孤独な魔王さん
「乗り心地が悪くてゴメンな」
不意に声をかけられて現実に引き戻される。
私は今、白馬…ではなく漆黒の馬に乗っている。
白馬の王子様って自分で言ってたのに、黒い馬じゃん。
それはともかく、長時間乗っているせいでお尻がとても痛い。
馬が軽快にリズムを奏でるにつれて痛みが徐々に加速していく。
「はい。大丈夫です」
痛みを笑顔の裏に隠す。
でも、魔王さんにはお見通しだった。
「いや、大丈夫じゃないだろ。もう少しだ、頑張れ」
「はい」
生返事で返しておく。
いや、待てよ。
なんで私はこのあり得ない状況を飲み込めているんだ?
しかも魔王さんと普通に喋ってるし。
あり得ない状況が続いて、変なところで平常心を発揮してしまったのだろうか。
こちらの意図を察したのか、魔王さんはチラリと振り向いてくる。
それによって、被っていたフードがはだけた。
始めて見る魔王軍の、それに魔王さんの顔。
夕日に照らされた繊細な肌は白く透き通っていて、青みがかった黒髪と、それと同じ色の瞳がとても綺麗だ。
顔立ちはどこか幼く、でも凛々しい。
一言で言えばイケメンで美少年。
でもその一言で片付けるのは勿体ない。
ずっと、見ていられる。
私が直視し過ぎたのか、魔王さんは気まずそうに前を向いた。
私もつられて前を見ると、そこには一面に灰色の壁が広がっていた。
その所々に扉らしき物があり、でもがっちり閉められている。
おかげで中は全く見えない。
ここが魔王城?
イメージどうりといえばそうではない。
大体、壁があることすら予想していなかった。
私が思い浮かべる魔王城は、周りを紫色の毒川で囲まれていて、古びたお城が建ってるって感じ。周囲は枯れはてた森に囲まれてるのは必須条件。
もう一度よく見るが、なんの変てつもない壁が広がっているだけ。
逆に当てはまらなさすぎて、こういうもんなのかなって思ってしまった。
「ほぇ~」
驚きが言葉にならず、変な声をあげてしまった。
それに対して魔王さんはクスリと笑う。
呆れたことに、この人がどんな顔をしていてもおもわず見とれてしまう。
「やっぱ驚くよなぁ~」
魔王さんがうんうんと頷く。
まるで、自分も驚いたことがあるようなような口ぶりだ。
何でだろ?
魔王軍なんだから、生まれたときから見ているハズなのに。
それとも、私みたいに隔離されていたとか?
いや、それはないな。だって実際魔王になっているんだもの。
でも、灰色の壁を見つめる魔王さんはどこか寂しそうだった。
少し経って、灰色の壁の扉の前にたどり着いた。
改めてみるととんでもなく高く、大きい。
扉の看守さん達は私達に気づくと、慌てて敬礼をして、「お帰りなさいませ!」と言った。
魔王さんは「有難う。早く扉を開けて」と言った。
看守さん達は元気よくお返事をして、扉を開け初めた。
さすが魔王さん。慣れた手付きで指示をとばす。
「おぉ~全自動式なんですね」
「これが俺たちの普通だよ。人界は手動なの?」
見た目同様、まだしゃべり方もどこか幼い。
「はい。羨ましいです」
ギギギと音を立てて扉がひらいてゆく。
この中はどんな世界が広がっているんだろう。
心の中でワクワク、ドキドキが止まらなかった。
やがて扉が全て開いた時、私は言葉を失った。
「な、な、なにこれ!!」