獄炎舞う焔の世界 ※推奨する持参物・水筒等水分補給できるもの
さて、初めての異世界です。だーれにもーなーいしょでー
扉を通り抜けた先、広がっていたのは炎が舞う世界でした
「暑いな……さすがは火の世界、だったっけ?」
「ぜぇ……ぜぇ……そうです……暑すぎです…」
天候はカンカン照りの晴天。空気は乾燥し、蜃気楼で少し前の景色が歪んで見える。ここは火の世界。暑くて当然だ。辺りの川には水の代わりにマグマが流れ、ジュウジュウという不気味な音を立てながら下流へと流れている
見渡す限り岩と荒野しかない。仕事始め早々、こんな絶体絶命の状況に黒野達は置かれてしまったのだ
「んで、まずはこの世界の『魔女』ってやつに会わなきゃな。手がかりとかあるの?」
「はぁ……はぁ……ぜぇ」
「それどころじゃありませんってか。どーしよ。てか僕もキツいんだけどな……」
二人の額には滝のように汗が流れ、黒野が持ってきていた保冷水筒の水もすでに温水となってしまっている。右も左もわからぬ世界で、二人は着いて早々大ピンチに陥ってしまったのである
「人とかいないかな……あ、ヤバい……頭が痛い…」
ふいに黒野の視界が歪んだ。蜃気楼のせいではない。熱中症である。黒野と少女はそのまま気を失って倒れた
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行間
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「こんなところに人が……ヤバい! 助けないと! チュー太!」
『ヂュイ!』
意識を失った二人の傍へ駆け寄る人影と、大型犬ほどの大きさの動物らしきものの影。人影は動物の背中の上に二人を乗せると自身も動物の背に乗り、指示を飛ばす
「ちょっと急いだほうがいいかもしれねぇ、チュー太、急げ!」
『ヂュヂュイ!』
支持を受けた動物は脱兎のごとく走り出した。長い耳はなく、鳴き声も違うので確実に兎ではないのだが
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行間
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「ん……」
あれ? 僕はどこ? ここは誰? 額には久しぶりに感じる冷たい感触。やわらかい地面。天井のファンがゆっくりと回り、部屋の空気を循環させていた。頭を回すと隣に少女も寝ていた。穏やかな表情で気持ちよさそうに寝ている
「あ、目が覚めたかよ?」
と、自分の足元の方向から声がする。声色からして女性だろう。天井の明かりに目をしょぼしょぼさせていると額のタオルが取り替えられ、新しい冷たいタオルへと交換された。思わず身震いする
ここで黒野は自分が寝ているのは他人様のベッドということに気付いた
「どうだ? 大分マシになっただろ?」
「………はい……大丈夫です……ここは?」
顔を声のほうへ向ける。そこには燃えるような赤色をした女性が立っていた。赤い髪とは対照的な青い瞳が特徴的で、顔立ちが整っている。非の打ち所のない美人だ。イタズラっぽくニカッと笑いながらこちらを見ている
「俺の家だ。驚いたぞ、滅多に人の行かないような場所に倒れてたんだからな。俺があと少し遅れていたらお前らは死んでいたかもしれねぇぞ?」
「ご迷惑をおかけしました……恩に着ます。地獄に仏とはこのことですよ」
「気にすんな。ところでジゴク、ホトケ、ってなんだよ?」
「いえ、気にしないでください。戯言です」
黒野が言った言葉が面白かったのか、ケタケタと笑う少女。可愛い
「ハハハ! 面白れぇこと言うんだな!」
「変人ですので。ところで、あなたは?」
体を起こして正面から彼女を見る。外見10代後半だろうか。明るい髪の色に映える明るい笑顔がとてもマッチしている。チラリと見える八重歯が彼女のあどけなさを演出していた
「俺はソニア。ソニア・インフェルナ・フレイアだ。こっちはチュー太。お前はなんてんだ?」
ソニアが足元に寝転がっていた巨大な動物がこちらをチラと見た。大きさが規格外過ぎるが、形はネズミに似ている。
「僕は黒野、黒野刻継です。クロノでいいですよ」
「クロノ……不思議な名前だな。いいじゃん」
「そっくりそのままお返ししますよ。見ず知らずの僕たちのためにわざわざありがとうございます」
軽く会釈をすると、照れくさそうにそっぽをむきながら軽く頭を掻くソニア。こういった表情を見るのは黒野は大好きだ、情欲や恋愛感情を抜きにして、彼は人の笑顔が大好きなのだ。口の悪い俺っ娘か、と黒野は微妙に危ない事を考えていた
「か、勘違いするなよ? 目の前で人に死なれちゃ目覚めが悪いしな。気にするな、俺が勝手にやったことだしよ」
「いえ、受けた恩は返す主義なので、なにか僕にできることがあれば手伝わせてください。可能な限りやって見せますよ」
「あー……そんじゃあさ」
あ、なんかイヤな予感する。と黒野は思った。彼のこういった予感は大体的中するのだが
「今日は泊まっていって家事の手伝いしてくれ。久しぶり誰かとお喋りしてぇのもあるしな」
なかなかの爆弾発言を言いなさったこの年頃のお嬢さん。喫茶店主なので色々と話のネタは困らないが、さすがに年頃の少女の家に泊まるなど大人として気が引ける。黒野は色々とぶっとんではいるがモラル、分別のある大人なのだ。
「いや、年頃の女性の家に男が入り込むのはまずいでしょう」
「そうか……」
悲しげに俯くソニア。コレは卑怯である。青い瞳に涙を浮かべられると居心地が悪いどころの話ではない。
そこで黒野は逆に考えた。泊まってしまってもいいさ、と。どうせ行く当てなどない、先ほどもそれで死に掛けた。ならば、ソニアからこの世界のことを教えてもらい、足がかりにすればいい
「あー……わかりました。ではこうしましょう。あなたが僕たちの寝床と食事を提供してくれる代わりに僕らは労働力と少しばかり愉快な話を提供します。どうでしょうか?」
「そ、そうか! ハハハ! んじゃ交渉成立だな!」
ぱぁっ と言う音が聞こえんばかりに満面の笑みを浮かべるソニア。普通の男なら完全に落ちるだろうが、黒野は微笑を返すだけだった。隣で「うぅん…」と少女がうめき声を上げる。そして丁度少女が目を覚ましたところで契約は結ばれた
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行間
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少し遅めの昼食をとりながら3人は話していた。見たこともない食材、見たこともない調味料、全てが見たこともないものだったが、とてもおいしい。少なくとも黒野が住んでいた世界では味わえない味だった。
スープらしきものを口に運んでいるソニアに黒野は唐突に問うた
「不躾でなければ聞いていいかな?」
「なんだよ?」
口に運びかけていたスプーンを止め、律儀に返してくるソニア。
「ソニアさんは一人でここに住んでいるのかな?」
「あぁ。物心ついたときから俺はここで一人暮らしをしてたな。チュー太と一緒だったので寂しくはなかったぞ?」
足元で両手でにんじんらしき野菜を持って頬張っている巨大ネズミを見やりながらソニアは話す。目線に気付いたチュー太君は『ヂュイ!』と主へ向かって鳴いた。まるで『僕がずっとソニアを守ってきたんだぞ!』とでも言いたげに
「他の人とかはいないのかな?」
「ここから少しいったところに村があるな。でも…」
少し悲しそうな顔をしてソニアは眼を伏せる。何かがあったんだろう。村人と彼女の間に何かが
「最近日照りや異常気象が続いてるんだ。それが俺のせいだってよ……あ、でも優しくしてくれる人は優しいままだ、たまに野菜持とか持ってきてくれるんだぜ?」
「……そうなんだ。ごめんね、嫌なこと聞いちゃって」
「………いいんだよ。俺、魔女だからなー」
「魔女?!」
いままで食事に夢中で空気だった少女が急に反応した。まぁこの世界にはそれが目的で来たわけだけれども。それって…どうなのよ
「どういうことですか?! あなたがこの世界の魔女なんですか?!どうなんですか?!」
「え、えぇっと……」
「落ち着かんかい」
スパーーン!
いつの間にか取り出したハリセンで少女の頭をブッ叩く黒野。凄まじく景気のいい音が室内に響いた。
「痛っ?!」
「って言うホド痛くないだろ? 快音だけ発生させ痛みはほとんどないツッコミ道具『HARISEN』だ」
その光景が面白かったのか、クスクスと笑っているソニア。そして彼女はポツリポツリと語り始めた。
「ほんの少し前の話だ。大きな地震があって大地が割れ、灼熱の溶岩が溢れた。ここは大昔火山活動でできた大地、今でも活動している火山が多数あるんだが、それが一斉に吹き上がったんだ。
辺りの村々はほぼ全滅、火山灰で日差しが遮られ植物は枯れ、火山灰が去った後は強烈な日照りで海は枯れ果てた。もう人は疲れきってやがるんだ……ただただ降り注ぐ絶望に」
この世界が崩壊へと進んでいる。考えられる理由はひとつ
「魔物……」
「え?」
「そうですね、魔物の仕業と考えるのが妥当でしょう。おそらく魔女の力を自分のものとしてこの星のエネルギーを自由に操っているのです。地脈のエネルギーが不安定になっているようですね」
羅針盤を見ながら少女は言う。黒野の眼からはわからないが、どうやら羅針盤はそういうことを示しているらしい
「そっか。んじゃ、早いとこ魔女を開放して力貸してもらわないとね」
「どういうことだ?」
「いや、色々あって魔女と言う存在を追っててね。君はさっき自分が魔女だって言ってたけど、本当なのかな?」
「……いや、実は他の人が勝手に俺をそう呼んでいるだけなんだがな」
「………そうか。ごめんね、デリカシーなかったよね。で唐突だけど、野菜もらうって言ってたけどさ、その野菜もう食べないほうがいいかもしれない」
「え?」
唐突に、藪からスティックに切り出す黒野。本当に唐突すぎて少女とソニアはついていけていない
「……すまないがストレートに言わせてもらうと、君が異常気象の原因だと言うのなら君を人柱とか生贄とかのたまって、君を殺すかもしれない。魔女とか言われてるならなおさらだ」
「……………………」
悲しそうな顔で俯いてしまったソニア。だがコレは知っておかなければならないことだ。警戒しておいて損はない。行き場のない憎悪や恐れを人は、同じ人を自然に生贄としてささげると言う名目で殺し、気を紛らわせてきたのだ。それだけでは何も変わらないのに
「大丈夫、僕たちが何とかする。ソニアさんは僕が守るさ」
ニコリと笑う黒野。柔和で優しい笑みにソニアの心は揺らされたが、少女の目には恐ろしい悪人の笑みに見えた。
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行間
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時は過ぎ、夜もふけて時刻は深夜だろうか。月は出ているが、厚い雲が所々かかっているせいで辺りは暗い。ソニアと少女はすやすやと同じ部屋で寝息を立てている。
ざわ、と風が吹く。暗闇の中、遠くからかがり火がこちらに近づいてくる。かなりの数だ。そこにいる誰もが手に武器を持ち、それなりに武装している。
光の消えたソニアの家を囲み、一部の人間がドアの前へ集まる。持っていた武器を振り上げ、ドアをぶち破ろうとした瞬間
「いい夜だね。昼間はかなり暑かったけどさ、夜になると丁度言い温度だ。そうは思わないか? 招かれざる愚者共が」
「?!」
屋根の上から声がする。雲が風に流され、少しだけ明るくなった夜に目立つ白髪が浮き上がる。表情は伺えないが凍りつくような冷徹な雰囲気をかもし出し、襲撃者たちは身震いをした。
ヒョイッ、と屋根から飛び降り軽快に着地する、と思いきや
「んっしょ、っとと?! おわぁっ?!」
空中でバランスを崩し、無様に地面に落ちた。地面に積もっていた火山灰が辺りに舞い上がる。幾人かの襲撃者たちは咳き込んでいる。
「いってて………」
「な、なんだ貴様は?! 貴様は一体何者だ!!」
突如として現れた男に襲撃者たちは問いかける。何事もなかったかのようにスクッと立ち、パンパンと灰を払いながら男は言った。
「通りすがりの喫茶店主さ。覚えておくといいよ」
暗闇で見え辛いが、彼はキメ顔でそういった
「なぜこんなところに人が…」
「こいつも魔女の手下だろ?」
「一緒に殺しちまえ!」
「そうだ!」
なんか勝手に話を飛躍させて殺気立つ襲撃者たち。おそらく素人だろうか、構えが無様すぎる。白髪の悪魔はそれを見てニヤリと笑う
「フフ、いい夜だねぇ。本当に」
懐に手を入れ、ヒュバッと解き放つ。それは死と絶望に染められた漆黒の十字架。引き金を引く度に死を撒き散らす罪の結晶
「気が狂うほど楽しませてくれよ?」
2丁の大型拳銃を襲撃者に向け、黒野は心底楽しそうに笑った
「うわぁぁっぁあ!!」
「ひ、怯むなー! たたかえ……ぐはっ?!」
「い、命だけは、命だけは…ッ…………………」
悲鳴、怒号、様々な声が夜の闇に木霊する。阿鼻叫喚の地獄だった。武器は砕かれ、体を挫かれ、心を折られ。あっという間に積み上げられる敗者の山。これを絶望的状況と言わずしてなんとする
「そぅら!」
槍の様なものを振るってきた男に対して黒野は左の拳銃を槍の棒の下へと滑り込ませ、槍の勢いを殺さず上へと跳ね上げる。槍は黒野の左上のほうへ起動をずらされ、本体ががら空きになる。すかさず黒野は右の拳銃で相手の脳天に弾丸を撃ち込む。
黒野の背後から剣を持った男が襲い掛かる。隙有りと思ったのだろうが、このとき黒野の左手はフリーである。左の拳銃を相手の脳天に向け、放つ。反応されるとは思っていなかった男は撃たれ怯み、そこへ黒野がタックルをかます。男はバランスを崩して後ろに倒れ、後ろにいた仲間数名を道連れにした
行き着く暇もなく黒野の前方後方から剣が黒野の腹辺りに向かって水平に振るわれる。黒野はそれをジャンプで避け、2つの刃の上に立つ。刃の上に立ったまま黒野は両手の拳銃を残っている襲撃者に向かって乱射、そして最後に自分が乗っていた剣の持ち主二人に向かって発砲
「さて、次は誰かな?」
周りの襲撃者が一斉に後ずさる。その中で一人だけ前に出てくるものが一人。フードを目深に被り表情は伺えない。両手に刺突剣を持っており、それなりにやり手のようだ。他の雑魚とは纏っている雰囲気やら殺気やらが違う
すぅ、と2つの切先をこちらに向けてくる挑戦者。こちらも2つの銃口を向ける。ジリ、とお互いの靴底が地面を擦る
「死ィッ!!」
「ハァッ!!」
ギィン!!
鋭い一撃が黒野の心臓を目掛けて突き出される。黒野はそれを銃身で受け止め、先ほど槍の襲撃者と対峙した時と同じように後ろへ流し銃口を向けるが、刺突剣の柄でそれを弾かれる。
こいつ、できる。思ったより強いらしい。手数を重ねれば重ねるほどお互いの動きが鋭く、殺人的になってきている。幾度となくぶつかり合い、激しい火花を散らす。
「今のうちだ、魔女を連れ出せ!」
幾人かの襲撃者がソニアの家へと走り出す。どうやらこいつを囮として使うらしい。ところがハイ残念
「あんま使いたくなかったんだがな……ほい」
黒野が挑戦者の剣を一旦弾いてスキをつくり、左の腰を銃の底の部分でトンと軽く叩く。すると、ソニアの家の周りから凄まじい煙が巻き上がった。煙に包まれ、咳き込む襲撃者たち
「ゲェーッホゲッホ!! なんだこれ?!」
「これ…は……」
襲撃者たちはバタバタとその場に倒れ付していく。
「催眠ガスだよ。急場しのぎで作って仕掛けた罠だったけどさ、うまいこと動いてくれてよかった。ありがとう、いい薬です」
「クッ……」
挑戦者もガスを吸ったらしく、足取りがだんだんおぼつかなくなっていっている。あらかた襲撃者たちが倒れたのを見て黒野は大型拳銃を懐にしまう
「もう終わりだ。大丈夫、麻酔ゴム弾だから誰も死んでないし君を殺すつもりもない。眼が覚めたら朝になる前に消えてくれ、でないとあの世への直通便に乗せてあげるよ?」
「くそ……」
挑戦者は意識を失った。後に佇むは白髪の悪魔。悪魔は呟いた
「さて、今宵限りのSHOW TIME、序章はこれにて終幕。ですがお忘れなきよう、これはまだ序幕……一先ずは役者の休憩時間と参りましょう。今宵はコレにて」
ダガン!!
仰々しく虚空に一礼、そして右手の拳銃を空に向けて放った
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行間
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「昨日は何を騒いでいたんです?」
パンらしきものをほおばりながら少女は黒野に問いかける
「ん? いやなに、夜風に当たりながらロックンロールしてたよ。てかあの騒ぎでよく起きなかったね」
「寝てるときはトイレ以外じゃ起きないぜ、俺は」
「鼻がひん曲がる悪臭の中でも寝れましたし、アレくらいでは…」
「女の子が食事中にトイレとかいうんじゃありませんよ」
さわやかに朝食を楽しみながら3人は談笑していた。食卓の上にはパンらしきものを焼いたもの、スープ、付け合せのサラダらしきものが置かれている。非の打ち所のない朝食だ。ついでに言うと黒野が淹れたコーヒーも食卓に上がっている
「今日はどうしましょうか…」
「ここでずっと手をこまねいてる暇はおそらくない、だからとりあえずは町に行って来ようと思う。手がかりがあればいいんだけどね」
「気をつけろよ、町は今結構荒れてる。恐喝盗みなんでもござれだからな」
「それじゃあ一応顔は隠したほうがいいかな。サングラスじゃこの世界じゃ怪しまれるかな…」
「確かフード付きマントが物入れの中にあったはずだ、出してくる」
「手伝おう、なぜかいやな予感がする」
「それじゃ私は私で色々と準備しておきます。昨日渡しそびれた武器のこともありますし」
「頼んだよ」
二人は連れ立って席を立ち、別の部屋へと歩いていった。少女は羅針盤を取り出し、イジりはじめた。羅針盤の底の部分がスライドし、なにやら不可思議な紋様の描かれた底板が引き出される
「最初会ったとき本当に驚きました……羅針盤の針が全て彼の方向へ向くなんて……なんのでしょう、黒野という人物は……」
ソニアの家の裏手、そこに物置き場はあった。少々汚れているが、比較的きれいな外観を保っている
「結構大き目の物置ですね」
「あぁ、まぁな。1万年と2千年経っても大丈夫~♪ってのが売り文句だったかな……離れてろよ…」
「………え?」
ソニアが身構え、ドアの部分に両手をかける
「どぉぉぉッッーーーせぇぇぇぇぇい!!」
ソニアが勢いよくドアを開けるとともに凄まじい轟音が響いた。そしてあたりに舞う凄まじい量のホコリ。煙幕でもここまでにはならないであろうというほどの量だ
「あー、やっぱりなー……」
「うん、まぁ薄々こんなんだろうなとは思ってしたよウン」
ソニアは片付けられないタイプの女性だった。それから少しだけ時間が経って
「うん、大体こんなもんかな」
「スゲェ……」
雑多に物が詰め込まれていた物置は黒野の手によって綺麗に整頓され、扉を開けたらそこは土砂崩れでした、ということはなくなった。目的のフード付きマントも手に入れた
「まぁどうしても物置きとかはこうなっちゃうよね。でもたまには掃除しないとエラいことになるよ」
「エラいことになってたしなww」
「 反 省 は ? 」
「すみませんこれから気をつけます」
「よろしい」
マントのホコリをバシバシ叩いてホコリを落とし、サイズ確認。どうやらいけるようだ。自分と同じく準備していた少女のほうへ向かう。ヒョコッと扉から顔を出すと
「さて、君のほうの準備はどう?」
「え?」
絶賛着替え中、ほぼ半裸の少女がいました
「キャァァァァァァ!!」
「おっと、ごめんごめん」
色々と飛んできたような気がするが、謝罪とともにドアを身代わり、もとい閉めたので実害は免れた。
数分後、ソニアがドアを開けるとそこには、最初黒野と出会った時の格好をした少女が顔を真っ赤にして俯いて部屋の隅に座っていた
「うぅ……見られてしまいました…」
「悪かったよ、まさか着替え途中だと思わなくてさ。大丈夫、あんまり見えてない、ほとんど床しか見えてなかったよ」
「裸見られたくらいで何でそんな恥ずかしがってんだ?」
ずっと一人で暮らしてきて羞恥心というものが欠けているからなのか、ソニアは訳がわからないといった感じで首をかしげている
「後で埋め合わせするからさ、今は我慢してついてきてくれないか?」
「………あの暖かい食べ物でお願いします…」
「フレンチトーストかな? 了解。コトが済んだらたくさん作ってあげるよ。もちろんソニアさんにもね」
それから数十分後、ソニアの家から数キロ離れた場所に位置する寂れた町に二人はいた。フード付きマントには熱を寄せ付けない作用があるとソニアは言っていた。
少女も同じものを着ているが、最初ここに来たときとは違って二人とも元気でいる
「さて、酒場とか騒がしいとことかあるといいんだけど」
「なぜですか?」
「騒がしいってコトは色々と話が行きかってるってコト。町の噂や自治事情、その他色々ね。本当は僕が露店的なものを出してそこから情報収集してもいいんだけど」
「それだけ荷物は持てませんしね」
「そゆコト。まぁ適当に歩き回ってみようか」