脱出
「どうして裏切りは起こるんでしょうか」
「大人は仕方ないんだ。いや、子供にだってある。いじめがそうだ。大人になるとスケールが大きくなっているだけで子供にも裏切りはある」
悲しくて涙が溢れてくる。普段から人と関わってこなかった私に、裏切りという言葉、事実は初めてのものだった。それもあり、苦しくなる。私も裏切られてしまったという事実が容赦なくつきつけられる。
「お前は、心に穢れがないな。人を疑わない、そのきれいな心が仇となることもある」
すごく心配されている。本当にどうして、この人は優しいんだろう。もしも、犯罪を犯していなくて、別の何かで出会えていたら、普通に友達になれたかもしれない。
「こんなことを言って信じてもらえるかは分からないが、俺はあいつらを殺さない。もう、誰も殺さない。いや、俺が人を殺したことはない」
一瞬、彼が何を言っているのか理解できなかった。人を殺したことはない、確かにそう言った。でも、実際は皆の家族は殺されている。
「俺は脅しただけだ。殺したのは、別のやつだ。俺の他にも、雇われているやつがいる」
「じゃあ、あなたは犯罪を犯していないんですか?」
その言葉には、うんとうなずかなかった。
「人を脅した、それだけで十分、犯罪にはなりうる」
この人は自分のおかした罪を、ちゃんと分かっている。それをちゃんと見つめている。絶対に悪い人じゃない、この時そう確信した。
「ここから逃げるか」
「え、そんなことをしたら」
「せめてもの償いだ。お前を傷つけてしまった」
そう言って、私を拘束していた縄をほどき始める。やっと解放された私の手は縄がくいこんで、後がついていた。
「行こう、月野に気づかれる前に」
そして、彼は私の手を握り、走った。私は彼のあとを必死についていく。手からこの人の温かさが伝わってくる。
「ついたぞ。警察はもう呼んだ。ここからは、自分で行け」
「一緒に行きましょう」
「俺は大丈夫だ。気をつけてな、如月姫華。俺の名前は速水凖だ。さあ、行け」
そう言って、速水さんは建物の中に戻っていく。
「待って、行かないで!」
「お前には待っている人がいる。行くんだ」
私には何もできない、そう痛感した。今は逃げるのが正しい、そう思った私は意を決して逃げる。一度振り返り、速水さんにお礼を言う。
「速水さん! ありがとうございました」
「ああ、気をつけてな。振り向かずに行け」
流れる涙をぬぐいながら、私は振り向かずに走り続けた。パーティー用の衣装だったので走りづらい。それでも皆の元へ急ぐ。どうにかして、皆の元へ急ぐ。どこにいるかも分からないのに、ただひたすら走る。
「姫華!」
「この声、もしかして」
前には見覚えのある人たちがいた。
「皆さん!」
嬉しさと安心感が混ざりあって、ごちゃごちゃになる。私は、重たくなった足を一生懸命に動かす。
「よかった、会えた」
「どうしてここにいるんだ。捕まったんじゃ」
「ある人に助けてもらったんです。今、警察の人が彼らの元に向かっています」
そう言うと、皆は歩き始めた。
「どこに行くんですか?」
「最後を見届けないと終われない。姫華もついてこい。大丈夫、ちゃんと守る」
城之崎さんに言われてついていこうとする。でも、足が動かない。疲れがピークに達したのだ。すると、
「え、城之崎さん……」
「おぶってやるよ」
私は城之崎さんの後ろに持ち上げられる。おんぶをされた。何年ぶりにこんなことをされただろう。恥ずかしいけど、これ以外の方法が見つからなくて、おとなしくおんぶされた。そして、月野さんの元へ急ぐ。月野さんのことを知ったらどんな顔をするか、想像をするだけで、胸が苦しくなる。月野さんのところに戻るのが少し怖くなった。




