廊下を通りすぎて響岐は自室に急いで入る。暖かな火桶の側に寄った。

加耶が炭を()こしてくれていた。

「姫様。小鈴様の指導は終わったようですね」

「ええ。今日は寒いのに欄干や廊下の掃除をやらされたわ。しかも冷たい水で濡らした手巾(しゅきん)でね。うう、手が霜焼けになったかも」

「お疲れ様でした。白湯に蜜を入れたものです。お飲みください」

ありがとうと言って響岐は白湯の入った茶器を受け取る。口に運ぶと蜜の甘みと白湯の温かさが体に染み入った。ほっとできて響岐は両手で茶器を包んだ。じわりと手が温もった。

加耶が響岐に近づくと肩や背中を擦ってくれた。亡くなった母を思い出して響岐は瞼を閉じたのだった。

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