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よごれたままでいるしかない。

作者: 草月叶弥

カタン、コトンと音がして すすり泣く声がした。


駆け寄りそうになる体を押さえ込んで 部屋の隅で膝を抱えて耳を塞ぐ。

すると聞こえてくる音が少し小さくなって 安堵するんだ。

しばらくそのままでいると 音が消えて また 静かになった。

耳を塞いでいた手を離して 何も聞こえないことを確認したら 持ってきたものを回収して 気付かれないように部屋を出る。


これが 僕の仕事だ。





この国は他所の国の人からみると、とても綺麗で、安全で、素晴らしい国に見えるそうだ。

この国しか知らない僕には分からないけれど、それらはとても良いことなのだろう。


この国が保っている綺麗さや安全は全てが国に選ばれた人柱のお陰だと知らなければ。


人柱が必要とされるのは国のカナメと呼ばれる場所。

カナメには国中の人の願いや希望が集まってきて放っておくと願いが破裂して国が滅びてしまう。そうならない為に、偉い人達ががカナメを真ん中にして星形を描き、星の天辺に人柱をたてた。

そうすることで人々の思いが分散され、カナメから得られる力でこの国は潤っている。

キレイでいることを願った人々はやがて人柱の存在を忘れるための技術を開発し、国中の人々に施した。

逃れたのは人柱と同じ5人。彼らは人柱が正しく作動しているか確認するためだけに生かされた守と呼ばれる5人だけ。

カナメの力のせいなのか人柱は朽ちることがない。そして5人も朽ちることがなかった。


朽ちないだけで狂ってはいったのだけど。


いま、この国で正しく作動している人柱は二柱だけだ。

他の三柱は狂ってしまい、分散されたカナメの力を受け入れることを放棄して守共々崩れ去った。その為、現在二柱に集中して集まってくる力に翻弄されもうすぐ一柱崩れそうだという。

そうすれば残りの一柱で全てを受け入れることなどできず、カナメの力が飽和したこの国はいずれ崩壊するだろう。


カナメの力には善悪などない。どれほど汚れた願いであってもカナメのは集ってくる。それを分散し、五柱で消化していたのだから一柱で消化するなどどだい、無理な話なのだ。




先日、一柱が崩れたと報告があった。その報告の後から守からの定期連絡が途絶えたので守も一緒に崩れたのだろう。

僕の一柱がすすり泣く声は日に日に大きくなっている。

動き回る頻度も増えた。

この一柱が崩れるのも時間の問題だろう。そうなる前に僕は、一柱を解放したいと思う。


何十年も人々の垂れ流した汚い願いを受け入れて消化し続けた一柱の為に僕が出来ることはこれくらいしかない。


ねえ、コヨリ。

僕は今から君を解放するために、君の受け入れていたよごれを全て取り除くよ。

そしてそれを国中の人々に背負ってもらう。


ねぇ、コヨリ。

それがどんな結果をもたらすのか分からないけれど、国を少なくとも数年は崩壊させずに君を解放する方法をこれしか思い付かなかったんだ。

これから皆、よごれたままでいるしかないけど、それは仕方のないことだから君が気にする必要はないよ。



コヨリ、コヨリ、小さなコヨリ



君はずーーーっと頑張った。

だから来世では幸せにおなり。






愛しい 僕の むすめ








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