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十話

響岐が大海人皇子と恋仲になってから半月が過ぎた。


響岐は皇子と文のやりとりを欠かさずにしている。大半は和歌のやりとりだが。皇子はおおらかで率直な感じの歌を詠んだ。響岐もなるべく素直な気持ちを詠むように心がけていた。

そんなこんなで加耶と千萱親子は響岐と大海人皇子の二人をそっと見守っている。

「姫様。大海人皇子様は良い方ですね」

「そうね。素直な方で好感が持てるわ」

加耶が言うと千萱も頷いている。二人は響岐が心配らしい。

響岐は風邪は治っていたが。なかなか、体は本調子になれないでいた。それでも大王の話相手や雑用を何とかこなしている。

大王も心配しておられて響岐に実家に帰るかと仰せになった事もあった。

それについては丁重にお断りしたが。それでも寒い日が続いている。

「……姫様。今日はお薬湯を飲んでお休みください。お顔色が良くないですよ」

「わかったわ」

響岐は頷いて手渡されたお薬湯を受け取る。一口飲むとかなりの苦味と薬湯特有の匂いが鼻を刺激した。我慢して二口三口と飲んだ。

千萱特製のもののようだ。飲みやすいように蜂蜜も入れてあるようだが。それでも苦い。少しずつ飲んでみた。

「……うう。苦いわ」

全部飲みきると響岐はかなりの気力を使っていた。

「全部お飲みになりましたね。もう、お休みくださいませ」

加耶が言うので響岐は寝所に入る。そのまま、眠りについたのだった。



翌朝、響岐は顔を洗ったりして身支度を整え、お化粧もすませた。

大王の御前に伺候すると側に中大兄皇子と大海人皇子のお二人が揃っていた。

響岐は宴の時の事を思い出してしまい、体が震える。が、怖がってはいられない。無理に一歩を踏み出す。

「……額田。どうしたの。顔色が悪いわ」

「……申し訳ありません」

「謝る必要はないわ。額田、前にも言ったように一度実家へ戻りますか?」

大王は心配そうにしながら仰せになる。けど、それを聞いた大海人皇子が顔色を変えた。

「なっ。母上、額田を実家に帰すとなると。宮仕えを辞めさせるのと同義になります」

「お黙りなさい。わたしは額田に言っているのです。この子はまだ世慣れぬ身。そなた、まさかとは思いますが。額田に無理に言い寄っているのではないでしょうね?」

「……そのような事はしていません。ですが。わたしは何も聞いていませんし」

大海人皇子は食い下がろうとする。大王はふうとため息をついた。

「大海人。ちょっと後で額田と三人で話をしましょうか。葛城、もうそなたは退がりなさい」

「……わかりました」

葛城こと中大兄皇子は大王に深々と礼をすると部屋を出ていく。響岐と大海人皇子、大王の三人だけになる。

「これで三人きりになったわね。大海人。そなた、額田に恋文を送っていると聞きましたよ」

いきなり核心を突かれて大海人皇子は顔を赤らめた。額田もとい響岐も顔が熱くて俯いた。

「……やはりそうでしたか。まあ、母としては嬉しいのだけど」

「母上。わたしは響岐だったら妃に迎えてもいいなとは思うんです。駄目でしょうか?」

「大海人。そなたが良くても額田の気持ちがどうなのか。ちゃんとそれを聞いてから決めなさい。そうでないと大事な事を見落としてしまうわ」

大王は穏やかながらもきっぱりと言う。大海人皇子は項垂れた。

「……響岐。君はどうなんだ?」

「わたくしは。まだ、皇子の気持ちどころか自分の気持ちすらわかりません。けど、妃になるのは嫌でもなくて」

「そうか。じゃあ、もう少し待つよ。君がその気になったらわたしはもう一度きく。その時は逃さないから」

なかなかの情熱的な言葉に響岐はより顔が熱くなるのがわかる。大海人皇子は待つつもりらしい。響岐はどうしたらと大王を見る。

大王は穏やかに笑いながら頷いてみせた。響岐は大海人皇子に目線を戻す。

「わかりました。わたくし、考えてみます。皇子、これからよろしくお願いします」

「こちらこそ。響岐、君のことは大事にするから」

まだ気が早いと大王が内心で仰せになったのは二人には聞こえていない。

響岐と大海人皇子は見つめ合いながら手を固く握りあう。この時、響岐はこの恋が激しいものになるとは予想もしていないのだった。

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