約束
次の日の朝、頭の中にはいまだに昨夜の音楽が流れている。あんなに人を惹き付ける音楽ができるなら、仕事として成功しそうだと思う。逆に考えると、趣味だからこそ、ということもありそうだ。シンさんと少し話がしたかった。すると、ドアをノックする音が聞こえた。
「はーい、誰だろう?」
待たせるといけないので急いでドアを開ける。
「おはよう、今日って暇?」
ドアを開けると、シンさんがいて、私があいさつをする前に言葉を発した。
「えっと、予定はないですけど」
そう答えると彼は満足そうに笑う。いつものような意味深な笑顔じゃないということは、と安心する。
「朝食終わったら僕の部屋に来て。絶対だから」
「はい」
ものすごく念押しし、シンさんは踵を返して行ってしまった。そんなに大事な用事なのだろうか。絶対、という言葉がすごく強調されていた気がする。くれぐれも忘れないように何度も繰り返し言って、頭の中に叩き込む。そのあと、朝食の準備に向かう。
「おはようございます」
「おはようございます、姫華さん。元気そうで何よりです」
いつも通り、キッチンにはすでに雪川さんがいた。昨日はかなり心配をかけてしまったから、彼を安心させたくていつもより大きな声であいさつをする。というより、自然とそういうあいさつになった。
「昨日は本当にありがとうございました。おかげですっかり元気です!」
そう言うと彼は笑顔で私の頭を撫でてくれた。この年で頭を撫でられると恥ずかしいけど、悪い気はしなかった。子供っぽいけど、それでもいいという気持ちに自然となった。ここ最近、色々あったせいで皆との距離が近くなった気がする。私にとって、すごく喜ばしいことだ。
「そろそろ皆さん起きてくる頃ですね。私、食器の準備します」
この仕事にも慣れてきて、皆の起床時間、というか朝食を食べに来る時間が分かってきた。案の定、皆が集まってきた。今日は久しぶりに全員での朝食だ。
「いただきます」
今日の朝食はいつもよりも、さらにおいしく感じられる。食事はやっぱり皆でするのがいい。いつもよりもにぎやかな朝食を終えると、皆はそれぞれ仕事に向かう。私も片付けを終えてから自分の部屋に戻る。
「……あ! シンさんに呼ばれてたんだった」
すっかり頭の中から消えていた約束がよみがえってくる。急いで彼の部屋に向かった。ドアをノックすると中から、どうぞという声が聞こえたのでゆっくりとドアを開ける。
「すみません、遅くなってしまって」
「忘れてたでしょ。まあ、いいよ、許してあげる」
何もかもお見通しという顔でそう言われた。図星で言い返す言葉もなかったため、軽く会釈をして部屋に入る。
「今日はお願いがあって来てもらったんだけど、君の時間もらうよ」
そう言って、手招きする。私はシンさんの隣に座って頼み事を聞いた。




