真の強さ
「お前こそナメてんのか!…いいぞやっちまえ!」
武装集団のボスが唸る。
それにあわせて子分たちがオオーと吠えた。
その咆哮が終わると同時に、敵の後方から一発の銃声が響いた。
銃弾は白い雪をまち散らしながら一直線に魔王さんの顔目掛けて飛んでいく。
思わず魔王さんがカチコチに凍る姿を想像して、背筋が凍る。
この世界では、皆魔法が使える。
改めてそれを実感した。
人界だと魔法を扱えるものは、ほんの一握り程度だ。
それも大体が王家である。
これも後から魔王さんに聞いた話なんだけど、この世界の銃はとっても高性能らしい。
なんでも銃弾に魔法が詰められるようになっていて、魔法が上手く使えない人や魔力が生まれつき少ない人にはうってつけとのこと。
つまり、魔王さんは今ピンチだということ。
手で顔を覆いかくした。
魔王さんが死ぬ所なんて見たくない。
というか死んで欲しくない。
死んじゃ嫌だ。
銃弾の軌道が見えるほど時間がゆっくりと感じられた。
少しして__いや実際は一瞬の間だっただろう__敵側からどよめきが聞こえた。
恐る恐る手の隙間から覗いて見ると、そこには人差し指と中指で銃弾を挟む魔王さんが。
「なんだ、こんなもんなのか?」
特に何事も無いように魔王さんが言う。
「…あ、あり得ねぇ」
敵のボスがボソッと言った。
その瞬間、魔王さんは銃弾を器用に指で弾き返した。
さっきの倍以上のスピードで飛んでいき、見事ボスに命中した。
カチコチに固まったボスを周りの敵が取り囲む。
「ボスッ!大丈夫ですか!?」「ボスゥゥゥゥゥ!」
「お前、よくもボスを…このっ!!」
まばたきを一回すると、色とりどりの銃弾が魔王さん目掛けて飛んでいった。
次、まばたきをしたときには、敵は全員凍っていた。
おぉ~。さすが魔王さん。
一瞬で敵を倒してしまったらしい。
しかも殺さずに警察と言うものにつきだした。
また、惚れしまうじゃないの。
「大丈夫か?」
魔王さんは私を心配して手を差し伸べてくれた。
まだ幼げなその手を握って立ち上がって式場を見回すと、事件の悲惨さが分かった。
テーブルや椅子はなぎ倒され、所々凍っている。
幸い負傷者はいなかったものの、式どころではない状態。
これを魔王さん1人でやったと思うと、いつか私も殺されるのではないかと思ってしまう。
多分魔王さんはそんな事しないだろうけど。
「せかっくの式が…」
魔王さんはあからさまに溜め息をついた。
確かに邪魔をされて腹が立つけど、私は魔王さんといるだけで幸せだ。
でもそれを口に出す事は恥ずかしくって出来ない。
いつか言えたらいいなって思う。
大分遅れてしまい、申し訳ありませんでした。