恋愛曲
彼らの侵入未遂事件から、数日過ぎた。彼らは再び動きを見せなくなり、ほっとしたような逆に不安のような感じになっている。動きを見せないからこそ、何かたくらんで、準備をしているのかもしれないという不安が募る。彼らのことを考えていると、ドアがノックされた。
「はい。あ、一之瀬さん」
ドアを開けると、そこには一之瀬さんが立っていた。なんだろう、困っているような顔をしているような気がする。
「どうしましたか?」
単刀直入に聞いてみる。彼は少し考えて口を開いた。
「実は、歌詞を書くことになって」
「歌詞、ですか?」
ああ、とうなずいた。でも、なぜ歌詞なんだろう。一之瀬さんは小説家のはず。
「何でも、前に書いた詩が好評らしくて。歌詞を書いてみないかとオファーがあったんだ」
「そうだったんですか。わざわざそれを伝えに?」
すると、彼はうつむいて黙りこむ。何か問題があるのだとすぐに察した。書けなくて困っているとか、手伝ってほしいとか、多分、そんなところだと思う。少しして、再び口を開いた。
「問題はここからで。もう、曲は仕上がっているんだ。曲に合う詩が思い付かなくて、お前に手伝ってほしいのだが」
やっぱり。予感的中した。私の予想は、何一つ違わなかった。
「手伝います。楽しそうですから」
こんな理由でもいいのだろうか、一瞬そう思ったけど、理由としては十分だと思った。だから、その考えはすぐにどこかへ消し去った。
「いいのか? 嫌なら断ってもかまわない。何より、無理矢理はしたくない」
「大丈夫です。楽しそうなので、私もしてみたいですから。作詞」
私には、一生縁のないことだと思っていたから、興味あるし、いい経験になりそう。何せ、貴重な体験だから。
「じゃあ、頼む。俺の部屋に来てくれないか」
「わかりました」
私は部屋を出て、一之瀬さんの部屋に向かった。そういえば、初めて彼の部屋に入るかも。少しわくわくしながら歩いた。
「ここだ。そこの椅子に座ってくれ」
一之瀬さんに促され、椅子に座る。予想通り、とてもきれいな部屋だった。そして、驚くことに、部屋には数えきれないほどの本があった。私のところも相当あると思うのに、私の部屋の二倍、いや三倍はある。とにかく本が多い。広いはずの部屋が私の部屋よりも小さく見えるなんて。でも、本に囲まれて落ち着くというか、幸せ。
「で、早速だが曲を聴いてくれ」
準備が終わったらしく、曲の音源を流し始める。短調の曲だ。でも、途中から長調に変わる。聴いていると切なくなる、この曲はきっと……
「こういう曲だ」
「すごくいい曲ですね。多分、この曲は恋愛をイメージした曲だと思いますよ」
「恋愛?」
そう、あの切ない音楽。フラれたというよりは、片想いの曲。想いは届かないけど、何か進展があり、やっぱり届かないけど、また進展がある。この繰り返し。そして、最後はずっと想い続けるという感じ。
「恋愛か。少し、イメージはわいてきた。じゃあ、作ろう」
「はい。よろしくお願いします」
そして、私と一之瀬さんは作詞を始めた。




