いたずらなお礼
ピアノを弾き終わってシンさんを見る。
「どう、でしたか?」
「やっぱり君のピアノ、好きだな。優しい音色」
彼は私に最高の褒め言葉をくれた。それがただただ、嬉しかった。
「でも、お礼がこんなのでいいんですか?」
心からそう思った。こんなに簡単なことでよかったのかと、お礼になるのかと私には分からない。シンさんは楽しんでくれたみたいだけど。
「全然いいよ。言ったでしょ、君のピアノが好きだって。それとも、何。もっと、お礼してくれるの?」
そう言って、私に近寄ってくる。
「シンさん……」
そして、、顎をくいっと持ち上げられシンさんとまっすぐ、視線があった。一気に鼓動が早くなる。何が起こっているのか全く理解できない。
「こうやって見下ろすのもいいなぁ。フフッ、顔、赤いよ。まんざらでもないのかな」
「……!」
次の瞬間、そのまま彼の顔が近づいてきた。彼の息がかかるくらいの至近距離。もう限界が来て、ぎゅっと目をつぶる。
「本当に可愛いなぁ」
そう言っておでこに柔らかいものがあたり、部屋にリップ音が響く。
「え……」
驚いて目を開けると、シンさんは私から少し離れていた。動こうにも、体に力が入らない。腰が抜けたみたいだった。恥ずかしくてうつむいていると、シンさんの笑い声が聞こえた。
「本当にキスするとでも思った? まあ、してもいいけど、そんなことしたらあとで怖いから」
「か、からかったんですね。ひどいです」
また一枚とられた。前も思ったけど、仕返しできる気がしない。うまくかわされそうな気がしてならない。それにしても、あとで怖いから、てなんだろう。私のことじゃなさそうだったし。謎は、深まるばかりだった。
「からかったのは面白いからと、昨日のことだよ」
「昨日、何かしましたか?」
「君は鈍いから気づいていないと思う。まあ、気にしないでよ。いつか、教えてあげるから」
そう言って彼は部屋を出ていった。私は一人、部屋に残されシンさんの出ていったドアを、ボーッと見ていた。すると、ドアが開き、誰かが入ってきた。
「姫華さん? こんなところに一人でどうしたの」
「佐々木さん。さっきまでシンさんといたんです」
すると彼は、なるほど、と言って私の方へ歩いてきた。そして、ピアノの鍵盤を一つ押す。部屋にはポーンという音が響いた。
「何か弾いて。もう一度あなたのピアノが聴きたい」
「構いませんけど、何を弾きましょうか?」
ここ最近で、色々なピアノ曲を思い出せたから、弾ける曲はたくさんある。
「きらきら星とかは弾ける?」
「きらきら星ですか? はい、弾けますよ。そこに座って聞いていてください」
「ここで見ていたい」
本人がそういうので、佐々木さんの隣でピアノを弾く。きらきら星は意外だった。好きなのかな、と思いながら、楽譜を思い出す。
「じゃあ、弾きますね」
そう言って、深呼吸する。そして、弾き始めた。




