リハーサル
ダンスレッスンが始まってから三時間が経過した。初めは全く踊れなかった私も完璧とは言い兼ねるが踊れるようになった。でも、慣れていないこともあり、動きが少しぎこちないらしい。相手がリードしてくれるから大丈夫、そう一之瀬さんに言われ、うなずいたがやっぱり心配なのが本音。
「そんなに心配そうな顔をしなくても大丈夫だ。数時間にしては上出来だから」
「でも、足を踏みつけないかが心配で……」
そう、練習中は何度も一之瀬さんの足を踏みつけてしまった。本当に申し訳ない。
「大丈夫だ。足を踏みつけたくらいで相手に怒られるようなことはない」
「いえ、そういうことではなくて……申し訳ないんです。それに痛そうで」
言いながら私の語気は弱まっていく。うつむいていたら私は顎を持ち上げられた。一之瀬さんは私の目をまっすぐ見ている。恥ずかしくて逃げ出したい。そう思っている間、私の顔の温度が上昇していく。穴があったら入りたい……
「自信を持て。お前は上達した。人前で披露しても何の問題もない」
「お世辞とかじゃなくですか?」
「俺は思ったことしか言わない」
その言葉に元気づけられた。今の私にこの言葉は効果抜群だった。一之瀬さんがそこまで言うのなら、彼の言葉を信じてみようと思う。いつの間にか自信がついていた。
「よし、じゃあ最後にもう一度踊るか」
「はい!」
最後の練習だ。私は気合いを入れ直す。
「踊っていただけますか?」
「はい」
そして軽快でもって優しい曲調のワルツが流れ出す。私は一之瀬さんと練習した通り、踊り始めた。一之瀬さんって、本当にダンスが上手いな。ちゃんとリードしてくれているから楽に、リラックスして踊れる。そう言えばこうやって近くで見ると一之瀬さんはとてもきれいな顔をしている。女の私でも憧れるような肌、そして顔立ち……!? 顔が近い。どうしよう、今になって緊張が。手づたいにドキドキが伝わりそう。早く、曲終わって。
「どうかしたか?」
耳元でささやかれる。
「な、な、何でもないです!」
心臓がピークでヤバい。破裂寸前……お願い、終わって。と、一之瀬さんが止まる。
「踊れたな」
終わった!一之瀬さんは笑顔で私を見ていた。最後の一曲、長かった。本当に。曲の間、時間がゆっくり流れていた気がする。なんだか気疲れしてしまった。そんなことは一之瀬さんが気づくはずないのだが……
「後は本番残すだけだ。リラックスしていけよ」
「はい」
そして私はパーティーの準備を始めた。