楽しもう!
私はものすごく高そうなドレスを着ている。そして化粧も。準備が終わり、皆のところへいくと私はじっと見つめられた。
「あの、何か?」
「化けたな」
「そうだね」
「ああ」
「……」
「可愛いよ」
「姫ちゃんは元々可愛いわよ!」
皆、私を見ていた口々に感想を述べる。正直、これには参った。なんと言っても恥ずかしい。嬉しいけど、恥ずかしさには敵わない。皆も十分格好いいと思う、そんなことは恥ずかしくて言えない。ううん、言ったら十中八九からかわれる。そう、冷静に判断できた。
「よし、じゃあ行くよ」
佐々木さんの合図で皆、歩き始める。歩いていくのかな、そんなことを考えていると百メートルぐらい先に黒光りする車が見えた。まさか……
「姫華さん、どうぞ乗ってください」
「えっと、皆さんがお先にどうぞ」
「こういうのはレディーファーストだよ」
佐々木さんの言葉に皆、私をじっと見る。私は観念して雪川さんが開けてくれた車に乗り込んだ。ふかふかした座席、いかにも高級そうな生地が使われている。落ち着かない私にシンさんが声をかけてくれる。
「そんなに緊張しないでよ。それとも、意識してる?僕たちのこと」
「!?」
「そんなに顔を赤くして、可愛いなぁ」
耳元でささやかれる。それも静かな色っぽい声色で。これで意識せざるをえなくなった。そうさせた張本人を見ると、うつむいていて肩が小刻みに震えている。すると
「ククッ」
「!」
はっとする。
「可愛いなぁ、本当に。ククッ」
思い切りからかわれている。まんざらでもなかった私はさらに顔を赤らめた。他の人は気づいていない様子だった。助けを求めたいけど、多分、逆効果になるだろう。そして私が勝手に作った脳内仕返しリストがまた増えた。いつか、からかい返して形勢逆転する。そんな夢、もとい目標を立てた。意識しないように私は別のことを考える。今日練習したダンスのことを。ステップを何度も確認する。不安は大分薄れてはいる、でも心配っちゃあ心配。頭のなかにはずっと曲が流れていた。
どれくらい経ったかは分からないが、それほど経たずしてパーティー会場に着いた。その瞬間から私の心臓は爆弾が爆発するように跳ね始める。近くにいる人には気づかれそうだ。落ち着こうとしてもうまくいかない。お腹痛いかも、あと喉が渇いた。
「大丈夫だ。練習を思い出せ」
「一之瀬さん」
「そうだよ。それに折角のパーティーなんだから楽しまないと」
「佐々木さん……はい! そうですね」
二人の言葉にほっとする。そうだ、パーティーを楽しもう。じゃなきゃ折角のパーティーがもったいない。私はパーティーを楽しむことにした。