文明開花の魔王城
「ようこそ!魔王城へ!」
唖然とする私を尻目に魔王さんは無邪気に目を輝かせる。
え?これが魔王城?
私、夢見てるのかな?
試しに頬をつねってみるが、痛みがある。
つまり、現実。
目の前に広がるのは、木組みでも石づくりでもない建物。ビルというらしい。
1つ1つが丈夫な作りで、どれも10階以上ある。
その下では、様々な屋台が建ち並び、いい臭いが食欲をそそる。
地面も人界のただの土とは違い、アスファルトと呼ばれるもので舗装されていて、そして所々植樹されていて綺麗な町並みだ。
そしてそこらじゅうに人、人、人。
それも、皆、魔族である証の暗い色の髪と瞳。
私と一緒。
でも服装は麻や布地ではなく、とてもきらびやかだ。
果たしてこれを魔王城と言っていいものなのか。
人界より遥かに発展している。
そして、イメージと違い過ぎる。
普通石で創られた不気味な家でしょ。
なんでこんな凄いことになってるの。
一歩踏み出してみると、アスファルトの感触が心地いい。
こんなまっ平らな場所歩いたことない。
周りを壁で囲まれているのに、どこからか涼しい風が吹き抜ける。
「おい、邪魔だ小娘」
不意に横から声をかけられる。
声の主は、大きく豪華な黒い箱の中に乗っていた。
車輪が四隅に1つずつ付けられていて、動くたびにそれがクルクルと回る。
後で魔王さんに聞いたら、車という乗り物らしい。
「すみません」
見とれながら隅のほうへ移動した。
へぇこんな乗り物もあるんだ。
人界では、徒歩や馬の上にそのまま乗るが普通だ。
ここはとても珍しくて、面白い物で溢れている。
そして、ここなら髪色と瞳の色で差別されることはない。
だって私の髪と瞳は魔族にふさわしい色だもの。
急に自分が誇らしく思えた。
「どうだ、こっちの方が過ごしやすいだろ?」
今まで看守さんと喋っていた魔王さんが言う。
まったくその通りだ。
町は発展しているし、なにより居心地が良く、のびのび生活が出来そう。
「はい、とっても。それより、私ってここに住んでもいいんですか?」
私がそう聞くと、魔王さんの瞳は悲しげに揺らいだ。
…駄目、なのかな。
「駄目じゃないんだけど、1つ条件があってな…」
条件?
私は一様人間として生まれたからペナルティとかそういうのかな?
「その条件を呑んでくれないと、きみ追い出さなきゃならなくなる」
ええー。なにそれ。
勝手に拐ってきて追い出すなんてことあるんだ。
魔王さんはもじもじしながらか細い声でこう言った。
「その条件は…」
「俺の妻になることだ」
周りで「魔王様イケメ~ン」なんてはしゃいでいた女子や魔王さんが帰ってきたのを迎えていた人達が一斉に目を見張った。