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「お願いって言うのは、これ」

シンさんはそう言って私に一枚の紙を渡す。受け取って見るとそこには音符が並んでいた。

「楽譜、ですか?」

「うん。ピアノ弾ける?」

いきなりの問いに戸惑う。ピアノ、弾けるけどうまくはない。ピアノの先生に散々怒られてたから、正直に言おうか迷った。でも、嘘はつきたくないから素直に言う。

「弾けることは弾けます、よ」

「よかった!」

シンさんは満面の笑みを浮かべる。何となく話が見えてきた。多分、弾けって言われる。じゃなければあんなこと聞かないだろうし。

「これ弾いてほしいんだけど」

「それはちょっと……」

そう言うと不機嫌そうな顔をされた。

「訳を説明してください」

これを聞かないことにはどうにも……弾くことには違いないけど、事情次第では受けようかな、とか思う。

「今度、社内パーティーがあるんだけど僕が何かしないといけなくなって。演奏しようかなってなったから君に伴奏してほしくて」

単純な私はシンさんの頼みをきいた。私が断ったらシンさんが困るから、と。それよりも私に頼ってくれたのがうれしく感じた。受けると彼はすごく嬉しそうな顔をしてお礼を言ってきた。

「でも私、すごく下手ですよ。ピアノの先生に散々ダメ出しされていましたし。それでもいいんですか?」

そう言うと、シンさんは私の手を取って、部屋を出る。私は何が起きているのか分からず、とりあえず彼についていく。

「ピアノあるから弾いてみて。何でもいいよ」

「いきなりそんなことを言われても……」

正直、困る。持ち合わせている曲がない。ピアノなんてずいぶん弾いていないから。と、ある方法が浮かんだ。

「楽譜、貸してください」

そう言ってシンさんから楽譜を取った。そして、ピアノに向かい楽譜の音符を弾き始める。

「……」

シンさんは何も言わずにただ、じっと聴いている。弾きはじめてからはあっという間ですぐに弾き終わる。ピアノはたいして好きじゃないのに、この瞬間はすごく楽しくて自分の世界に入っていた。

「……」

弾き終わってシンさんの方を見ると、うつむいて黙りこんでいた。ダメ、だったのかなと不安になる。と、次の瞬間、部屋に拍手の音が響く。

「全然上手じゃん。僕、感動しちゃった」

「え、ダメ、じゃないんですか?」

あっけにとられる。てっきりダメ出しされると思っていたから。

「そんなわけないよ。これなら皆、楽しんでくれる」

シンさんのはしゃぐ声がする。まだ、夢のようでボーッとしてしまう。

「言っとくけど、夢じゃないから。ちゃんと現実」

シンさんの言葉で我に返る。嬉しくてしょうがない。

「嬉しいです。ありがとうございます!」

「そんなにダメ出しされてたんだ。自信もっていいよ。僕が保証するから」

ピアノでこんなに褒められたことはないから、ピアノが弾きたい衝動にかられる。私はシンさんの前で、ピアノをたくさん弾いた。彼も楽しそうに聴いてくれたから、幸せな時間を過ごした。そうして私とシンさんは社内パーティーに向けて練習を始めた。

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