本番前
私がシンさんを探しに行って、十分が過ぎた。会場には人がたくさんいてなかなか見つけられない。誰かに尋ねようとしたけど、皆、話し込んでいて結局聞けずじまいだ。
「姫華さん」
名前を呼ばれて振り返ると、佐々木さんがすぐ後ろに立っていた。
「さっきから動き回っているみたいだけど、どうかしたの?」
「シンさんを探していて、ご存じですか?」
それなら、とシンさんの居場所を教えてくれた。こんなに簡単に見つかるんなら、最初から佐々木さんに聞けばよかったかも知れないと思った。私は彼に簡単なお礼をし、すぐにシンさんの元へ向かう。と、佐々木さんに後ろから声をかけられた。
「本番、姫華さんらしく頑張って」
「佐々木さん……ありがとうございます」
深々とお辞儀をして、シンさんの元へ急ぐ。早く会いたい、会って気持ちを伝えたい、安心させたい。色んな気持ちをかかえてただ、走る。
「いた。シンさん!」
シンさんを見つけて名前を呼ぶと、彼は驚いた様子で私を見る。遠目でも見えるくらい、すごく驚いた顔をしている。まあ、あんな大きな声で呼ばれたら驚きもするだろうけど。それより、シンさんと話をするのが先だと思い、彼に駆け寄る。
「あの、私、大丈夫です。本番、楽しみましょう!」
彼は口をぽかんと開けて私をじっと見ている。すると、優しく微笑み、私をぎゅっと抱きしめた。
「その気持ちなら大丈夫。楽しく、本番頑張ろう」
「はい、よろしくお願いします!」
シンさんは私を解放して、ちょっとやることがあるから、とどこかへ行ってしまった。本番前にシンさんとちゃんと話ができて、ほっとする。そして、モチベーションも高まった。このまま本番に向けて精神統一をしようと思いながら、玲音さんの元へ急いだ。背中を押してくれた彼にもお礼が言いたかったから。
「玲音さん、ありがとうございます。話できました」
「よかったわ! そうだ、あなたに言いたいことがあったんだわ」
なんだろう、と首をかしげる。玲音さんは笑顔で言った。
「姫ちゃんは姫ちゃんらしく、ね!」
と、ウインクをしてきた。自分らしく、それが成功の鍵らしい。確かにありのまま演奏した方が、ミスが減るし、楽しい。佐々木さんにも言われた言葉。色んな人に励まされ、さらにモチベーションが高まる。
そしてついに本番の五分前になった。パーティーは時間通り進み、私たちの出番は近づく。すると、緊張がぶり返してきた。でも、さっきまでの不安はなく、逆に楽しみとすら感じた。私は仮設ステージの袖に移動した。シンさんはすでに来ていた。ピアノのセットが着々と進む。手が、震え始めた。おさえようとしても止まらず、とうとう時間が来た。




