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心に残る鈍痛 ※辛くなったら誰かに相談しましょう。きっと力になってくれます


『おまえ、なまいきだぞ!』


『ちょうしのってんじゃねぇよ!』







『うわぁ?! なんだこれ?!』


『うわぁぁばけものだぁぁ!』






『お前も、一人なのか?』


『ヂュイ!』




 深夜。ソニアは飛び起きた。悪夢といって差し支えない内容の夢



「ッッ!! ………はぁ、ハァ……はぁ、ふぅ…」



 何年ぶりだろうか、過去の記憶が夢に出たのは。迫害され、押しやられ、気がついたらここに住んでいた。ただただがむしゃらに生きることを考えてきた、明日を生きられるか不安に駆られる毎日。




『………はい……大丈夫です……ここは?』


『変人ですので。ところで、あなたは?』


『あー……わかりました。ではこうしましょう。あなたが僕たちの寝床と食事を提供してくれる代わりに僕らは労働力と少しばかり愉快な話を提供します。どうでしょうか?』



 突然現れた謎の男。知らないが故か、自分を恐れず普通に接してくれた異邦人。焔の平原に少女連れで倒れていた変人。彼も俺の秘密を知ったら離れていくのだろうか。彼女のように






「…ニアさん? ………ソニアさん?」


「はっ?! な、なんだ?」


「どうしました? 呼んでも返事がなかったんで」


「あぁ、いや、なんでもねぇよ…」


「……そうですか、何もないならいいんですがね。ご飯できましたよ、手を洗ってきてくださいね」


「……あぁ」


  

  ニコリと笑いながら部屋を出て行くクロノ。彼と一緒にいると胸の奥がチリチリと燻るような感覚に陥る。だが、悪くない。今までこんな経験はなかっただけにソニアは知りたかった。これはなんなのだろうか。と、腹の虫が鳴る。まずは空腹を満たすことを先決とした




「今日はちょっとそこの山まで出かけてくるぜ。溶岩樹の木の実がなってるかもしれねぇ」


「美味しいんですか?」


「旨いぞ~! 一口齧ると口の中に溶岩が溢れるんだ」


「大丈夫なんですかそれ?!」



 家の玄関で籠を背負いながらクロノの連れてきた少女と話していると、洗濯を負えたらしいクロノが手を拭きながら出てきた



「話は全て聞かせてもらいました、僕も行きますよ」


「よかった、一人じゃちょっとタイヘンなんだよ。高い位置になってるの採るときとかな」


「わかりました、肩車でもしましょうか。準備してきます」


「チュー太はこの子と留守番しててくれ、頼むぞ。この家を守ってくれ」


「ヂュイ!」



 ピョコンとサイズの割に身軽な動きで答えるヂュー太。少女が若干憎憎しげにチュー太を見ている



「どうした?」


「あ、いいえ、この前このネズミが私のおやつを食べたんです、勝手に! いや、別にそのことで怒っているわけではありませんが、その後の似たようなことを起こしているところを見ると反省の色が見えないので私としてはこのネズミを一緒に留守番をするというのはいささか」


「それじゃ行ってくるね。暗くなる前には帰るからくれぐれも大人しくしててね」


「ちょ、クロノさん!」



 少女がダダをこねている間に装備を整えてきたらしいクロノが俺の隣にいた。そして涙目で懇願する少女を軽くスルーしながら俺の手を引く。手を握られたとき少し心臓が高鳴ったような気がした。






▼=▼=▼

  行間

▲=▲=▲



「クロノはどんなとこに住んでたんだ?」



 彼女は勘違いしているのだろうか。長い間一人で生きてきて、人肌の温かさを忘れ、それでも純真な心を忘れず生き続けてきた少女。突然彼女の前に現れた、無意識に欲していた人の温かさ。




黒野は少し後悔していた



「そうですね、まぁ面白味のないつまらない世界ですよ。特に話すこともないくらい特徴もないですし」


「いいじゃねぇか、そう言わずに教えろって! なんでもいいからさ、たとえば食い物のこととか!」



 黒野はまだ自分が異世界の人間であることをソニアに伝えていない。いずれは別れがくるだろう、そのとき彼女を孤独にしてしまい、大いに傷つけてしまう可能性がある。


 それよりも黒野が懸念していたのは、最悪の場合を想定したとき僕は彼女を殺せるのだろうか、ということ。何の罪も穢れもない彼女を容赦なく殺せるのか。僕の血筋は汚れて過ぎている。善行は悪行の免罪符にはならない。



「………………」


「クロノ?」


「……あぁ、何でもありません。ちょっと考え事してました」



 ただ、悪逆にまみれた者は善行をしてはいけないわけじゃない。贖罪のためとか、誰かのためとかいう偽善行為でも自己満足というわけでもない。僕は僕の欲望のままに動こう。善行であろうと悪行であろうと。




 火の世界崩壊のリミットは近づいている











▼=▼=▼

  行間

▲=▲=▲




「えぇい、早く霊石を探し出せ!! これでは計画を進められん!」



 ガナルは焦っていた。自分の計画に大きな大穴が開き、そして今になって気にする必要のないはずのイレギュラーが大きな障害となりだしたのだ。書庫を管理していたはずのディエンの裏切り、そしてあの白髪の男、クロノ。ディエンもだが、ガナルはあの男の存在が心に引っかかっていた。


 精錬された戦闘集団の中を傲岸不遜に笑いながら無傷で逃走、そして忽然と姿を消し今は探知不能。少し前に奴隷居住区に侵入者有りとの報告があったが、進入しただけだったらしい。ガナルはおそらく犯人はクロノと睨んでいた。あの男、何を企んでいる? と、ガナルの部屋に通信が入った



「なんだ?」


「書庫調査班からの報告です。奪われた霊石の代替エネルギー源にできるものがあるかもしれないとのコトです」



 ガナルはほくそ笑みながら促した



「……詳しく話せ」





▼=▼=▼

  行間

▲=▲=▲



南の荒野-------------



「ん、そこ……そこだ、その辺りだ……ひゃうっ?!」


「す、すみません……なにしろなれて、いないもの、でっ!」


「あぅっ?! だ、ダメだ、もう……俺…っ!」


「大丈夫です、大丈夫です……落ち着いて……よし、オッケー……姿勢は安定しました……」



 南の荒野に生える溶岩樹になる木の実。二人は肩車で高い位置になっている実を採取していた。先ほどの会話は肩車に慣れていない黒野がバランスを崩しかけ、ソニアを落としそうになっただけである。残念だったな、ご同輩




「沢山採れましたね」


「あぁ、ここんとこ採りに来てなかったから大量だ!」


「少し残しておきましょう。動物の分も置いておかなくてはね」


「そうだな。………なぁ」


「ここに偶然採るときに落として少し傷ついてしまった木の実があります。半分こして食べましょう」


「わかってんなぁ! んじゃ、食べようぜ!」



 黒野がマンゴーを剥くように木の実を捌いて行く。実を割ると、中からおいしそうな果汁がたっぷり詰まった実が露となった。ナイフを入れている途中にも大量の果汁が飛び出している。乾燥地に生える植物としては異常な量だ。コレも生物が生きようとする鼓動のひとつ



「そんじゃ!」


「いただきましょうか」



 二人して木の実を口に頬張ろうとした瞬間—-------




「ようやく見つけたぞ。代替エネルギーこと巫女、ソニア・インフェルナ・フレイア」



 黒野が声のする方向へ首を回そうとした瞬間、凄まじい熱風が黒野の顔に吹きつけ転倒させた。油断していた。生き物が一番油断するのは食事の最中、そこを見事に突かれたのだ



「てんめェ! 放しやがれ!! このデブ!!」


「ソニアさん!!」



 ソニアは突如として現れたガナルに腰を持たれ抱えられていた。あの一瞬でソニアを自分の手元に持ってきた、こいつ、口だけではないのか



「私をそう何度も出し抜けると思いなさんな。この日のためにどれだけの時間と労力をつぎ込んできたと思っている? いまさらムダにはできん」


「彼女からクッセえその手を離せ、薄汚れたクソ豚野郎」


「「?!」」



 ソニアどころかガナルまで驚いている。柔和で温厚な彼の口から凄まじい罵詈雑言が飛び出してきたのだから



「お前、本当に黒野か?!」


「おっと、ソニアさん、耳を塞いでおいてもらえますか? 返事は 『ハイ』 か『わかりました』 のみです」



 ソニアが耳を塞ぐか塞がないかの一瞬の間に黒野は2丁の拳銃を解き放ちガナルに放つ。だが弾丸はガナルの熱風の壁に阻まれ止まり、蒸発した



「チッ、腐っても神官ってところか」


「私は腐ってはいない!! 腐っているのはこの世界だ! だから私が作り直す、私が! 神たる私が素晴らしき世界へと」


「御託は地獄で吐きやがれ」


 止められようと関係無いと言わんばかりに弾丸をコレでもかと撃ちまくる黒野。



「んなっ?! 話くらいは聞け、えぇいもういい!! 目的は達成した!」



 再び熱風が吹き荒れ、砂塵を巻き上げ黒野の視界を容赦なく遮断する。熱風の嵐が過ぎ去った後には、ただただ静寂があった



「……………」





▼=▼=▼

  行間

▲=▲=▲




 夜。家主のいない家の一部屋に黒野は一人佇んでいた。明かりの類を一切付けず、ただただ佇んでいる。無音。と、ドアからトントンとノック音が入った



「黒野…さん?」


「……………………」



 ノックの主は少女だった。アレほど毛嫌いしていたチュー太を横に従えて部屋に入ってくる。黒野はゆっくりと振り向いた。明かりが無いせいで表情は伺えないが、少なくとも普段浮かべている柔和な微笑みはないことはわかった



「その、ソニアさんは……」


「………まなかった」


「え?」


「すまなかった。やられたよ。連れ去られた。クソデブと侮ったのが悪く出たね……」


「黒野さん……」



 黒野はソニアを守ると誓っていた。自分の油断のせいでソニアが連れ去られたのだ。まさかボスが直々に、しかも本気のパワーで出てくるとは思っていなかったのだ



「ご飯は作っといたよ。今からちょっとヤボ用に行ってくる」


「ど、どうするんですか?!」


「あのクソ豚野郎シバき倒して全身の間接720度動けるように改造して自分が今生きていることを心底後悔するくらい心をバッキバキに折り倒して」


「もうやめてー!」


「そういうことだから。全て終わったら戻ってくるから帰る準備しておいて」


「ちょ…」



 バタン、と扉が閉まる音がした。


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