表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/16

とある日常とマッスル林檎(後編)

 果竪は馬鹿と言われる。

 それは果竪自身もそうだと納得していた。


 あんなに馬鹿にされ苛められ、ヘタすれば殺されかけていたというのに。


 それでも懐いて笑っていられる果竪は。

 大馬鹿ものだと言う。


「小梅ちゃん、林檎持ってきたよ!」

「でかしたっ」


 果竪は袋に入った沢山の林檎を小梅に差し出す。これで、明日のおやつの下ごしらえも完璧だ。

 しゃりしゃりと林檎の皮を剥いていく小梅の隣で、果竪もナイフを手に取る。

 今では大軍となった萩波の軍は、その規模からしても沢山の仕事がある。特に、食事の支度ともなれば、それだけで大仕事だ。

 基本的に、進軍中は戦いに参加しない後方メンバー達がそれを行う。駐屯している時は他にも手伝う者達が居るが、後方メンバーである果竪や小梅にはいつもの仕事だった。


 しゃりしゃりしゃり 


「あ」


 しゃりしゃりしゃり


「あや」


 しゃりしゃり


「果竪、ストップ」


 何度目か手を滑らせた果竪のナイフを持つ手を小梅は掴む。寸での所で、再流血は免れた。


 美味しそうな林檎の実は、皮を剥いた筈なのに、赤く染まっていた。林檎を持つ果竪の手に、あちこち切り傷があった。


「とりあえず林檎を下ろして」

「え? でも早くしないと」

「それより傷の手当てしなさい! 化膿したらどうするのっ」


 小梅に怒られ、果竪はナイフと林檎をまな板の上に置いた。そこに、涼雪が心得たとばかりに救急箱を手に駆け寄ってくる。


「それにしても、本当に上達しないね」

「そんな事ないよ。前は十回切っていたのが、今は八回だもの」


 それは上達したと言えるレベルでは無い。


「果竪は味付け担当になりなよ」

「無理。味付けは調理の最高責任者の仕事だよ」


 特に大鍋の味付けともなれば、その軍の食事の命運を握る事となる。失敗すれば、全員の胃袋の危機となる。


「じゃあ盛りつけ担当で」

「まだそれまで時間あるから手伝」

「手を切ったらどうすんのよ」

「むぅ……」


 果竪は頬を膨らませつつ、小梅の説得にしょんぼりと頷いた。


「あ~~、でも果物は良いとして、今日の夕食も野菜中心でしょう? 久しぶりに肉か魚が食べたいな」


 萩波の軍は比較的、財政に恵まれている。お金の運用が上手い者達が多いからだ。商才に恵まれている者達も多い。

 しかし、このご時世、肉は高価だ。それに、魚の方も海や川の近くでなければ手に入りづらいし、今は『平原』に居る。

 川はあるけれど、流石にこの大神数の食を賄う魚は捕れない。


 現在、『泰平国』から物資の提供はあるが、それだって高価な代物は限られている。むしろ、野菜があるだけで恵まれている。


 それは小梅にも分かっていたが、それでも成長途中の身としては身体はタンパク質を求めている。あと、口にするのは自由だ。


「そうですね……山の中なら、私もお手伝いするんですけど」


 涼雪の言葉に、小梅は「熊肉か」と呟いた。


 この世界には、何種類もの熊が居る。

 身体の大きさは様々だが、時として凶暴さを露わにして神を襲ったりもする。数百年前は、沢山の熊が里に下りてきて、麓の村を襲いまくった--という話もあった。


 いわば、熊は恐ろしい存在だ。

 しかも元々頭数も多かったのが、近年更に数を増したせいで、山に入れば出くわす可能性が格段に上がっていた。

 それどころか、麓に出てくる頻度も多くなっていた。

 彼らの住まう領域に足を踏み入れたならばある意味仕方ない部分もあるが、向こうから来られるとなると、もはや危険な害獣そのものである。


 ただ、熊は上質の肉がとれるし、毛皮も内臓も活用出来る。熊の胆なんて、高価な漢方としてやりとりされる。

 人間界と呼ばれる世界でもそうだったらしいが、この世界でも熊は凶暴で恐ろしい獣であると同時に、肉も毛皮も内蔵すらも神を助ける物だった。


 が、熊を狩るのは大変だ。

 熊は頭の良い動物であるから、時としてプロの狩神でさえ返り討ちにあう。


 しかし、この涼雪という少女は、まだ幼いながらプロの狩神顔負けの熊ハンターだった。そもそも、熊を追いかけている時に萩波達の軍に出会い、凶暴熊、いや、殺神熊に襲われかけた明睡を見事に助け出し、獲物を仕留めたその雄々しさに萩波の軍の男の娘達の心臓は高鳴ったと言う。


 いつも柔らかい笑みを浮かべ、おっとりとした少女とは同一神物とは思えない凛々しさだったと言う。


 が、普段の涼雪はおっとりとした雰囲気を纏い、いつもにこにことしている。どちらかと言うとのんびり、ゆったりとした少女だ。普段の涼雪しか知らない者達からすれば、到底信じられない話だろう。


 だが、涼雪は軍に加わってくれてから、度々熊を狩っては軍に新鮮な熊肉を提供してくれた。


「少し時間はかかりますが、許可さえ貰えれば狩りに行きますが」


 涼雪はそう提案した。



「却下」


 それを離れた所から見ていた朱詩は即却下した。

 かなり離れていると言うのに、唇の動きが確認出来るその視力、あと読み取った動きを解読出来る読唇術のレベルの高さに、茨戯は思った。


「相変わらずの変態レベルの能力の高さよね」

「誰が変態だよ」


 朱詩とは、この軍に来てからの仲だ。朱詩の特性というか性質から、たいてい一緒に居る事が多い茨戯。他に、明睡も一緒に居る事が多く、周りからはトリオ--三神組として捉えられている。それは良いが、敵からは三姫と言う、嬉しくもないどころか不名誉な呼ばれ方をしている。共に、種類は違うが傾国級の美女、美姫すらも足元に及ばぬ性別を超越した容姿の持ち主達である。

 周囲からすれば的確過ぎる、むしろ不名誉どころか賞賛に値する表現だが、茨戯達からすれば男としてのプライドをけちょんけちょんにされているとしか思えない。


 あと、茨戯は朱詩が軍に入る前から読唇術が出来る事は知っていたが、それが今のレベルまで引き上がったのは彼が小梅という少女をストーカー……いや、観察するうちにという事を知っている。


「あ、何一緒に熊狩りに行く約束してんのさ! くそっ! 小梅のくせして生意気! くたばれっ」


 本神に言えば、確実に殴られる事間違いない暴言を吐く朱詩。殴られても胸で泣かせてなんてやらない。小梅が泣きつくなら胸を貸しても良いが。ただ、あの気の強い少女が他神に泣きつくなんて事はそうそうしないだろう。

 せいぜい、朱詩に対する怒りの愚痴を聞かされるぐらいだ。


「しかも果竪まで誘うんじゃないよっ! 果竪はか弱いんだよ?! もうっ! 自分の化け物級の体力を基準にしてっ!」

「アンタに化け物級なんて言われたら、小梅が可哀想よ」


 特に、伽に関する体力では、朱詩は上位に入る多さだ。というか、たいてい相手が犯り殺される。いや、むしろ朱詩は抱かれる方だから、相手が全ての精と生命力を朱詩に吸い尽くされてしまうのだ。


 全く同情はしないけれど。


「茨戯も止めてよ!」

「嫌よ。盗み聞きがバレるじゃない」

「たまたま聞いた風を装えば良いだろ? 何の為の顔だよ」

「盗み聞きしても許される顔だった事は一度もないから」


 そう言う茨戯だが、後に諜報機関のトップに君臨する。


「っていうか、熊だよ熊! 危険だろっ」

「涼雪が居れば大丈夫よ。あの子に敵う熊は居ないと思うわ」


 幾つもの村を襲い、何神もの神の命をその爪で抉り、牙でかみ砕いていたあの『巨大熊』こと『殺神熊』を葬った涼雪は、誰から見ても超一流の熊ハンターである。


「確かに涼雪は強いけど、でもあんなお荷物が二個もくっついていったら本来の力が出せないでしょ?! 絶対に足手まといになるんだからっ!」

「それは否定しないけど」


 小梅と果竪の戦闘能力というか戦闘のセンスというか、そういうのは皆無だ。これは、古参メンバー達、またそれに準ずる者達の中でも平均以上の美貌と才能、能力、神力を持つ者達に共通した観察結果である。


 ただ、茨戯も含めて、彼等にも共通した欠点があった。


 それは、彼等の見る目の基準が高すぎるというものだ。

 しかも、近しいものに対して。


 彼等は見る目の基準は高いが、相手の能力を的確に判断出来る目を持っていた。しかし、なんでなのか、それが自分達に近しい者達に関しては、的確に判断する事が出来なかった。

 すなわち、かなり上まで引き上げた基準を適用するのだ。

 普通なら、他の者達であれば平均レベルという判断も、果竪達に適用されると平均以下とみなしてしまう。


 不思議なフィルターがかかるのである。


 おかげで、一般的な交渉や戦闘その他に関して的確な判断と予測、そしてそれに伴う様々な手法で幾つもの困難を潜り抜けてきた彼等だが、近しい者達に関しては後々までその判断を見誤る事となる。


 そして、近しい者達に対しては幾つもの失策を繰り広げるのだ。


「--何をしているのですか?」


 そこにやってきたのは、萩波だった。

 現在ここに駐屯する軍の最高権力者かつ最高責任者である萩波。いや、彼は軍のトップというよりは、いわば『王』の様な存在だった。

 彼を頂点に、軍は成り立つ。

 そして、彼の脇や周囲を固めるのが、古参メンバー達やそれに準ずる者達--の中でも、一際美しく、能力、才能、神力に飛び抜けた者達だった。いわゆる、平均以上の者達である。


 今も、彼の後ろには数神の古参メンバー達が付き従う様に立っていた。それぞれに麗しく高貴な顔立ちと雰囲気を漂わす男の娘達、そして美女だ。


 とはいえ、一番萩波の側に付き従う事が多いのは明睡、朱詩、茨戯の三神であり、彼等は軍では『三卿』と呼ばれている。


「何って、見てわからないの?」

「小梅のストーカーですか」

「んなわけないでしょ!」


 的確過ぎる萩波の言葉に、茨戯を含めた古参メンバー達が吹き出す。唯一、美女だけが「可哀想な小梅……」と嘆いていた。


「僕はきちんと護衛してただけだよ」

「護衛ですか」

「そう! おっちょこちょいで、ドジで間抜けで何もかもが平均以下の三神娘のね!」

「今は四神娘ですけど」


 美女がそう言うと、朱詩は「は?」と果竪達の方を見た。

 すると、そこには見覚えのある幼い少女が一神居た。


「葵花……」


 茨戯が目を見開き、小さな声で彼女の名を呟く。


 葵花--。

 彼女は、今から二年程前に、この軍に--茨戯に拾われた少女だった。


 それは、ある村から救助の要請が始まりだった。

 駆けつけた時には、村は天帝軍の焼き討ちに遭いほぼ全滅で生存者は皆無。いや、一神だけ生き残っていた。それが、葵花という少女だった。

 しかし彼女はそれこそ生きているのが不思議なほどに骨と皮ばかりのやせこけ、あちこちが傷だらけの少女だった。

 村に僅かに残っていた記録と、萩波の術で村に刻まれた過去を読み取り、その少女が村で行われていた儀式の生け贄として売買され、監禁されていた事を知る。

 物心つく前から彼女は村の地下牢に囚われていた。食べる物も満足に与えられず、常に村神達の憂さ晴らしで暴行を受けた彼女は、むしろよく生きていたと驚くほどの神生を送らされてきた。


 食べ物も着る物も与えられなかった葵花。

 けれど、村の儀式で彼女は祝詞を唱える必要があり、何とか話をする事は出来た。言葉を教えられたのだ。けれど、それだけだった。


 読み書きも満足に出来ない彼女は、十一歳を迎えたその日に村を滅ぼされた。

 生け贄として捧げられる、数日前の出来事である。


 彼女は茨戯によって発見された。

 殆ど息も絶え絶えだった彼女は、茨戯によってその声なき声の悲鳴を聞き取られ、そして助け出された。


 傷はすぐに癒やされた。

 けれど、食事も満足に与えられていなかった彼女は酷く食が細く、また一気に食べ物を与える事で身体に負担がかかり過ぎるとして、少しずつ食べる事にならす所から始められた。

 身体も清潔にさせ、服を着る事を覚えさせた。


 最低限、生活に必要な事を教え込む中で、葵花は物覚えが良い事に茨戯が一番最初に気付いた。とにかく、葵花に必要なのは生きる為の力だった。


 怯える事も忘れ、感情をどこかに置き忘れた十一歳の少女は、いつも暗い片隅に蹲っていた。そんな彼女が唯一受け入れたのは茨戯、そして果竪だった。


 いや、一番最初に受け入れたのは果竪だろう。

 茨戯は、拒否はしないものの、暗い片隅に蹲る葵花をどうして良いか分からなかった。そんな中、果竪は彼女に話しかけ続けていた。


『無駄よ。答えてなんてくれないわ』

『私は答えて欲しいから話すんじゃないよ。話したいから話すの』


 果竪はあっさりとそう言って、葵花に話しかけた。時には、その隣ですやすやと眠り、葵花のボロボロの髪の手入れをした。

 食事を持ってきて、口にしようとしない葵花の横でパクパクと食べる事もしょっちゅうだった。


 茨戯はそれを見て、同じようにする事にした。


 そんな風にしているうちに、葵花は食事に手を付けるようになった。今までは周囲が強引に食べさせていた中での自発的な行動に、周りは本当に驚いた。

 そして、少しずつ暗がりから出て、茨戯や、他のメンバー達の側で眠る事、またそっと服を掴む仕草に目元を緩ませ、口元をほころばせる者達が続出した。


 そんな中、果竪はいつも通りだった。

 葵花と一緒に食事し、彼女の隣で色々と作業をする。時には、二神ですやすやと眠ってしまう事もあった。


 ただ、葵花が一番最初に話した言葉は「茨戯様」だった事には、周囲は凍り付いたが。


「え? 何か問題あるの?」


 と、果竪はむしろ首を傾げた。


 果竪は大物だと、周囲が思ったのは言うまでも無い。


 ただ、葵花は一番最初に茨戯の名を呼んだが、果竪の後をついて回る事が多かった。勿論、彼女にとっての一番は、茨戯だと言う事は誰が見ても分かる。

 茨戯も根気よく彼女を現在に至るまで世話をし続けている。きっとこれからもそうだろう。そして葵花もそんな茨戯に一番良く懐いていた。


 しかし、果竪の姿を見つけると、彼女はそちらに向かっていく。今もそうだろう。


 朱詩が贈ったぬいぐるみを片手に、葵花は果竪の隣で作業を黙って見ている。



「葵花も熊狩り行く?」

「……」



 小梅が葵花を熊狩りに誘う。



「あんの、馬鹿娘! 何葵花を危険な事に誘ってんのよ!」


 茨戯にとっては妹、いや、娘同然の養い子を熊狩りに誘う小梅に茨戯は思わず叫んだ。



「小梅ちゃん、熊狩りは無理だよ。葵花ちゃん、ようやく普通に動けるようになったぐらいだし」

「そっか~」


 やせ細っていた葵花は、二年かけて何とか体重を十キロ増やした。食が細い中で、十キロも増えたのはある意味奇跡だった。けれど、まだまだ葵花の体重は軽すぎる。少なくとも、あと五キロは増やさないと健康的に危険だった。しかも、長年の栄養失調が原因で、彼女の見た目はどう多く見積もっても六、七歳だ。


「では、葵花の為にも熊を狩らないと」


 果たして、食の細い少女に熊肉は与えて良いものなのか--いや、ダメだろ。


「……」

「ん? 危険じゃないかって? 涼雪ちゃんなら大丈夫だよ」

「そうよ、涼雪は凄く強いものっ!」


 明睡が居れば、顔を真っ赤にして怒るが、残念ながら茨戯達の側には居なかった。あと、葵花の変化に乏しい表情を見て言いたい事が分かる果竪は相変わらず凄い。


「あたしも涼雪みたいに特技があれば良かった」

「小梅ちゃん」

「そうすれば……もっと色々出来たのに」


 小梅は、ふてくされた様な……いや、どこか悲しみを讃えた瞳を浮かべた。


「別に、後方支援が嫌ってわけじゃないよ。でも、後方支援でも、あたしに出来る事なんてそう多くはないもの。むしろ、タダ飯ぐらいって言うか……」


 そこまで口にして、小梅はがっくりと項垂れた。


「小梅ちゃん……」

「そんな事ないですよ、小梅ちゃん」

「……」


 葵花がぽんぽんと小梅の背中を叩く。


「しかも女らしくないし、こんなに気が強いし、朱詩からは嫁のもらい手すらないだろうって馬鹿にされるし」

「そんな事ないよ、小梅ちゃん!」


 果竪は小梅の両手をグッと掴んだ。


「もし私が男の子なら、小梅ちゃんをお嫁さんにしたいもんっ」




「朱詩、地団駄で地面を割るのは止めて」


 茨戯は朱詩を窘めた。




「っ! あ、あたしだってもし男なら果竪をお嫁さんにしたわっ!」


 そう言って、小梅と果竪は抱き締め合う。




「敵は身内に居るという言葉は正解ですね」

「萩波、落ち着いて! 子供の戯言よっ」


 茨戯を始め、周囲の古参メンバー達が萩波を宥めにかかるが、彼の目は全く笑っていなかった。いや、小梅を始末する事は無いかもしれないが……その後の彼の機嫌の悪さで被害を食らうのは、主に彼の側に居る者達である。


「ふ、ふんっ! そうだよ、あんなの子供の戯言じゃんっ! っていうか、男じゃなくて自分よりも年下の女の子に気を遣われるなんて、むしろ可哀想って言うか」


 朱詩は強がった。どう見ても強がりだった。




「あのね、もし本当に誰もお嫁に貰ってくれなかったら、性転換の薬でも飲んで果竪をお嫁にもらおうかな」



「萩波、落ち着いて!」

「子供の戯れ言を本気にしないでっ!」


 萩波よりも年上のメンバーも居た。

 しかし、自分達よりも遙かに強く優秀で聡明な主を彼等は必死に止めた--完全に下手に出て。




「小梅ちゃんは結婚出来るよ! 大丈夫、だって、他の子、小梅ちゃんの事、可愛いって言ってたもん!」



 朱詩が再び地面にヒビを入れた。



「それに、小梅ちゃん告白されてたじゃん!」

「そうですね、『僕と付き合って下さいっ』って言われていたし」

「いや、あれは街の買い出しか何かでしょ?」


 そんな風に女性陣が話をしている時だった。



「小梅の」


 朱詩がクワッと目を見開き、口を開いた。



「小梅の浮気者! 尻軽女! 小梅なんてクタバレっ」



 朱詩の怒声が小梅の耳に入った。



「……なんですって?」

「こ、小梅ちゃん?」

「朱詩君、なんて事を」



 小梅が、離れた所に居る朱詩を振り返る。



「誰が、尻軽女よっ! いつもいつも神を馬鹿にして! 喧嘩売るなら買ってやるからっ!」



 そうして、小梅は朱詩へと駆け寄り、そのまま取っ組み合いの喧嘩を始めた。



 それは騒ぎを聞きつけた明睡、明燐兄妹が駆けつけても収まらず。



「小、小梅ちゃん!! 林檎のお菓子あるから止めようよっ」



 何を思ったのか、果竪が林檎のお菓子を術で作ろうとし。



「あ」



 再び現れたマッスル林檎は、喧嘩を止めるどころか駐屯地を走り回った。しかも複数。

 とんだ地獄絵図だった。





「なあ、知ってるか? 昨日の林檎の化け物」

「いや、知らん」

「何でも天帝軍の送り込んだ生物兵器らしいぞ」

「なんて惨く非道なんだ」

「軍の上層部に多数居る男の娘達に向けてのものらしい」

「恐ろしい……まあ、心は折れるわな」

「男の娘って筋肉付かないからな、ああいうムキムキ筋肉は」

「なんて許しがたい天帝軍なんだ」




 無事に情報操作で天帝軍に責任を押しつけた萩波以下軍の上層部。果竪は暫く術使用禁止命令を受けたのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ