理由2
「俺と楓が養子として月野家に引き取られてから一月経った頃だ。それまで優しかった月野家の夫妻が一変した」
月野さんはグッと拳を握りしめた。見えている指先が真っ赤になっている。私は、話から内容が少しだけ分かった。おそらく、厳しくなったんだろう。口だけでなく暴力とか。セレブが主人公の話とかでは、よくある。
「ここからは、よくある話さ。月野家が引き取ってやったから恩返しくらいしろ、そうやって家のメイドや執事をやめさせて、すべての家事をさせられた」
月野さんの目には怒りが現れている。
「汚れたところがあればひっぱたかれていた」
「……」
誰もなにも言わない。一人一人の顔を見ると、苦しそうだった。そんな姿を見るのが何よりも辛い。
「そういう扱いを受けたのは、妹の楓だった。俺はずっと気づけなかった。楓が苦しんでいることに」
今まで見たこともない、これ以上ないような苦しそうな顔をしている。月野さんは怒りを静めようとしている。でも、なかなか治まる様子はない。
「ゆっくりでいいです。私たちは月野さんを苦しめたい訳じゃないんです。真実を知りたいだけなんです」
無意識のうちに私は、月野さんの震える手を握っていた。すると、だんだん震えは治まり、落ち着いた表情をしていた。彼は一つ、深呼吸をして再び話始めた。
「ありがとう。楓がそんな目に遭っていることを知ったのは財閥を消す一年前だった。そこまで気づくことができずに、楓の心はズタズタになっていた」
楓さんは、月野さんに心配させないようにしていたんだ。だから、月野さんも気づかなかった。そこまで一人で頑張って、楓さんは……私は、苦しかった。優しい楓さんは反抗や嫌な顔一つもしないでいたらしい。そんな人見たこともない。そんな彼女だったから、月野さんは余計に苦しいんだと思う。
「お前らの両親を殺したのは、見て見ぬふりをしたからだ。楓がそういう扱いを受けていたことを知っていながら、知らないふりをした」
再び月野さんの目に怒りが現れる。
「お前らを殺そうとしたのは、苦しみも知らず、幸せに生活していたから。本当に恨みだけなんだよ」
違う。月野さんは恨みだけを持っている人じゃない。だって、私といたとき、皆の話をしているとき優しい目をしていた。こんなことを言うと、生意気だと言われるかもしれない。それでも、私が思ったことを、気持ちを精一杯月野さんに伝えた。




