アトリア「自分が、3人欲しい・・・・」
「自分が、3人欲しい・・・・」
「?
今なにか言いました?」
メイド長アトリアの独り言は、左隣の席の、侍女のリキュールに届いた。
ちなみに右隣はアトリアの右腕、家政婦長のパラソルである。
円卓についているのは15人の上級使用人だった。
正確には一人遅れているため、現在集まっているのは14人。
場所は魔王城内第一会議室である。
臨時の、最高幹部会議が開かれたのである。
「三人私がいたらいいな、って。
・・・仕事が多すぎなのよ。
私が分裂して、仕事を分担できたらなって話・・・。
一人はメイド長としてあなたたちに命令をする私。
もう一人はメイド協会長として、あなたたちを助ける私。
そしてもう一人は、魔王陛下と・・・」
そこまで言ったアトリアは少し頬を赤らめて、そのあととても大きなため息をついた。
切れ長のつり目の下には睡眠不足なのか、うっすらと隈ができていた。
「私が・・・いるじゃないですか?」
リキュールがポツリとつぶやく。
「え?」
「そりゃあミスばかりですし、メイドとして半人前の私です。
そんなに誠実なわけでもないですし、嘘だってつきます。
魔物として強力なわけでもない。
はっきり言って、上級使用人という地位は、私にとって力不足もいいところです・・・」
リキュールはアトリアと目を合わせることができず、完全に下を向いてしまった。
「・・・」
「でも。
だけどですよ?
私じゃ大して力にはなれないかもしれないけれど、メイド長には元気で怒鳴っていて欲しいっていうか・・・。
別に私、マゾじゃないので怒られたいわけじゃないんですが・・・。
あー、何言ってんだろ、私。
なんか泣きそうです・・・」
パラソルと共謀して魔王を迷子にさせた罪悪感も相まって、リキュールは涙目になっていた。
そんな彼女の頭を、メイド長はほほ笑んで優しく撫でる。
「ありがとう。
あなたのその純粋さは、大切にしなさいね。
そして大丈夫。
あなたが「ここ」にいる理由はちゃんとあるのよ。
それに私にはあなたをそそのかした、真犯人がわかるから」
アトリアがパラソルを横目でジロリと睨むと、彼女は肩を竦めさせた。
「遅くなってごめんなさーい!
でも、私のこの、可愛い顔に免じて、許してね♥」
そして部屋へ入ってきた最後の幹部は、両手の人差し指で頬を突き、かわいくぶりっ子ポーズを決めたのだった。
自分で言うだけあって、少女はここにいるメイドのなかでも特に可憐な容姿であったが、周りの反応はというと芳しくなかった。
なにしろさんざん待たされて、皆苛立っていたのだ。
「チカ、遅刻よ。
後で反省文を用紙5枚にまとめて、私に提出しなさい」
アトリアの言葉に、チカと呼ばれた少女はがっくりと肩を落とした。
「さて皆さん、集まってくれてありがとう。
単刀直入に言います。
皆さんには私の分身になってもらうことにしました」
メイド長は立ち上がり、そう言い放ったのだった。