サラ「どこかに私好みの美少年はいないかしら」
魔の国には「メイド協会」なる組織がある。
魔の国全てのメイドによって構成された団体だ。
その役割は広く、主にはメイドが主人と対等な立場に立って労働条件について交渉するのを助け、メイド相互の情報交換・研修を目的とし、メイドのために職場の斡旋をする。
メイドの、メイドによる、メイドの為の組織なのだ。
ちなみに協会長はアトリア。
そして、そんな組織で何といっても一番人気の職場はというと、「魔王城」である。
給与面にしても福利厚生にしてもナンバー1の待遇であり、魔王の使用人というメイドとしては最上級の地位と名誉が手に入る。
彼女らは超・超・超・超絶エリートなのだ。
魔王城のメイドは、メイド長アトリアと家政婦長パラソルを頂点として、メイド事務局長、メイド事務局次長、メイド料理長の5人、さらにリキュール含む侍女10人までを上級使用人、つまりは役付であり幹部と呼ぶ。
そしてその他の大部分、ヒラの厨房メイドやメイド、メイド事務員が下級使用人と呼ばれている。
「もーっ!!
こんなバカひろい図書館をたった二人で掃除しろだなんて馬鹿じゃないの!?!?」
そんなヒラのメイドの一人、全メイド憧れの存在である魔王の使用人の一員であるサラは、魔王城内第一図書館でヒステリーを起こした。
分厚い本の山を運ぶことで痛めた腰を、トントンと腹立たしげに叩いている。
「ちょっと、そんなわかりきったこと叫ばないでよ。
頭が痛くなるし、もしメイド長の耳にでも入ったら、”氷鬼”の拳骨が落ちてもっと痛くなるわよ」
そんなサラにゼリーは顔をしかめ、眼鏡を手のひらでクイと上げて答えた。
彼女の方はちょうど保管されている本とそのリストを照らし合わせているところだった。
二人は下級使用人である。
一応ゼリーの方にはメイド事務員として辞令が出たが、基本的にメイドとは何でも屋である。
特に魔王の使用人とは、大抵のことをこなせるスペシャリストであった。
つまりは事務だの厨房だのという区分はなんだかんだ、あってないようなものだった。
そして現在、上から命じられた彼女の任務は、というか”下級使用人全員”の仕事が、今週中の魔王城'全域'の清掃である。
千人近いとは言っても、激務というか異常なほどのノルマだった。
それほど広いのだ、魔王城という場所は。
ちなみにメイド事務員の本業は、その名の通り事務である。
出納管理やメイド達の賃金計算、或いは貴族との連絡やメイドたちに対する業務上の指示を、魔王や幹部メイドの意思を代行する形で遂行するのである。
その他には、外国との接受に関する事務、魔王の儀式に係る事務をつかさどり、魔王の内印(魔王の命令が書かれた文書に押印される印章)を保管している。
「もー、こうなったらあれよ!
美少年に優しくされることでしか、私の疲れは癒されないわ!」
「出たよ、サラのショタコンが...」
ため息をついたゼリーが、メイド服の上に着ているフリル付きエプロンの裾で、メガネについた埃をぬぐった、その時だった。
魔王がオドオドとした様子で、ドアの向こうから顔をのぞかせたのだ。