元気づけるために
どんどん近づいてくる顔は吐息がかかるくらいの距離になっていた。反射的に目をつぶる。すると、
「……?」
何も起こらない。恐る恐る目を開けると、笑っている月野さんが目にはいる。
「何もしませんよ」
「え……」
そう言って彼は私のおでこを、ツンとつついた。拍子抜けしてしまい、変なことを考えていた私は急に恥ずかしくなる。
「何かすると思いましたか?」
「そ、そんなことは!」
月野さんはちょっとだけ意地悪そうな顔で私を見る。目を合わせづらくて、視線を外す。
「月野さんも意外といじめっ子なんですね」
わざとらしく皮肉を言う。彼は笑顔ではい、と答えた。認めるんだ、とか思いながら冗談で怒る。
「ひどいです」
今の私は多分、リスみたいになっていると思う。頬をふくらませて、月野さんを見る。彼は笑いながら私を見ている。なんだろう、すごく楽しそう。
「元気になってよかったです。最近、元気がないから元気づけてほしいと頼まれたので」
「じゃあ、さっきのはわざと何ですか?」
彼はうなずく。でも、月野さんに頼んだってことは、私って本当に元気なかったように見えたんだ。また心配をかけたことに申し訳なくなる。すぐ顔に出るタイプなのでこればっかりはどうしようもないかもしれない、と諦める。
「ありがとう、ございました。なんだか少し元気が出ました」
「それはよかったです」
こんなにもよくしてくれる月野さんの理由が急に知りたくなった。友達というだけでは、ここまでしないと私は思った。そう思い、彼に聞いてみる。
「私があなたによくする理由ですか? そうですね。友達だから、でしょうか」
「でも、それだけじゃないような気がして。なんか、別の何かがあるような」
何かある気がする。友達として見られている気がしない。今日、それをはっきりと感じた。月野さんは少し困ったような表情を浮かべ、私に笑いかける。何だろう、すごく悲しそう。
「まあ、そうですね。あなたの思っている通り、私はあなたを友達としてだけ見てはいません」
月野さんの言葉に少し驚く。言葉というか表情だろうか。さっきよりも、悲しそうな、辛そうな表情を浮かべている。聞かない方がよかったのかもしれない、今さらそう思ったところで戻れない。
「ちゃんと話しますね。聞いてもらえますか?」
「もちろんです。ちゃんと、しっかりと聞きます」
話してくれようとしている。私はしっかりと話に耳を傾ける。彼は両手を握りしめて話し出した。




