秘書
私が月野さんと友達という関係になって、よく連絡を取り合うようになった。あの日あった怪しい人たちのことを調べてくれているみたいだが、全くわからないらしい。尻尾のしの字も出さないという。悩みは増えていくばかりで……そんなある日、私に一つの依頼が来た。
「姫華、俺と一緒に来てくれ。訳は後だ」
と、私は一之瀬さんに手を掴まれ、引っ張られる。そのまま家を出て、ずかずかと歩き続ける。一体どこに行くのだろうか。急いでいる様子だったので何も聞けず、ただひたすら後ろをついていくことしかできなかった。
五分くらい歩いただろうか。私たちは立派に建っているビルの中に入る。そしてそのままついていくとある部屋の前で止まった。そこには"社長室"と書かれている。
「あの、そろそろ教えてもらえませんか?」
「お前は今日は俺の秘書だ。いいな。事情を話している暇はない」
そして、ドアをノックすると中から入りたまえ、と声が返ってくる。一之瀬さんがドアノブに手をかけ、ドアを開ける。中には、高級そうな椅子に座った人がいた。あとそばには女の人も。
「一之瀬君だな。よく来てくれた。まあ、座りなさいあとは君も」
「はい」
短く返事をし、ソファーに腰かける。なんだか緊張する。秘書ってことは仕事の話だよね。私が聞いてもいいことなのだろうか。以前佐々木さんに言われたことを思い出す。関係ないとそう言われたのになぜ私はここにいるのだろうか。考えがあってのことかもしれないと自分を納得させ、一之瀬さんたちの話に耳をかたむける。
「今度の案なのですが、こういう風にいきたいと」
一之瀬さんは書類を取りだし、社長さんに渡す。社長さんはふむ、と言いながら書類に目を通していく。
「確かにこれはいい。しかしコストはどうする」
「それなら問題ありません。計算したところ、以前の半分に収まります」
「そうか、ではこれでいこう。ところでそこの娘は」
と、突然ふられアタフタしてしまう。どう答えればいいのだろう。秘書です?
「彼女は臨時の秘書です」
困っていると、一之瀬さんが私の代わりに答えてくれた。社長さんはそうか、とだけ言い、黙りこむ。どうしたのだろうか。急に深刻そうな顔をするもんだから不安になってくる。
「悪いが、この娘と二人にしてくれないか」
「!? ……分かりました。では私は外にいます」
一之瀬さんは驚きながら、しぶしぶ社長室をあとにする。続いて社長さんの秘書の人も出ていく。二人になったことで不安が襲ってくる。何を言われるのだろうか、それとも秘書の仕事について注意されるのか。考えれば考えるほど、思考は悪い方へといくばかりだった。
「君は彼らのことをよく知っているのか?」
突然の問いにあせる。
「えっと、よくは知らないです」
「なら、彼らの仕事のことはどうだね?」
「え、それはどういうことですか?」
仕事のこと、おそらく今までのことじゃなく、隠しているあの事だとすぐに分かった。社長さんの目がそれをよく表していたから。
「さっきのことじゃないなら知りません」
「やはり、か。君、如月姫華さんだろう。彼らと住んでいるならいずれは知ることになる」
何を言っているのか分からなかった。私の名前を知っているし。頭の中が混乱してくる。
「彼らの過去を知りたいか? さっきも言った通り、いつかは知る。どうするか決めなさい」
「私、知りたいです!」
迷わなかった。どうしても知りたい。彼らに何があったのか。壁とかそういうんじゃなくて、家族の一人として知りたかった。




