見えない壁
部屋で待っていると足音が聞こえてきた。会議が終わったとすぐにわかり、部屋から出る。廊下には皆がいた。
「終わりましたか?」
「……」
誰もなにも言わない。というより、こちらに気づいていない様子だ。もう少し近づくと佐々木さんが気づいた。
「会議、終わりましたか?」
「うん、終わったよ」
「あの、皆さんは何の仕事をしているんですか?」
すると沈黙が流れる。すぐに佐々木さん以外の人はその場から離れていく。佐々木さんは動かない。少しして口を開き、淡々と言う。
「ただの企業だよ。製品を作る会社」
「じゃあ、盗作って……あ!」
まずい、そう思ったときは遅かった。思わず言ってしまった。すると、みるみるうちに佐々木さんの表情が曇ってくる。
「会話を聞いたんだね」
静かな声色、声だけで威圧感がすごい。
「すみません……」
その場から動けなくなる。怖い。怒っている様子ではない。でも、佐々木さんという存在に圧倒される。
「君には関係ありません。私たちの仕事に入ってこないでください。では、僕はこれで」
「……」
空気が凍りつく。思い切り拒絶された。佐々木さんは踵を返し、何もなかったかのように行ってしまった。最後の言葉、私を押し退けるような言い方だった。言い返そうとしたが、できなかった。いつもの口調じゃなく敬語を使っていて。私と彼らの間には壁があると気づく。私が踏み込んではいけない領域。佐々木さんという存在がそれを物語っていた。追いかけて聞くこともできず、自分の部屋に戻る、と目頭が熱くなる。拒絶されたことに悲しくなる。確かな壁を感じた。佐々木さんから仕事のことを聞いたとき、ピンとこなかった。ということは何か隠している。思い出せないことに自分が嫌になる。見えない壁をどうにかしてなくしたい。でも、子供の私にできることなんてあるのだろうか。また拒絶されるのが怖い。立ち直れなくなりそうで……これからの生活に不安を感じる。その日、一晩中、見えない壁の打開策を考えていた。しかし、思い付くことはなかった。




