脅し
夕食をとっているときは誰一人として口を開く人はいなかった。そして、そのまま食事が終わり、それぞれ部屋に戻る。
「姫華」
「城之崎さん、どうかしましたか?」
戻る途中、城之崎さんに声をかけられた。
「こんなときに悪いが、明日、出かけないか? ちょっと気になることがあるんだ」
と、彼は真剣な顔で私にそう言った。何か大切なことだと読み取った私は、彼と約束をして別れた。明日の十時から出かける約束をした。そして部屋に戻った。
翌日、約束の五分前に準備が完了し、城之崎さんが来るのを待つ。すると、ちょうどドアをノックする音がした。
「城之崎さん、おはようございます」
「じゃあ、行くか」
それから、私たちは外に出る。今日は歩きみたいだ。外に出てから、城之崎さんは周りをキョロキョロしているばかりだった。何かを探している、というよりは警戒しているように見える。
「姫華、公園はどこだ?」
「この間のだったら……えっと、あそこです!」
今いるところからちょうど見えたので、指をさす。すると、彼は私の手を握って公園に向かって歩き始める。いきなりのことで私はオロオロしてしまう。そこを彼に耳打ちされた。
「いいから、いつも通りにしておけ」
「は、はい」
男の人と手を繋いでいるという事実に心臓が速く脈打つ。なんとか平静を装おうとする。そんなことを考えているうちに、あっという間に公園に着いた。
「座っていたベンチは?」
「向こうの噴水の前です」
そう言うと、彼は急ぎ足でベンチに近づく。そしてベンチをじっと見る。何をしているのか分からなかったけど、邪魔をしないように少し離れたところで見ていた。
「……」
「きゃあ!」
「姫華! どうした!?」
私は男の人に捕まってしまった。後ろに人影を感じたときはもう遅かった。
「捕まえた。ボスの命だ、悪く思うな」
声を聞く限り、あのときの人で間違いない。にしても、運悪く近くに人はいない。助けが呼べない。
「動くなよ。動くとこの娘がどうなるか……」
そうやって、じりじりと城之崎さんを脅す。彼は特に焦る様子もなくまっすぐに私を捕まえている人を見る。
「フンッ、女を乱暴に扱うとは紳士的じゃねぇな」
「余裕かます理由は知らないが、この娘はもらう」
その言葉に、私から血の気が引くのが分かった。怖くなって、目をつぶる。すると、
「それでいい。お前はそのまま目を閉じてろ」
城之崎さんがそう言うと同時に私は解放された。それと同時に鈍い音がした。目を開けようとしたが、今起きていることを見るのが怖くて開けられない。城之崎さんが、いい、と言うまで目をぎゅっとつぶる。しばらくして急に静かになった。
「もう開けてもいい」
ゆっくり目を開けると、そこにはいつもと変わらない城之崎さんがいて安心する。怖さから解放されて、目から涙が零れた。すると、彼は私をぎゅっと抱きしめる。
「悪かった、危険にさらすつもりはなかった」
私は、彼が謝るのを黙って聞くことしかできなかった。そして、しばらくは彼に抱きついていた。




