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第一話

「早く!早く着替えて出動してくれ!」

 如月きさらぎは自分で自分の声に少し驚くぐらいヒステリックに叫んでしまった。

「まってえ。背中のボタンが上手く押せないのお」

 ヘルメットに装着されたヘッドセットのスピーカーから芽衣未めいみの悠長な声が聞こえてくる。

 彼女はお着替え中、部隊特装の九六式装輪装甲車内に改装された彼女専用のフィッティングルームでなにやらもたついている様子。

「ねえお兄ちゃあん、お着替え手伝ってえ」

 甘ったれた声。

「バカ俺はお前の兄貴でも何でもねえ。隊長だろ。隊長と呼べ」

「だってええ」

 泣きそうな声にイライラが募る。なんでだ。俺は国民の安全を守るため警察官の道を選び、異例の優秀な成績を修めて、二十歳という最年少で特殊急襲部隊SATへの入隊を果たした途端いきなりなんでこんなへんてこな部隊の隊長を任命されたんだ。しかも運用兵器が小学六年生の女子だなんて……

 虚無感が襲って頭が虚ろになっていく。多分うつ病の一歩手前だと、如月は思った。

「隊長、アタック成功です。目標倉庫シャッターを突破、周囲を制圧完了です」

「手伝ってていってるでしょ、おにいちゃん!」

 無線がギャップのある報告を次々と伝える。時間がない。

 ここは湾岸の倉庫街。長年にわたり、日本国内で犯罪に関与してきた海外マフィアの撲滅作戦から数年、警察の総力で殲滅寸前まで追い詰めた。今夜が最後の総力戦なのだ。

 周り数キロは封鎖され、完全武装された敵組織との激しい銃撃戦が繰り広げられている。

 装甲車付近にもかなりの被弾数だ。敵もしぶとい、しかも重火器だ。RPGロケット砲まで持ち込まれていた。仲間の必死の攻防で、なんとかシャッターを解放することが出来た。 今から日本警察の極秘兵器『機甲少女』が投入される。

「うおおおお」

 雄叫びと共に隊一番の巨漢櫻井が機銃で掃射をかける。手に持たれてるのはベトナム戦争時に米軍が使用し活躍したM60機関銃。櫻井は総重量十キロもあるそれを、まるで普通のライフルのように肩付けして撃っている。威力も相当だが反動も恐ろしい。しかも現代装備に合わせ近代化され、光学サイトやフラッシュライトまで装備されている。客観的にみれば格好いいのだか変態銃だかわからない有様だった。

日本の警察組織として、そんな自由な装備でいいのか?という疑問を上司に投げた事があったが、何にしろこの部隊そのものが奇異なものであり、超実験的(何しろ物理現象の拘りすら突破しているのだから)な存在、建前上実在してすらいない部隊であるゆえ、装備に関しては潤沢な資金と隊員の意思が尊重されるといった具合なのだった。

かく言う自分自身の希望で、隊員の標準装備のサブマシンガンはTDI ヴェクターという、まだ米軍が正式採用する前のプロトタイプの銃を使用している。特殊なカムを使った構造で、前時代的とも言えるが強大な威力を誇る四十五口径ACP弾の物凄い反動を、下方に流してフルオートを容易にするという画期的な銃だ。そんなのを自分も愛用している以上櫻井を責める事はできないのだ。

そんな事より。そんな事より!

その我が隊の最高最強の人型兵器が(人なのだが)まだ戦闘準備が出来ていない。体育の時間に着替えにもたもたする生徒がいたことを如月は思い出した。俺が同級生だったらそんな女子はつい泣かしちゃうなと思いながら。しかし、今はプールの時間でもドッヂボールの時間でもないぜ!

「わかった!手伝うからハッチを開けるぞ!」上方にあるハッチをくぐって芽衣未のいる部屋におりて、如月は絶句した。

「ふえええん。上手く着れないよお」

 と変なポーズをとった、全裸の少女がもがいていた。

 どんな変なポーズかというと、昔の有名な少年ギャグマンガの登場人物の決めポーズ「シェー!」に似たポーズ。(ググるといいだろう)それを中途半端に服に絡められた全裸の少女がキメていた。

「お前全く着れてないじゃんかよ!なんでハダカでおもしろポーズとって出落ちねらってるんだ。バカなのか!」

「だってややこしいんだもーん。とりあえずたすけてえ」

 シェーのポーズのままじたばたしてコロンと転ぶ。如月は芽衣未が全裸な事に目もくれず、起こした後、あらためてスーツをはぎとる。

「お兄ちゃんのえっちぃ。何ジロジロみてるの」

芽衣未が身体を手で隠すそぶりをする。

「見てはいるが、ジロジロはしてねえ。第一子供が裸であっても何も俺は思わん。ロリコンじゃないんだから」

 如月は黙々とスーツを装着する作業に移行する。全裸に装備するというシークエンスは勿論折込済みだ。ブカブカだったスーツは背中のロックボタンを押すことで瞬時にフィットする。

どっかのアニメみたいだな。でもアレってボタン前についてたよな。普通後ろにつけないよな、まさかこういうちょいエッチネタを仕込むためのなんかの設定なのかなとぶつぶつつぶやいていた。

コスチュームはワンピース型の水着に似ていた。それよりも白いスクール水着に近似していると言っていいだろう。超強化プラスチック製で外側から触ると異常に硬い。7.62ミリ弾の直撃にも充分耐えると言われている。内側、つまり装着者の動きに対しては柔軟に動くという特殊素材だった。腰回りにはひらひらとしたフリルのような物がスカート状に囲っている。ブーツも同じ素材で、オーバーニーハイソックスみたいな丈で少しだけ太ももが露出している。普通ここも隠さんかと如月はツッコミを入れる。

腕にも同様の肩の一部が剥きだした長いグローブ。頭にはヘッドセットとティアラが合わさったような複雑な形状のものが載せられている。通信装置と対悪魔干渉装置が合わさっている。

 これを付けないと悪魔に身体も精神も乗っ取られるって話だけど……でもあのスーパーマッドサイエンティストの神藤博士の言うことはいまいち信用出来ないよな。このスーツだって魔術による身体能力強化サポートの意味があるとか言って、あのおっさんの趣味丸出しのような気がする。大体なんで魔法使いがこんなちっさな女の子じゃないといけないんだよ。俺は興味ないけど、多分芽衣未こいつって滅茶苦茶美少女ってやつじゃね。

 緩やかにウェーブが入った黒い背中までかかるロングヘアーを頭の上の方で二つ結びにした華奢な体躯をした彼女はあからさまに誰が見ても振り返ってしまうような、まるで人形のような丹精なスタイルと顔立ちを持っていた。数ある芸能プロスカウトマンの誘いを断って、警察庁所属の魔法少女になるなんてどうかしてると思った。

「じゃあランドセル背負ったら出撃準備完了だね」

彼女がランドセルと呼んでる背中に取り付けられたリュックパックが、この総合装備のコアを成す「Magical Fair Exchanger」(M.F.Eシステム)と呼ばれる装置だが、見た目がランドセルにしか見えないのでそう呼ばれても仕方ない事だった。

 如月はランドセルのインジケーターで満充電を確認する。完全放電まで約三分が、彼女の魔法少女としての活動限界時間。追加装備の大型バックアップバッテリーも開発はされているが、「おもーい」という理由でお蔵入りとなっている。元より三分間彼女が本気で活動すれば恐ろしい結果を招いてしまう。

「時間が無い。早速召還するぞ。神父様!」

 悪魔召喚はM.F.Eシステム自体が自動で行う。神父はもしシステムに不具合があった時ののバックアップエクソシストであり、契約のサポート役でもある。だが決して悪魔召喚自体には 聖職者であるゆえ関わらない。

「それじゃいくね」

芽衣未のあどけない、あっけない声と共にランドセルが駆動音をさせる。スカート状のフリルが青く輝いて光線を出し、地面に図形を映し出す。

 それは魔方陣だった。ランドセルのシステムは、位置、次元、時間の軸で最もシンクロする、最も最適な高位かつ適性な悪魔を検索し、それに見合った召喚呪文を芽衣未に伝える。予め脳内に記憶させた呪文をほぼ自動口述で彼女が唱えだす。

如月にとっては呪文などチンプンカンプンなおまじないぐらいにしか聞こえない。

その時だった。召喚の儀式を見守っていた神父が、呪文の内容に聞き耳を立てた途端、青ざめ叫んだ。

「まさか、システムは『アスモディウス』を召喚しようとしてるのか」

叫んだ途端尻餅をつきガタガタと震えだした。

「誰ですかそれ」

「キ、キリスト教七つの大罪の一つ色欲を司る最高位悪魔だよ。この時代のこの時間軸になんでそんな大悪魔が召喚されるのだ……神よ……」

 その瞬間魔方陣の周りの空間が怪しく光り出して、如月と芽衣未、神父を囲んだ途端大きな衝撃が走った。

 耳を切り裂くような、何か亡者が泣き叫ぶような甲高い声。周囲を漂う異臭。

 気づけば装甲車は跡形も消えさって、目の前に巨大な怪物が出現した。

胴体から生えた三つの首はそれぞれ牛、人、羊の形をして、毛むくじゃらの身体からは巨大な尻尾が生えていた。異常な形容が周囲を怪異の世界に引きこむような感覚を呼び出した。

 如月は呆然として、神父は失神寸前でなんとか意識を保った状態で座り込んでいた。

「おいおい、俺を呼んだのはこんな可愛子ちゃんか。やべえ可愛い」

アスモディウスの第一声に拍子抜けた。よく見たら真ん中の顔がにやけている。他の牛と羊もそうみたいだが、動物なのでにやけて表情が解らなかった。

 芽衣未はよくわからなーいって表情できょとんとしている。

実験ではいくらシステムの召喚法が優れていても、みそぎの位に限度があるので、高位悪魔と言ってもそのグレードには上限があると神藤博士は言っていたのだが。

「うおう可愛い。可愛すぎる。この子が生贄なの。もらっちゃっていいの。うわあ、城に剥製にして飾りてえ。関節つけて色々動かしてもいいなあ、デュフフ」

 オタク悪魔かよ!と心の中で突っ込んだ。

「まさか……」

震える声で神父が呟いた。

「グリモワールのなかではアスモディウスは激怒と色欲の悪魔とされています。そして人間の少女を愛するあまり彼女に取り憑ついて、彼女により付く男を次々と殺していったという記述もあります。もしかして彼にとって美少女は最高の供物なのでは……」

 つまりロリコン悪魔ってことかよ!おいおいやべえ。色んな意味でやべえ。本当にこんな大悪魔に反悪魔干渉システムが機能出来るんかい?ダメだったら一瞬で取り憑かれて生贄になって玩具になっちゃうぞ。大丈夫か神藤博士。どっかでモニタリングしてるんだろなんとか言えこの野郎。

 心で神藤博士に悪態を罵りながらも彼はやるべき事、この契約においてもっとも重要な事の進行に移る決心をした。

「あ、すいません、アスモディウスさんで…いいんですよね」

「うむ。いかにも俺が七つの大罪の一つを司る悪魔アスモディウスだが」

「アスモディウスさんがここにいるって言うことは召喚されたってことですよねえ」

「そうだ。俺にとって最高の供物を用意した召喚者には最高位の魔法を捧げるぞ。この次元を消滅させるくらいなら造作も無い事だ」

「いやそんな大変な事は今度、今度でいいんですよ、今回はちょっとその子を助けて魔法をちょいとちょい使わせていただ抱くだけで。えへへ」 

如月は我ながら完璧な交渉能力だと揉み手をしながらヘラヘラ笑って思った。

「そんな多愛の無いことで俺を召喚したのか。そんな高位グリモワールは何処で手に入れたのだ?」

「それは商売上言えないっすよ、もう」

 本物はもちろん無い。某悪魔関係のの団体の宝物とされているグリモアを超法規的手段で借りだしてデータを吸い取り、ランドセル内の仮想ドライブで実在しているかのように偽装しているいわばハッキングシステムが正体なのだった。

「まあよい。早速彼女を禊に契約を交わそう。ほら早く」

 そわそわとした口調。アスモディウスの羊側の顔が芽衣未をチラ見している。このケダモノが。ケダモノだけど。

「ちょっと待った!」

 如月は叫んだ。

「なんだ?」

「その契約ちょっと待ったっていってるんだよ」

「なんだと。召喚した以上悪魔契約は絶対だぞ。みんな次元の彼方に消し去りたいか」

如月は不敵に笑った。

「フフフ.あいにく彼女は対悪魔シールドで守られててね。あんたにゃ手も足も出せないようになってるのさ。言わば彼女はあんたらを引き寄せるための餌なんだよ」

「なんだと。対価が無くて、悪魔が操れるとでも思っておるのか。愚か者が」

アスモディウスは激高した、流石に怒りを司る悪魔と言える。

その時だった。ランドセルからヒューンと言う高周波の機会音が鳴り出し、何処からとも無く機械合成音声が喋りだした。

「ミナサンコンニチワーランドセルデスー」

イントネーションがまるでなってない、この口調は明らかに某ボーカロイドをシステムに組み込んでいるのか、あのバカ博士。

「コレカラ、契約内容ヲ超解釈シ、内蔵電力を契約の対価トシテ使用シマス」

「な、なんだってー」

 つまりこういう事だ。グリモワールを徹底研究して悪魔召喚の決まり、いうなればレギュレーションの抜け穴を見つけて、少女の命という対価を電力というエネルギーにトレードしてそれを新たな対価として無理矢理に契約を交わすのがこのシステムのコアなのだ。

「うわあ身体が勝手に。うわあ」

 アスモディウスの身体が実体化を無くして、掃除機に吸い取られるようにランドセルに取り込まれる。

「強制契約完了デスー。コレカラ魔力ヲ芽衣美様二注入シマス」

白い芽衣未のスーツが青白く発光しだす。彼女の眼の色が猫のように金色に光った。

「シークエンス完了デスー。スタンバイ」

「お兄ちゃん、いつでも出れるよ。あすもちゃん、なんか武器出して。はやくう時間ないんだよ、もう!」

「お前らゆるさんぞお。ああでも何故か命令に従っちゃうビクンビクン」

 ランドセルの中で実体を失い数値化されたアスモディウスの怒りの声がヘッドフォンから聞こえる。そんなロリコンホイホイに引っかかったお前が悪い。どうせ電池もたった三分しか持たない、三分経ったら強制的に契約解除して、お前はこの世界にいることも出来なくなるし、その間だけは召喚者の芽衣未に絶対服従するしか無いだろ。

警察丁が誇る特殊部隊SATの中の更に極秘部隊、「魔法特化隊」の初陣はこのようにして始まった。そして隊の誇る「機甲少女」誰かが呼び出した愛称「魔法少女メイミィ」の実戦投入が開始された。


「じゃあいってくるねえ。制圧開始します!戦闘シークエンスはフリーダム。初めてだもんよくわからないよね、えへへ」

 芽以未は気の抜けた声でそう告げると、その場から忽然と消えた。瞬間移動。目標地点に意思だけ飛ばした後残された肉体を消滅させ、再構成させるいわば死と生を瞬間で行う高位魔法。勿論実戦はともかく、開発段階でも実現していない。アスモディウスクラスの魔力でなければが実現はできない。

 次の瞬間に現れたのは敵が潜む倉庫のシャッターの真前だった。当然一斉に弾丸の雨が芽以未に降り注ぐ。

 如月は固唾を飲んで前線の装甲車の外部カメラが捉えた映像をモニターする。博士が言った装甲性能は本当に大丈夫なのか?直撃弾が胸元にヒット。芽以未は軽くよろけるだけで、ニコニコと笑っている。すげえ博士すげえよ。

 その直後銃弾が彼女のこめかみに直撃した。

 頭の後ろ半分が一瞬で爆発したように爆ぜる。脳漿が飛び出し、目から血の涙が流れだした。芽以未のニコニコとした表情は変わらず、ただ凍りついてる。身体は硬直した状態げビクビクと痙攣してそのまま倒れこんだ

「ええええええええ!」

 如月は発狂したかのように叫んだ。嘘だろ。頭へのプロテクト対策はなかったのか!

 しかし次の瞬間、まるでフィルムを逆回転したように芽以未は不自然に起き上がり、飛び散った脳みそも頭蓋骨の破片もまたたく間に元に戻った。

「まさか芽以未の周りだけ時間が逆行している?そんな事出来るのか?」

 アスモディウスという悪魔は簡単に時間干渉までやってしまうのか?

 芽以未本人は、撃たれたという事自体が無かった事になっているので、相変わらずのニコニコ顔。

「もうめんどくさいなあ、あすもちゃんなんかすっごい武器で一気にやっつけちゃおうよ」

「すごい武器?人間界のものか。神界級の武器を使うと、雷槌いかづちとか人類史に影響を及ぼす類のものばかりだからな。しかし人間の武器を構築召喚させたとしても、俺が前に現世に召喚された時の頃の物になるぞ、世界で戦争していて、その時の一国の総統に造ったものとか」

「なんでもいいから、バーンってなるやつ」

「分かった。召喚しよう」

 周囲が真っ白な光に包まれた。そこにいた全員の銃撃戦が止まり、眩しさからやっと目が慣れた時暗闇の中、月の薄明かりに巨大な建造物が照らしだされた。

「あれは旧ドイツ軍の列車砲グスタフです!」

ミリタリーに詳しい櫻井が大声で叫んだ。

「銃身長で約30メートル、口径80センチ、砲弾自体が4メートル近い、第二次大戦に出た化物砲です!なんでこんなのが現代に現れたんだ。こ、これもメイミィの魔法の力なんですか?魔女っ子ってこんなんでしたっけ。隊長!」

 心なしか声が震えている。当然だ。忽然と唐突に、こんな馬鹿でかい戦争の禍々しい亡霊が現れたのだ。畏れ慄いて当然の事だ。

 その巨大な砲身は水平に海外マフィアの潜むアジトの倉庫に向けられている。

「まさかあれを撃つのか」

 あんなもん撃った日にゃマフィアどころか周囲みんな吹き飛ぶぞ!ちょっとやめろ芽以未。

「芽以未やめろ撃つな!」

「えーもう三分来るからやっつけなくっちゃ魔法が消えちゃうよ。じゃあ撃つね」

「ちょっと待て! 巻き込まれる! 全員装甲車に退避。爆風に備えろ。耳を塞げ鼓膜をやられるぞ。いそげ、今にもあいつは撃ちそうだ」

 隊員が転がり込むように車両に退避した瞬間、すざましい光と共に猛烈な爆発音と爆風、そして恐ろしい量の黒煙が周囲を包んだ。これは多分絶対明日のニュースになる。コンビナートの爆発事故並だ。地響きが鳴り止まない。

 煙が流れ、周囲の状況が見渡せる状況になって如月は固唾を飲んだ。

 攻撃目標の倉庫は何もない更地になって、おまけに両隣の倉庫も完全に崩壊している。

巨大なグスタフ列車砲は影も形もなく、そしてあどけない表情でニコニコ笑っている芽以未が立っていた。

「もう魔法もあすもちゃんも消えっちゃったけど、ほら見てえ」

 彼女が指を指したところには、なぜか全員パンツ一丁でアフロパーマをかけたような漫画的髪型になった挙句、ゴホンゴホンと煙を吐いて、ロープでぐるぐる巻きになっていた。

「これはお前が魔法でやったのか」

「うん、死んじゃったらかわいそうなので、犯人全員まとめて捕まえておいたの。髪型面白いでしょ!昔のアニメ風にしたよ!」

「……そんなのできるんなら撃つ意味ないじゃん」

 グスタフの砲弾は東京湾を軽く横断して、千葉の山中に直撃したらしい。謎の爆発事故怪我人は無しという朝のニュースをみて如月は胸をほっとなでおろした。

『魔法特化隊』の初出動は想像以上に過酷で想像以上に非科学の塊だった。こんな非科学要素を犯罪抑止のために実用化しようという上層部はどうかしていると思う。何か特殊な事情があるのだろうか。

 ミッション終了後、コーヒーを飲みながら如月は肩をがっくりと落とした。

 俺ぜったいやっていけねえよ。あんな小学生のお守りなんて到底無理だ。




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