すれ違い
「とりあえず、今日はもう帰りましょう」
そう言って皆は立ち上がる。私は続いて立ち上がり、お店を後にする。気まずさはピークにあり、私は何も話さずに家に帰る。他の人も誰一人会話をしない。私は皆の邪魔になっている。私さえいなければこんなことになることはなかった。皆の雰囲気を悪くすることはなかった……
「着いたよ。姫華さん、何があったのか話してくれないか?」
「……」
私は佐々木さんに言われるまま居間に連れて行かれた。もちろん全員一緒で。
「何かあった? 出掛けたくなかったとか」
「本当に何でもないですから」
「何でも言っていいんだよ」
辛い、辛い。優しくしないで。皆を傷つけてしまう、酷いことを言ってしまいそうで怖い。
「初めて会ったときに言ったよね。子供は大人に頼ってもいいって。心配しているんだ、このままじゃ何にも解決しない。何でも言っていい、僕たちは」
「さい」
「?」
「やめてください。何も言わないで! これ以上優しく、しないで」
違う、そういうことを言いたいんじゃない。違う、違うの。
「もう、優しくしないで! 辛いんです」
ダメ、傷つけてしまう、関係が崩れてしまう。もう、感情をうまく制御できない。
「皆は優しいから私に良くしてくれているんです。私のことを思ってる訳じゃない……」
涙が溢れる。何も言いたくないのに、傷つく彼らを見たくないのに口が止まらない。止められない。
「私は、私は……」
「それ以上は言わないで!」
そう、この先は言ってはいけない。言ったらもう戻れない。取り返しがつかなくなる。ここにはいられなくなる。言ったらダメ……
「私は皆と違うんです! 住む世界も何もかも。私は皆にとって他人なんです! あ、すみません、私……失礼します」
「姫華さん!」
「姫ちゃん!」
「……」
聞こえないフリして走り去る。これ以上皆を見たくない。あんな顔を見たくはない。思い切り傷ついてしまった。私はもう、一緒にいられない。こんなに醜い自分はもう見せたくない。こんな世界、来なければ良かった。皆に出会わなければ良かった。こんなに辛い思いをするなら……私は、部屋に引きこもる。ここにはもういられない、そう覚悟して。