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僕と先輩の幸せ方程式

作者: 日ノ宮九条

短い短編です。

ノリで書いたものなので、暖かい目でみてやってください(笑)

僕には、一つ年上の彼女がいる。


僕と同じ高校に通うその人……紫藤櫻子(しどうさくらこ)先輩は学校一の美人だ。

成績も良くて、運動神経も抜群でしかもお嬢様。才色兼備な櫻子先輩は人気者だった。

だがらそんな櫻子先輩が、クラスでも目立たないような僕を、突然放課後の誰もいない教室に呼び出してあんなことを言った時、僕は正直夢でもみているのかと思ってしまった。



「……ねぇ、君、私と付き合わないか?」


ちょっと困ったような、はにかんだような表情でそういう櫻子先輩は驚くほど可愛かったのを覚えている。


「え、あの、僕なんかでいいんですか?」


僕の半信半疑の問いに、


「うん。君がいい。」


そう、無邪気に答える櫻子先輩はやっぱり僕がみた中で一番可愛かった。


「……僕は、先輩と釣り合うような人間じゃないですよ。」


僕がそういうと、先輩はにっこりと笑いながら言った。


「私は、君がいい。それとも、君は私のことが嫌い?」

「そ、そんなことは……。」

「じゃあいいよね?」

「……は、はい……。」


あの輝くような笑顔で言われたらハイと答えるしかないだろうと思う。


「ふふっ。それじゃあよろしく、ハル。」

「あ……。あの、先輩。」

「ん?なに?」

「僕の名前は神崎春(かんざきしゅん)です。」

「うん、知っているよ。だから、ハル。私はそう呼びたい。ダメ?」

「あ、いや、いいです、けど……。あ……。」


僕の返答に、櫻子先輩は嬉しそうに笑った。

そんな彼女の笑顔は、何処か懐かしいような、そんな気がした。




こうして僕たちは付き合い始めた。


櫻子先輩は、僕の質問にはなんでも答えてくれたけど、どうして僕を恋人にしようとしたのかだけはなぜか答えてくれなかった。


「ハルがハルだからだよ。」


そうやっていつもはぐらかされてしまう。

それでも先輩の笑顔にごまかされる自分がいるのだが。


結局、付き合って3ヶ月が経っても答えをおしえてくれなかった。

とはいえ、僕にそれに対する不満というものはなかった。

こんな美人でなんでもできる彼女に、不満なんて有るわけがないんだけれど。





そして僕はその日、その「理由」を知ることになる。





その日、僕の両親が事故で死んだ。





雨が降る日だった。






「……。」


僕は病院の前でただただ立ち尽くす。

傘もなにもささずに。


「……。」


ああ、人は突然大切なものを失うと、悲しみすらも湧いて来ないんだなと思った。


心に大きな穴がぽっかりと空いたように、涙も出て来はしなかった。


「……ハル。」


傘をさした櫻子先輩が向こうの道から駆け寄ってくる。


「……。」


先輩はなにも言わなかった。

ただ、黙って僕が濡れないように傘を差し向けてくれた。


二人でじっと、雨を見つめる。

まるで、世界に経った2人しかいないような錯覚に陥る。



「……ねぇハル。幸せって、なんだろうね?」


突然、先輩がそう切り出した。


「……私は、思うんだ。」


先輩は僕の返答を待たずに続ける。


「幸せっていうのは、方程式みたいなものなんじゃないかって。」


雨音がわずかに遠くなる。

青い傘がくるりと回る。


「なにをXに入れても、必ずその式が成り立つ。幸せっていうのは、そういうものじゃないかな。どんなことがあっても、なにが起こっても、答えは『幸せ』に繋がる。……たとえ、そこに入るものが『悲しみ』や、『苦しみ』であったとしても。」



それはきっと幸せに繋がっているんだよ。



先輩はそう、静かに言った。


「それでもね、ハル。」


先輩の綺麗な顔が僕の方を向く。


「それでもハルが苦しいなら、悲しいなら、それを方程式に、幸せに繋げることが出来ないなら、私が新しい式を立ててあげるよ。」


言葉を選ぶような、困ったような顔で先輩は言う。

ちょっと不器用な、精一杯の「優しさ」がそこにあった。


「……先輩。」


2人の視線がぶつかる。


先輩の綺麗な瞳を見た途端、僕の心の中から、なにが溢れて来た。


「っ……。」


頬の上を、雫が流れ落ちる。


「っ、……、……先、輩。」

「……うん。」

「僕、は……。」



先輩と同じように、幸せ方程式をたてられますか?



「もちろん。」


そう言って先輩はにっこりと微笑んだ。

そして、僕をギュッと抱きしめる。


「……でも、今だけは、今、この時だけは悲しんでもいいんだよ。泣いたって、いいんだよ。」

「……は、い……。」




そうして僕は泣いた。




そんな僕を、櫻子先輩は黙って抱きしめてくれた。




「……すいません、先輩。」


彼女の前で泣いてしまったことが恥ずかしくて、僕は下を向いてうつむいた。


「いいよ。」


先輩は笑って首を振った。



「雨、上がったね、ハル。」

「……はい。」

「あのね、ハル。」

「……先輩?」


先輩ははにかんだように微笑み、言った。


「私は、ハルのことが好きだよ。」

「っ!!」


突然の爆弾発言に、僕はピシリと凍りつく。


「春夏秋冬の、(ハル)。移り変わって行く季節のなかで、凍った雪を優しく溶かす、春。君はいつも私にとっての『春』だったんだよ。」

「え……。」


ふわりふわりと吹く風が先輩の髪を優しく揺らす。


「小さい頃にね、母を失って、一人っきりで泣いていた私に、君が手を差し伸べてくれたんだよ。自分も泣きそうな顔をしながら、それでも懸命に私を慰めてくれたんだよ?」

「あ……。」



そうだ。


なぜ忘れていたのだろう。


まだ僕が幼い頃、公園で泣いていた女の子を懸命に慰めようとしたことがあった。

どうしていいかわからず、じぶんもなにそうになりながら。


そうか。


先輩に付き合わないかと言われた時、ハイと答えたあとの彼女の笑顔に、懐かしさを感じたのはそういうことだったのか。


「あの時、必死に私を慰めようとしてくれた君は、私にとっての『春』だったんだよ。あの時君と出会っていたから、私は今、幸せを得られているんだよ。」


これが、私の幸せ方程式だよ。


そう言って先輩は花のような笑顔を僕に向けた。



そうして笑った櫻子先輩はやはり可愛くて綺麗だ。


「僕も、好きですよ、先輩。」



雨上がりの青空から注ぐ太陽の光が2人を優しく照らす。


好きな人と苦難を乗り越えて進む。


ああ、きっとこれが僕と先輩の幸せ方程式なんだろう。


僕はそう思った。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

この他にも、「お仕事ですよっ、探偵様!」を連載中です。

基本推理ですが、ちょっぴり恋愛も入っていますので、読んでいただけたら幸いです^ ^

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