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僕「この世から、さようなら」

突然だが、今僕は自殺しようとしている。

しかし、やっぱりマンションの10階から飛び降りるのなんて無謀だったか。

高所恐怖症の僕にはキツイ。

10階と9階の間の階段、さらに言うと階段と階段の間に踊り場があるが、そこには古ぼけたコンクリートで長方形に切り取られた、真っ暗な空がある。

そのコンクリに片足を引っかけ、身を乗り出した状態だ。

僕は視線を下に移す。

真下には街灯やら自販機の光で照らされた駐車場があるが、夜中なので人通りもない。

豆粒くらいの大きさの車がいくつか停まっている。

10階なのでここから地面まで約30メートルか。

あまりの高さに頭がクラクラして、ここから落ちてしまう錯覚に襲われる。

いや、落ちるためにここに来たのだが。

全身ガタガタ震えが止まらないし、冷や汗で全身がビッチョビチョだ。

服を絞ったら、バシャ―ッと大きな水たまりができるかもしれない。

心臓の鼓動がうるさすぎて落ち着くためにつばを飲み込むが、その音もうるさすぎた。


ところで、なんで高所恐怖症の僕がそんな自殺の仕方を選んだのかと言うと、一息で楽に死ねそうだから、道具もなにもいらないから、電車とか新幹線に飛び込むのに比べたら他人に迷惑がかからなそうだから、と言った理由からだ。

幸いにも僕には家族がいないので、僕を心配する人はいない。


そして僕はここのマンションに一人暮らししている、というわけではない。

この近くのアパートの一室を借りているが、そこは2階しかないので飛び降り自殺には向かないのだ。

そういうわけで僕は今、ここにいる。

ここには郵便配達のバイトで何度か来ていたから、その存在を知っていた。

まさかここで死ぬとはあの頃の僕には予想もできなかっただろうな、と自嘲気味に笑ってみせる。




笑いと共に、涙が一粒ポロリと零れ落ちた。

そうしたら何かのブレーキが外れたようにボロボロと涙が次から次へと落ちて止まらなくなった。


「うぅううううううう・・・・」



違う。

いつかこうなるんじゃないか、と思っていた。

いつか僕は、自分で自分の命を絶つことになるんじゃないか、と思っていたのだ。


両親と弟が交通事故で死んだあの夜も。

意地悪な叔父さんの家に引き取られ、毎日毎日虐待された日も。

小学校で苛め抜かれ、優しいおばあちゃんが作ってくれたお弁当を砂まみれにされた日も。

中学でも苛められ、高校でも苛められ、職場でも苛められ、これ以上生きる自信が持てなくなったのだ。


お父さん、お母さん、ごめんなさい。

僕は今日、自ら命を絶ちます。


神様、最期に一つだけ願いを叶えてくれるなら・・・

いや、いいんです。

叶えてくれなくても。

最期に、情けない僕の泣き言、弱音を聞いてください。


僕はコンクリートの壁を蹴り、夜空に跳んだ。

目をつむっていたので知らなかったが、その瞬間、空に流れ星が光った。








誰かに優しくして、欲しかった。





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