叩くときは徹底的に ※今の黒野の辞書に情け容赦という言葉はありません
黒野さんのどSスイッチが強に設定されてしまったようです
薄暗い石造りの部屋の中、二つの影が向かい合っていた。ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべているガナルと、手足に枷をはめられ拘束されているソニア
ガナルが目を細めて満足そうにソニアに話しかける
「フフ、久しぶりだなソニア。穢れなき巫女の身体のままで安心したよ。そうでなくては出力が半分以下になってしまうからな」
「誰だテメェ! 俺をどうするつもりだ?!」
「忘れたのか。まぁ最後に会ったのがお前がまだ幼いころだったからな。まぁいい、お前はこれから新しい新時代の礎となるのだ。起動兵器タロスの心臓として」
「ガキみたいなことほざくんじゃねぇぞ!」
「フハハ、お前は既に私の手の内だ。明日正午!! この世界の浄化を始める。この世界の新しい時代の幕開けだ!! 誰にも止められはしない、止めさせてなるものか!! 私が、」
そこまで言ったときだった。凄まじい爆発音が火の世界に響いた。またしてもしこたま舌を噛んでしまったガナル
「んぬぐぅぅ?!」
「なんだ?! 何が起こってんだ?!」
「えぇい! なにはほほったほひふのは?!」
ガナルが通信機で部下に問いかけるが、部下からの返事はない。代わりに聞き覚えのある男の声が聞こえてきた
「オッス、オラ黒野。おげんこ? ガナル町長?」
時代錯誤した言葉が通信機からこぼれてきた
▼=▼=▼
数時間前
▲=▲=▲
闇に包まれた荒野を走る一つの影。血が出るのではと思われるほど歯を食いしばり、握り締めている掌は爪で切れ、血が滲んでいる
偉そうなこと言っておきながら、実際には何にもできないなんてお笑い種だ。三流のジョークにも劣る。何が守るだ、何が救うだ。自責の念に囚われながらも黒野は走り続ける。己の罪から逃げるように
「待ってください、クロノ」
暗闇から聞き覚えのある凛とした声が聞こえてきた。いつの間にか隣にレイリと反町長一派の神官たちが並列して走っていた
「悪いけど、時間ないんだ。手短に頼むよ」
「私たちも手伝います。これからガナルの工場を叩くのでしょう?」
「…………何で知ってる?」
「……ソニアはその巫女の力ゆえ、危険な人物として認識されていました。彼女は監視対象だったんです。私としても心苦しいものでしたが…」
「要は彼女がさらわれたのを黙って見てたってことだろう。まぁ僕も人のこと言えないけれど」
「ガナルは巫女であるソニアに次ぐ力の持ち主です。私たち程度じゃ…」
「言い訳するな。不愉快だ」
「あなたに何がわかるんですか!!」
落ち着いた彼女に似つかわしくない強い言葉がレイリの口から飛び出した。暗闇で見えないが、明らかな怒気を黒野は感じた
「私は、私は!! ソニアが傷つくのはもう見たくない……でも!! 私の力じゃどうしようもないんですよ!」
「嘆いてる暇あったら走りなよ。彼女を救いたいんだろう?」
「ッッ!」
「最終決戦だ。ガナルを殺す、君たちも加担してもらうよ。僕一人じゃ少々骨が折れるんだ、異論は言わせないよ」
「……私たちの足を引っ張らないでくださいよ?」
「いい覚悟だ。それじゃ、まずは作戦を言うけど……まずは僕が単騎でガナルの本拠地の奴隷施設に侵入、奴隷の方々を開放しつつ制圧していきます。
あなたたちは僕の補助に回ってください。敵は昏倒させて縛っておくのがいいでしょう、後々確執ができても困るので。そして手数が揃ったら工場を制圧します」
「わかりました」
と、懐が急に熱くなる。霊石を入れていたポケットだ。無視できないほどに熱くなってきたので、急停止し懐に手を伸ばす。と、目の前が突如真っ赤に染まった
黒野の目の前に炎が燃え上がっていた。炎は黒野を取り囲むように、逃げ場はなく燃え盛っている
「クソ、こんなとこで止まってる暇はないってのに」
ふと、声が聞こえてきた。黒野は自分の前で燃え盛っている炎が問いかけてきているような気がした
『汝、救う力を欲するか』
「うん」
『……………』
「……………」
即答だった
『ならばなぜ力を欲す?』
「やりたいことをするにはある程度の力は必要です。それが善であれ悪であれね。僕の今している行動は独善的で、他人から見れば偽善者の足掻きと見えるでしょう」
一呼吸置いて、黒野はしっかりとした眼差しで虚空に答えた
「でも、それでも。男にはやらなきゃいけない時というものがあるのです。今僕は彼女を……ソニアさんを救わなければならない。守ると誓った手前、男に二言はありえません。
そして……彼女にもっといろんな世界を見せてあげたい。寂しいなんて二度と思えないような人生を送らせてあげたい!」
どこまでも誰かの為に尽力する男。その生き様はなによりも美しく気高く、とても脆い。と、虚空から再び問いがくる
『汝はこの世界をどうするつもりだ?』
「ソニアさん助け、魔物を倒したら後は自由にやってくれてかまいませんよ。僕はただ魔女を助け、魔物を屠る為に使わされたに過ぎませんから」
『やはり、汝はこの世界のものではないか。名を聞かせてくれないか、異世界からの異邦人よ』
顔に柔和な、それでいて自信に満ちた笑みを浮かべ異邦人は名乗った
「黒野時継。通りすがりの喫茶店主です。覚えておいてください」
目の前の炎が消え、黒野は眼前を見据えた。意識を一瞬失って立ち止まっていたらしい
「どうしました?」
「いえ。行きましょう。勝機が見えましたよ、それも明確にね」
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行間
▲=▲=▲
「貴様! あのときの異邦人か?!」
「いえ、異世界人です。どこぞの団長が聞いたら喜ぶでしょうね、ハハハww」
「ちぃ! 何をするつもりだ?!」
「ナニって……そりゃあ、ねぇ。ちょっと世界を救うだけですよ。さぁ、勝負です。テメェが勝つか、僕が勝つか。BETしなさい、己の命運をね。さぁ、SHOW TIME!!」
楽しそうに黒野は締めくくり、銃を通信機に向けて引き金を引いた
「さて。この世界は鉄鋼業が盛んで、古来から金属加工技術が発達していました。ですがッ!!」
バキィ!
「ぐはっ?!」
「くそっ、どこだ?!」
「火薬の類は開発できなかったようですね。剣などの近接武器や鎧などの開発は圧倒的なものがありますが、銃なんて物は存在しないに等しい。遠距離武器はあっても投石やパチンコ、クロスボウ程度のものでしょう。
ちなみに電気や電波などの代わりに魔力というものを色々な媒介物などとして使っているようですね。通信魔術を組み立てるより、より早く確実に通信ができるからでしょう」
消された明かり、闇から突如襲ってくる襲撃者。襲撃などに慣れていない下っ端は恐怖に慄いた。暗いせいで誰が味方で誰が敵かわからない。適当に武器を振るえば味方に当たり、その間にも次々味方が倒されていく
「強固な鎧を作ったところで動けなければ意味がない。重武装の鎧はともかく、動かなければならないから鎧も軽く、薄くなる。そして必然的に関節や目の部分は脆くなる
そしてなにより、攻撃してくる挙動を見れなければ防御のしようがない」
バキャッ、とカルシウム質のものが豪快に折れる音がする。下っ端の膝を黒野が思いっきり蹴っ飛ばし、膝を逆方向に動くようにしたのだ。ガラン、と大きな金属が地面に落ち、下っ端がもだえ苦しむ声がする。
「隊列組んで前進するのはいいですが、後方にまで注意が要ってなかったようですね、がら空きです。闇雲に武器を振るえば仲間を倒してしまう……いやはや、恐ろしい現象ですね」
「こ、れは……」
「レイリさん、もう大丈夫なのでランプに明かりを」
レイリは愕然とした。誰も見えないほどの暗闇の中、黒野だけがどこに何があるかを確実に理解し敵だけを次々沈めていったのだ。レイリがランプをつけるとそこには意識不明ないし戦闘不能に陥った下っ端の山が積みあがっていた
「こっちだ! こっちから音がするぞ!」
地面の隠し扉が沈み込み、階段が出現した。地下に兵力を隠していたらしい、ドタドタガラガラと鎧を纏った兵が階段を上がってくる音がする
「ふむ、こういうときは、そーれっと」
階段に向かって小さな玉を大量に転がす黒野。溶岩樹の成熟しきっていない実だ。成熟しきっていない実はそのままでは小さく硬くて食べられないが、火を通すことで程よい苦味が出る。
小さなローラーが足元に転がされたのだから転倒は必然だ。下へと無様に落ちていく下っ端。
「ふむ、力自慢の人にココに大きな石でも持ってきてもらいましょうか。お願いします」
「わかりました」
大柄な男数人がその辺に転がっていた鉄球を入り口において入り口を塞いだ
「あなたは、一体……どういう修行を積んだのですか?」
「そうですね……まぁ、色々あったんですよ。さて、通信魔術は使えますか、レイリさん?」
「ええ、使えますよ」
「それでは皆さんこの地図の場所に行って待機してもらいたいのです」
黒野が差し出す紙には工場の見取り図が書いてあった。細かいところまでちゃんと描かれており、小さな文字がところどころ書いてある
「これは、いつの間に……」
「ちょいとこの前潜入したときにね、働き手の方々に聞いたりして作りました。この世界の文字は自信がありませんが」
一通り一読してレイリは頷いた。どうやら大丈夫だったらしい
「わかりました、私たちはここで待機して何をすればいいんですか?」
「今から説明します」
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行間
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ガナルの兵器工場は大混乱に陥っていた。通信妨害用の魔力が工場内に蔓延り、味方との連絡がまったく取れない。加えて工場のあちこちで聞こえる阿鼻叫喚。
じわりじわりと追い詰められていっているのが離れていてもわかる。そしてそれが着々と自分たちのところへ近づいてきているのも。大事な儀式があるから部屋に近寄るなという命令が下り、、離れてしまったのがまずかったのか
「畜生! 第一部隊は?!」
「通信途絶! 工場内に通信妨害用の魔力が蔓延しているようで…」
「くっ、全員俺に続け! 今からガナルさまのところへ向かう、途中味方を探しつつ隊列に加えながら進むんだ!」
勇み足で突き進むガナル直属精鋭部隊。と、通路の隣に置いてあった大きな機械からすさまじい蒸気が漏れ出し精鋭部隊を直撃する。大きな機械を動かすにはそれ相応の大きなエネルギーが必要となる。この蒸気の温度では火傷で済めば幸運だろう
味方部隊との合流などできるはずもなく、ガナルの部屋へ近づくころには難を逃れた隊長たった一人だった
「くそ……くそ!! どうなってる?! なぜ見知った場所でこうもトラブルが発生する?!」
「まぁ僕が全部仕組んだんですけどね」
誰だ貴様、と叫びたかったのだろうがそれは適わなかった。振り向いた瞬間口に鉄の十字架を突っ込まれたのだから
「喋らないでね。コレは銃って言ってね、人間程度なら一撃で殺せる道具だよ。コレが口の中で破裂したら……どうなるだろうねぇ?」