好きなもの
パーティーが終わった翌日、私はシンさんにお礼がしたくて何かないかと考えていた。あまりにも何もでないので、聞き込みをすることにした。そのため、部屋を出て人を探す。
「あ、雪川さん」
「姫華さん、どうしましたか?」
雪川さん、か……! これだ!
「あの、シンさんの好物とかって何かありますか?」
「好きな食べ物でしたら、アメリカ限定のパイだと」
アメリカ限定のパイ? だめだ、さすがにプレゼントできない。限りなく不可能に感じたので、食べ物は諦める。私は雪川さんにお礼を言って、再び人を探す。すると、向かいから玲音さんが歩いてきた。早速、声をかける。
「玲音さん、シンさんの好きなお花とかってありますか?」
「お花、ねえ。興味ないみたいだから、分からないわね。ごめんね」
「いえ、ありがとうございました」
お花作戦もだめだった。本人に直接聞けば手っ取り早いけど、サプライズがいい。そう思って、気合いをいれる。そして、何かないかと考える。
「姫華さん? どうしたの、こんなところで」
「佐々木さん、あの、シンさんの好きなものって何かありませんか?」
「シンの好きなもの? やっぱりギターかな」
ギターは買うお金ないし、そもそもどれがいいのか分からない。
「分かりました。失礼します」
三人に聞き込みをしても収穫ゼロ。なかなかいいものが見つからない。そう思いながら廊下を歩いていると、今度は一之瀬さんと城之崎さんがやって来た。とりあえず二人にも何か聞こうと、声をかける。
「お二人はシンさんの好きなものって何か知っていますか?」
「シンの好きなもの?」
「俺は知らねえな」
「一之瀬さんはどうですか?」
一之瀬さんは考え込む。帰ってきた答えは
「同じく、シンの好きなものは知らないな。なぜ聞くのだ?」
理由を話すと、二人はなるほど、とうなずいた。
「すまない、力になれなくて」
「何か他にできることがあれば声をかけてくれ」
そう言って、二人は行ってしまった。結局、みんなに聞いても何もわからなかった。このままじゃ埒が明かないと思い、意を決して本人に直接聞くことにする。そして、すぐに彼の部屋へ向かった。
「シンさん、今いいですか?」
声をかけると、返事はなかった。もしかして、出掛けているのかな? 一つため息をつき、諦めて自分の部屋に戻る。戻る途中で佐々木さんに会い、シンさんのことを聞くと、仕事で外に出ているらしい。帰ってくるのが夕食の時間ぐらいなので、聞くのはそのあとにした。
特にすることがなく、部屋で本を読む。すると、誰かがドアをノックした。
「はーい……シンさん!」
ドアを開けるとそこにはシンさんがいた。帰りが夜になるはずだったのに。驚いてしまった。
「早く仕事終わったから。誠一郎から聞いて。で、話ってなに?」
「えっと、お礼がしたくて。パーティーの時の。それで何か私にできることないかと」
言うと、彼は考え込む。三十秒くらいの短い時間で、彼は答えを出した。
「じゃあさ、ピアノ弾いて。僕の好きな曲の楽譜あげるから」
何がくるのかと、ドキドキしながら待っていた私に告げられたのは、ピアノを弾くことだった。ある意味驚いた。




