後悔
「はぁ、もう最悪だよ。あんなこと言って許してくれるわけない……」
私は冷静になると、さっきのことを後悔し始める。いくら優しくても、許してくれるわけないと思う。あんな酷いことを言われたら誰だって……
「後悔先に立たず、か」
私は、枕に顔を埋める。謝りたいけど、皆の顔を見るのが怖い。何を言われるか、本当に出ていけと言われるかもしれない。そんな感情がぐるぐると頭の中を駆け巡っている。言ったことに責任を持てない臆病者。
「姫ちゃん」
「! 玲音さん……」
どうしよう、出るべきなのか。でもやっぱり怖い。自分勝手だとは思う。ただ自分が傷つきたくないだけ。後は、皆の顔を、傷ついている、怒っている顔を見るのは辛い。
「姫ちゃん、入るわよ」
玲音さんは私の返事を聞かずに部屋に入ってくる。顔を見られないようにうつむいていた。
「姫ちゃん」
聞きたくない、怖い……
「ごめんね」
「え?」
「姫ちゃんの気持ち、何も気づいてあげられなくて」
どうして玲音さんが謝るのだろう。私が謝るべきで傷つけたのは私なのに。
「本当にごめんね」
玲音さんは私を抱きしめる。デリケートなものを、宝物を扱うように優しく。私の目からは涙が零れた。玲音さんは何も言わずにしばらく私を優しく抱きしめていた。
しばらくして私は口を開く。
「ごめんなさい。酷いことを言って」
「姫ちゃんは悪くない。姫ちゃんの言っていた通りだと思うから。うわべだけの優しさを与えられていたら辛いよね。悪いのは私たちだから謝らないで」
どうして、こんなにも優しいのだろう。皆の優しさを否定するようなことを言ったのだろう。今さら後悔しても遅い。でも、もし許してもらえるなら……謝りたい、皆に。私の気持ちをちゃんと伝えたい、知ってほしい。
「玲音さん、怒ってないんですか? あんなことを言われて」
「そんなわけないでしょ。女の子は繊細なの。こうなることだって想定外でもなかった。それにちょっと嬉しかったのよ」
嬉しい、そういわれて違和感を覚える。あんなことを言われて嬉しい? それとも違うことが嬉しいのだろうか。
「姫ちゃん、私たちに遠慮して普段、思ったこと口にしないでしょ」
「はい……」
「でも、さっきは思ったことを隠さずに言ってくれた、それが嬉しかったの。姫ちゃんはもう私たちの家族なんだから遠慮することはないわ」
「家族……」
「うん」
玲音さんは私を優しく抱きしめる。私はしばらく彼にしがみついていた。何も言わずに私の気が済むまでずっとそうしていてくれた。