シンさんの音楽
音出しが終わってシンさんが息を思い切り吸う。次の瞬間、彼の世界に引き込まれた。
「……」
綺麗な声をしている。透き通るような声、ギターとの相性がいい。それに何よりも楽しそう。今まで見たこともないような楽しそうな顔をしている。見ているだけでこっちも楽しくなってくる。最後の音を弾き終わった。私たちはしばらく動かないでいた。音楽の余韻に浸っていたかった。はっとして我に返る。
「すごいです。本当にすごいです。すみません、こんな言葉しか出てこなくて」
ありきたりな言葉しか言えない自分が嫌になる。でも、すごい以外の言葉が出てこないくらい彼の音楽に引き込まれていた。
「ありがとう。褒めてくれて」
その言葉に驚く。シンさんが素直にお礼を言った。しかも真剣な眼差しで。
「失礼なこと考えていない?」
「へ!? 決してそんなことは……」
図星だ。あからさまに動揺してしまった。でも、今はからかわない、そんな気がした。
「本当に褒めてくれて嬉しいんだよ。本当にすごいときってすごいとかしか出てこないらしいから」
すごく嬉しそうだ。人の笑っている顔って他の人にも移るんだな、そう思った。私もつられて笑顔になったから。
「嬉しいな、俺の音楽で夢中になってくれるなんて。そのまま俺に夢中にならない?」
シンさんはニヤリとする。意味ありげな笑みにドキッとする。
「なーんてね。冗談。本当にからかい甲斐あるよ」
前言撤回。やっぱり人を、私をからかうのがシンさんだ。悔しい、何とかして仕返しをしたい。やられっぱなしっていうのも私のプライドが……そう思って仕返しする策を考えるけどやっぱり何も出てくることはなかった。
「私、そろそろ部屋に戻りますね」
眠くなってきたから部屋に戻ることにした。シンさんと別れてからは音楽が頭の中を占拠していた。植民地化された私の頭の中は、音楽以外、何も存在しなかった。その日の夜は音楽の呪縛から解き放たれることはなかった。でも、楽しかった。ただただ楽しかった。




